貴方は俺を愛せない

和泉奏

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「…見つけた」

17(咲人side)






***


ベッドの上に、…視線を向ける。

時間軸が狂っているのかと思うほど、永遠に感じられる秒針の刻み。

……数時間前まで俺の腕に抱かれながら、虚ろに、拗ねるように話をしていた見目麗しい容姿の少年は、…夜の帳に引き込まれ、優雅に時を止めているように目を閉じて横たわっている。


「どうして、貴方はこんなにも長く…眠ってしまうのでしょうね」


いつもなら返ってくるはずの返事はない。
零した声は、…暗い室内の静寂に溶けて、意味をなさずに消えていった。

彼は、毎日決められた時間になると、…本人の意思とは関係なく夢に誘われて意識を失ってしまう。

……まるで、古い御伽噺の中で眠り続けるお姫様のように。

もう二度と、…声を聞くことすらできなくなるのではないかと、…どうしようもなく不安を抱いてしまうほど。


「約束を破ったのに、叱ってくれないんですか…?」


”さっくんが他の女とキスするのは嫌だ”って、言ってたのに。

周囲の色彩が薄れるような不快な感情に、嫌悪感が滲む。

……会わせるつもりはなかった。

俺と彼女の関係を見られたくなくて。
彼女の望む通りに唇を重ねたのも、夏空様には絶対に知られたくないことがあったから、…仕方がなく、しただけだ。

相手の都合が良いように、望むものを与える。
そういう日常に慣れすぎて、…幼少期の頃には残っていただろう抵抗感も、今ではほとんどない。

その何の意味もない行為も、穢れきっている思考にさえも、動かされるはずの心を失った結果、ただ空虚な静寂だけが内側を満たしていた。

重苦しく陰鬱な闇に包まれた豪華な洋室の中で、静かに座ったまま、目を伏せる。


「……夏空様」


当初に比べて、…随分と口に馴染んだ敬称。
数秒の間躊躇い、…ひどく緩慢な動作で腰を上げて、…ゆっくりと近づいた。

いまだに瞼を閉じたまま眠る姿を見下ろして、もう一度、同じように呟いた声に、…想定していたよりも感情が滲む。

ありえないとわかっているのに、…こっちを見てほしくて。…俺を、…その目に映してほしくて、…かけた言葉に、当然ながら彼は応えてはくれない。

その頬に触れようと、手を伸ばす。

…何の価値もないとわかっている。
意味をもたないこの行為に、…得られる結果は既に決まっている。

…頭では理解しているのに、「……起きてください、」と、自分にも聞こえにくいほど小さく、祈るように囁く。


今、貴方が…目を覚ましてくれたら、
まだここにいても、赦される気がするから。

……お願いです、夏空様、と僅かに震えているような声が、…酷く情けなく響いて。


「そうなれば、……俺は…悪いことをしないでいられるかもしれないのに」


虚しく零れ落ちた言葉に、…行く先はない。
結局、…指先すら掠めることもできずに、……手を下ろした。

柔らかな月の光が差し込む窓辺のカーテンの影が、かすかにゆらめく。
それを無機質に見下ろしながら、…少しして、諦めて息を吐く。

……これ以上待っても、無駄な時間にしかならないのは明白だった。

ベッドに背を向けて、歩き出す。

扉の前で立ち止まり、……追いかけてくる気配がないことに、…一瞬だけ微笑むようにして顔を俯かせた。

別の場所に向かうために、静かに扉を開き、その先へと足を踏み出した。

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