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「…見つけた」
18(夏空side)
***
あれから熱が下がった後も、なんとなくさっくんを避けていた。
……別に、大した理由があるわけじゃない。
でも、…前みたいに接することができなくなった。
さっくんのことだから、察していないわけがないのに。わざと気づかないふりをしているのか、普段と変わらない態度で――、
「ねー、そら」
……と、すぐ隣から聞こえる声と腕に触れる手の感触に、意識を戻された。
「今日はおうちでぇとだから、いっぱいイチャイチャできるね」
オレの肩にもたれてくる雪華に、「…うん、」思考半分で頷く。
家に遊ぶものがないと知った雪華が、長方形の薄い機械?みたいな物を持ってきてくれて、そこに映る映像を二人で見ていた。
親に虐待されている少女が、ある少年と出会い、…救われる話。
家に帰りたくなくて、夜に危ない場所を彷徨っていたところを、偶然見かけた少年が声をかける。
手が軽く触れかけただけで震えて、身体のあざを隠そうとする少女の様子を心配した少年が、明日もここで話そうと提案し、次第に二人は心を通わせていく。
そうして、帰るたびに段々酷くなる暴力に耐えきれなくなった少女が「私を連れ去ってほしい」と少年にお願いし、周りからすれば駆け落ちのような形で二人は逃げて、
「そらのばか!」
間近で怒った声とともに、「あ、」縦長の機械を取り上げられてしまった。
奪われた方向を見て、…しまった、と反省した。
「せっかく遊びに来たのに」と悲しそうに俯く雪華に、「……ごめん」と謝る。ドラマに夢中になって、全然相手をできていなかった。
「も~~、私が好きでおすすめしたやつだから強く言えないけど…、これも結構話題になってたのに知らなかったんでしょ?前から思ってたけど、ほんとに夏空って、異常なぐらい隔離されてるよねぇ…」
「隔離?」
「だって、携帯もタブレットもテレビもパソコンも、外のことがわかる物がひとつもないし知り合いもいないし連絡手段もないし、…これじゃあ、夏空自身が誰かに助けを求めたりできないように監禁されてるみたい」
もう終わり、と言いながら、彼女の指によって、音を鳴らしていた機器の電源が落とされる。
真っ黒になった機械と、それに伴って室内を賑やかにしていた音が消えた。
「考えたこともなかったって顔」
「…っ、」
「教えてもらってないから、何にも知らないんだもんね、夏空は」
かすかに同情するようにオレを見る雪華に、ゆっくりと目を瞬く。
まるで、オレにはわからないことをわかっているとでも言いたげで、「どう、いう意味、」怪訝に問いかけた。しかし、彼女は一呼吸おいて「なーんてね」とはぐらかすように首を横に振る。
「咲人さんだもん。夏空に酷いことはしないよ、きっと」
「当たり前だろ。それに、さっくんはオレだけじゃなくて、誰にでも綿菓子みたいに優しいから、絶対にしない」
酷いことどころか、監禁なんてするわけない。
そういう意図じゃないとはわかっていても、…さっくんが悪く言われてる気分になって、断言して反論すれば、彼女はすまなそうに笑う。
「でも正直に言っちゃうと、監禁でも羨ましいな。実際、このお家ってかなりの豪邸だし、外装は勿論内装も全部芸術品みたいで、その机も椅子も、このソファーも私の家にある物より高い価値がありそう。御父様が見たらびっくりすると思う」
たしか、雪華の御父様は高価で貴重なアンティークのコレクターだと以前話していた。
代々富裕層の家系で、気に入ったものには金に糸目をつけないと評判らしい。
「そんなに凄いの?」
「うん。ここにある物、相当価値の高いものばかりだから、みんな欲しがるんじゃないかなぁ」
周りを見渡しながら、しみじみとした表情で口にする雪華に詳しいなと感心しつつ驚く。
そういうのに疎いから、そこまで言うほどの物の上に今座っているのだと、…当然のようにここで過ごしていた自分が恐ろしくなってきた。
なんだか場違いな気がしてきてしまう。
「でも、富裕層のコレクター同士の集まりでは、どんなに美しさを讃えられる美術品や芸術品も咲人さんには敵わないって言われてるのをよく聞くみたいだけど」
「……?…なんで、さっくんが…」
いくら考えても接点が、というか富裕層なら猶更、一目見る機会すらなさそうな人たちなのに。
どうして、と戸惑いを隠せずにいると、「うーん、なんて言ったらいいんだろう…」若干言葉を濁すように、口をもごもごさせる。
「…コレクターの間で、写真がまわってたこともあったぐらいだから」
「……………」
喉の奥で、歪な空気を吸い込んだ。
……ようやく数分後ぐらいにまわり始めた思考で、「……え、…さっくん、の?」…いや、まさかと、そうじゃない方であってくれ、と微かな望みをかけて聞く。
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