貴方は俺を愛せない

和泉奏

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「…見つけた」

1





***


夢の世界を漂っていた。

柔らかな布団に身を委ね、心地よい眠りに落ちていると、髪を優しく撫でられる感触がした。

指先が髪をなぞるように少しだけ撫でて、そのついでのように頬に触れる。

手のひらが微かに触れ、頬に添えるようなその触り方は、……あまりにも、優しすぎて、…まるで壊れ物に触れているのかと思うほどで。

まるで心の底から愛する人が本当にそこにいるのか、確認せずにはいられない、…そういった雰囲気だった。

指先が滑るたびに、心はひどく安らぎ、まどろみの中で微笑みが浮かぶ。

それと同じぐらい、何故かどうしようもなく胸の深いところががぎゅうってなって、……少しだけ、息が上がる。

瞼を閉じたままに…さっくん、とほんの小さな声で、囁くように口にすれば、彼の指が驚いたように僅かに動く。

(……ぁ、)

離れてしまった体温を、追いかけようとし て、


「おはようございます、…夏空様」

「………――、」


オレを見下ろしてやわらかく微笑む彼に、答えられなかった。

……既に着替えた後だ。
それも、スーツ姿じゃない。

神々しく眩しすぎる容姿に、今日は服装まで完璧を超えていた。

見慣れない雰囲気。
灰色に近い白のニットが彼の黒髪と相まって、上品で洗練された印象を与えている。


「―――――……」


呼吸を、忘れる。

カーテンレースがふわりと持ち上がり、柔らかな布地が揺れた。

開いている窓から、静かに流れ込んできた外の風がふわりと頬を撫でていく。

そのことに言及できないほど、
―――あまりにも……美しい情景だった。


窓から差し込む光によって殊更に、

彼の艶やかな黒髪が、整った顔立ちが、陶器のような透き通った白い肌が、均整の取れた身体に纏っている見慣れない白色のニットと黒のスラックスが、すべてにおいて完璧すぎるほど、神秘的な美しさを醸し出していた。

覚めたばかりで碌に動かない頭は、夢の続きを見ていると信じて疑わない。

当然のごとく視線を一瞬で奪われ、その存在しか考えられなくなる。


(……きらきらしてる……、……綺麗………、)


「……夏空様?」

「……ぁ、……」


心配そうに窺う端整な顔に、…「…ぁ、いや、」と言い淀む。

………ああ、そうだ、と半分まだ眠っている頭を巡らせて、呟く。


「さっくん、……誕生日、おめでとう…」

「…っ、……はい、ありがとうございます」


「どうしたんですか?」と少しおかしそうに笑うさっくんが、…いつにも増して眩しい。


なんだろう、服装のせいかな。
……今日は…雰囲気、か……何かが、……違う、…気がする。


「御主人様は、まだ夢の中にいらっしゃるようですね」

「……ぅ…、…?」

「昨夜雪華様とのデートから戻られた後も、充分すぎるほどたくさん祝ってくださったじゃないですか」


「もう、忘れてしまったのですか…?」と、寂しそうな台詞とは裏腹にその表情は微かに意地悪で、…彼の指先が唇を厭らしく撫でてくる。

とろとろの生クリームを絡めたケーキの口移しをくりかえした成果に、そこはまだ甘くとろけた余韻を残している。


「…っ、…ん、…んぅ、…」


「もしご希望でしたら、思い出させて差し上げても良いですが…、」と僅かに低くなった声音を滲ませ、開いた唇の間にほんの僅かに指先が差し込まれる。

舌に触れない程度にしか入っていなかったのに、…それでも、びく、と小さく反応してしまう。
肌が擦れる感触に身を震わせていれば、クチュ…と音が鳴る。

(……ばか、何するんだ。出せ)

嫌味のひとつでも言ってやろうとした口は、……厭らしいことをしながら、優美に微笑む顔に負けて、…言いなりになる。

結局、熱い吐息が零れるだけの結果に終わった。

悔しく思いながらも無抵抗に身体の力を抜くと、満足そうに目を細めて抜かれる。

焦らすように唇の形に添って怪しく伝う濡れた指の感触に、…ゾクリ、と再燃するように頬が、…下腹部が熱くなる。
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