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雪華(せつか)
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しおりを挟むさっくんが買われたってことは売った張本人たちだ。
嫌な思いをさせられただろう相手に一つぐらい恨み言を言ってやってもいいぐらいで、感謝なんてしなくてもいい。
そうは思っても、…それは口を出すことじゃない気がして、ただ黙り込むことしかできなかった。
……隠しきれない重い空気を感じて、「…オレ、あんまり深く考えてなくて、……もし、今のも、嫌なこと言ってたら…ごめんな」と、無性に謝りたいような気持ちになって口をついて出た。「いいえ、…?」と、少し困ったように苦笑まじりに返される。
いつもなら、いっぱい話したいことがあるのに、
いつもなら、いっぱい聞いてほしいことがあるのに、
……頭の中がよくわからないもので溢れてて、何も思いつかない。
気まずさに下を向いていれば、…彼の指先が肌に微かに触れて、ぴくりと小さく震えた。
それによって動きは一瞬止まったけど、すぐに僅かに笑みを零したような気配とともに目の端にかかっていたらしい横髪を耳にかけられる。
「……っ゛、――ぁ、」
気遣うように、…それでいて官能的に…優美な動きで酷くゆっくりと肌をなぞられ、悪い毒を流し込まれたように体が火照る。
逆らいようがないほど、ぞくぞくと身体の芯からこみ上げる熱い疼きに堪えられず、唇を噛んだ。
「今くださったお言葉もそうですが、」と、俯いたまま動けないでいるオレに顔を近づけ、秘密を打ち明けるようにあやしく艶やかに囁く。
「先程も、とても可愛いことをしてくださった夏空様に、怖がらせてしまったお詫びと…僭越ながらご褒美を差し上げたいのですが」
耳朶を唇がかすめ、吐息まじりに低めの声音が犯す。
しっとりとした透明感のある優美な手がオレの手と重なって、指を絡められる。
「……また、…可愛いって、」
「可愛いですよ。…夏空様は、」
その続きの台詞が、また脳を侵して。
お互いの手のひらが擦れる感触に、
敏感な耳に触れる吐息や冷静なくせにやけに欲情を煽る声に、
間近で微笑む彼の表情に、
骨の髄から滲み出るような、甘美な毒が全身にまわって思考も理性も全てを奪っていく。
「……ごほうび、…?」
「はい」
頭がぼーっとして、きもちよくなることしか…『それ』しか、かんがえられない。
『それ』以外はどうでもいい。
「何をしてほしいですか?」
見上げるような角度で視線を返せば、微笑みとともに目が細められた。
…………全て、見透かされている。
だから、声にしなくてもわかっているはずなのに。
催促するように、重なっている手が僅かに擦れる。
そんな微細な動きでさえ喉を震わせてしまう。
「………て、」喉から込み上げる熱を絞り出し、けれどそれは自分にさえ聞こえないほど小さくて。
「……、オレ、…っ、を、…気持ちよく、…して、」
顔を彼の耳元に寄せて、さっくんにだけ聞こえる声音で熱い吐息を漏らす。
それに応えた彼に抱き寄せられ、言葉にならない口の代わりに…震える指先でその服を掴んだ。
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