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雪華(せつか)
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しおりを挟む去年は結局悩みに悩んでオレが決めた。
『サンタの衣装を着て、さっくんのお願いを1日どんなことでもかなえる』
衣装はさっくんに買ってきてもらって、頑張って一人で着替えた。
隠れてこっそり待ち、部屋の前で「ばあ!サンタさんだぞ!」ってさっくんをびっくりさせてやったんだった。
多分、あの表情を思い出すと喜んでくれていたと…思う。
(……懐かしいな)
さっくんとの毎日は、いつもキラキラしてる。
「……ぁ、」
小さな声が、零される。
震える声音で何かを言いかけて。
オレに躊躇いがちに伸ばした手を、下げる。
彼は眉根を寄せ、僅かに涙で目を滲ませているように見えた。
それから、その薄く形の整った唇を閉じ、噤む。
「……思いつきません。申し訳ありません」
言いづらそうに、諦めたような…やるせない表情で微かに笑みを浮かべた。
「今、何か言いかけてなかったか?」
「……いいえ、つい、間違えてしまっただけです」
「……?」
どういう意味だと、口先まで出かかった言葉を飲み込む。
拒絶を感じさせる雰囲気に、表情に、何も言えなくなった。
「と、とりあえず、だ。悪いことをしてないのに謝るのは、だめだぞ」
気を取り直そうとしたら、わざとらしいぐらい明るい声になってしまった。
腰に手を当てて、ふん、と偉ぶる。
けど、欲しいものを考えるところから楽しんでほしいのに、謝らせてしまったら意味がない。
ほんとうに何も欲しいものはないのかと再度確認するが、オレがいてくれればいいと、返事はそれだけだった。
それがさっくんが色々考えた結果出してくれた答えなんだとしたら、「…そうか」と、答えることしかできない……けど、
「……夏空様…?」
「………」
「まったく…あなたは、」
クス、と持て余したような微笑みを零すさっくんから、顔を背ける。
今は、なんとなく見られたくなかった。
「俺に欲しいものがないことが、そんなに悲しいんですか?」
「………わからない、…けど……多分、……ただ、今年もさっくんに返せることがないんだって、思っただけだ」
それに、さっくんが望むプレゼントを今年もあげられない現実に、自分に失望した。
その何も求めない思考さえ、全て最近少しだけ話してくれた過去の嫌なこととか、……自分のせいな気がしてくる。
……寂しいときのちゅーとか、ぎゅってするのとかは普段時々したそうにするのに、…オレが聞いた時には言わないんだよな。
少しの沈黙の末、「あ、」と、ふと考え浮かんだような声が聞こえた。
「…物ではありませんが、行きたい場所なら思いつきました」
「……?!!!なんだ!!?」
喜々として顔を上げたオレに少し驚いたように目を瞬き、それから華が咲くように優しく頬を緩める。
「以前お話していた水族館に行きませんか?」
「すいぞくかん?」
ひらがな感で聞き返せば、「はい。御本で見て、行きたいと仰っていたでしょう」と、だいぶ前にオレが言ったことを覚えていてくれたらしい台詞。
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