貴方は俺を愛せない

和泉奏

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「…見つけた」

16




***




「……っ、……いたい、…もやもや、する……」


ふかふかのベッドに体を預けながら、…ぬいぐるみの大きさのもふもふを、ぎゅってする。

オレの腕と身体の間に挟まれてむぎゅってなったにゃんこが、…若干の不満を示すように鳴いた。

…不快感で締め付けられていた胸が、さっくんに似た雰囲気と香りのおかげで、わずかにマシになる。

それでもギチギチと地味に痛くて熱い身体に呻く声が漏れて、……そのつらさで悲鳴を上げて涙が零れる。

察しているからか、にゃんこも無抵抗に抱き枕になってくれていた。ひんやりしていて、気持ちの悪さが少しだけ和らぐ。

……水族館に行った日から、具合が悪くなったまま数日寝込んでいる。

だからといって、気分まで滅入っているのは熱で動けない身体のせいだけじゃない。

……どうしてあんな気持ちになったのか、わからなかった。

何か酷いことをされたわけでもないのに、泣いていたらしい自分に対して、理解ができなかった。


「……ばかだなー…オレ、…」


そのせいで、困らせたじゃないか。

……家族だから、…結衣って女の人と、……オレ以上に関係が深そうで、知らない雰囲気を見たから寂しかった…のかな。


――あの後、家に着いてから、…謝った。

冷静になった頭で、…自分のしでかしたことに青ざめた。

せっかく久々に会えただろう機会に、…邪魔をするようなことをしちゃったし、…気づいたら泣いてて、あまつさえ倒れかけたオレのせいでさっくんを家に連れ戻させてしまった。

……それに、なんでかわからないけど……彼女はオレを見て怖がってた。

迷惑をかけたからか、…ただ、知らない男が近くに来たのが嫌だったのか、

他の理由があるのか、

……恐れ…に近いような表情をさせてしまったのが、…申し訳なくなってくる。


「気にしないでください。あいつが臆病なのが悪いんです」


さっくんの何気なさそうな返事に、「……そういうふうに言うの、珍しいな」と、…改めて実感させられる彼女との距離感の近さに、……思わず苦々しい本音が零れ落ちてしまう。


「さっくんが、…敬語…じゃなかったり、…相手を、わるく言う、みたいな言葉の使い方…いつもなら…めったにしないのに」


鉄にも似た味が舌の上に広がっているのを感じながら、たどたどしくぼやいた。


「……付き合いは長いので、無意識にそうなってしまっているかもしれません」

「っ、」


聞いた話では、結衣さんは資産家の令嬢で、伝手が多いから色々助けてもらったこともあるらしい。

……いつから、と追及したい気持ちを堪えて、別の問いを投げる。


「本当に……婚約…、してるのか…」

「…はい。右手の薬指に指輪もしていたでしょう?」

「俺があげたものなんですよ」と続ける彼に、…じゃあ、どうして今まで教えてくれなかったんだと、喉の奥まで出かかる。

……オレは、何も知らなかった。

いや、ただしく言えば、……ほんの少しは、知っていたってことになるんだろう。


”他の何にも代えられないほど大事で、…大切で、誰よりも、……全てを捨てて、…命と引き換えにしても失いたくない恋人”


そういう存在がいることは聞いた。

けど、…なら、……ずっと一緒にいたんだから、それが婚約するほどの仲だって、……紹介ぐらい…してくれてもいいじゃないか。

別に言う義務もないのかもしれないけど、…そもそも何もかもをオレに打ち明けなければならないってわけじゃないけど、……でも、彼女との関係に比べて、…浅いように感じる自分たちの距離に辟易する。

…それに、「………」眉根を寄せ、小さく首を横にふるふると振って払う。

あの様子だと定期的に連絡を取ってたみたいだし、…何故か気づかなかったオレも悪いけど、……オレとは教えるほどの間柄ではなかったのかと責め立てたくなる。

だって、…さっくんもそういったわかりやすい物は微塵もつけてなかったから、…婚約までしてると思わなかった。

…なんとなく、視線を動かして、…ぽつり、小さく零す。「……さっくんのは…?」何も嵌められていない場所を見ながら問えば、「失くさないように、大切に隠して保管してあります」と微笑みまじりに返された。


「……ばぁか……、…おたんこなす、まぬけ」


……その後含めた一連の流れをすべて思い出し、…むなしい独りごとを吐き捨てる。

あほ、ばかたれ、さっくんなんか嫌いだと無意味につぶやき、…だけど途中でひゅって喉にひっかかり、咳がとまらなくなって更にむなしい結果に終わった。

……このままでは、奪われてしまう。

そんな気がして、不安に駆られて。

だけど、そう思うこと自体がおかしいんだってわかってる。

家族っていっても血は繋がってないし、…所詮、オレは本当の家族にも放置されてて、…実質捨てられたようなものなんだから、…さっくんが、傍にいてくれるだけでありがたいのに、

…そんなこと、わかっているのに、


「………っ、なんだ、これ…」


瞼の裏に焼き付いた情景が、…耳に残る息遣いが、消えてくれない。

(……はじめて見た。…さっくんが…誰かと、……キスしてるの、)

心臓に残った感覚を鮮明に再現するように、…不規則で歪んだ鼓動が呼吸を乱し、悪化させる。

上がってきたように感じる熱に耐えきれず、…腕の中にいるはずのにゃんこの感触さえ遠いまま、…瞼を、閉じた。

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