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「…見つけた」
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けど、…彼女は「…うん」と気まずそうにうなずいた。
「どんな写真かまでは見てないけど、……咲人さんを、…いくらで買えるか、って、…全財産をはたいてもいいとか、現実味がないほど桁外れに高額な価格の話まで出てた、…って、…………、ごめんね。夏空に聞かせることじゃなかった…」
オレの方を見た雪華が視線を下げ、静かに息を吐いた。
背中を這いあがった寒気が、…全身を襲って手足から温度を失わせていた。
言葉にならない衝撃が全身を包み込み、頭の中が真っ白になる。冷たい水に突き落とされたように、全ての感覚が麻痺していた。
あまりにも受け付けたくない言葉に、喉の奥が詰まり、何も発することができない。
水族館の時に多少はその苦労がわかったと思っていたけど、……かなり、自信過剰だったみたいだ。
どうして、…みんな、人を物みたいに買うとか、売るとか…明らかに人間扱いしていない、…自分の都合良く、意思のない物として扱っている類いの話を、そう簡単にできるんだ。
周囲の音が遠ざかるように胸は激しく高鳴り、呼吸は浅くなる。
眩暈にも似た感覚に、…頭が痛くなってくる。
………まさか、その話の中の一人がオレの両親のどちらかじゃないだろうな、と一種の恐れが過る。
「なら、これだけ高価なアンティークを揃えられるオレの両親は、金持ち…なのかな」
「んー、それはもちろ、………って、…え、ちょっと、…あの、夏空…?…もしかして…、ここの所有者も知らない?」
ありえない、と口にしないまでも同様のことを訴えている雰囲気に、「何を?」と先を促す。
「ここは咲人さんが買った家だよ」
「………え…?」
てっきり、両親が準備したんだと思っていた。
オレが邪魔で、でも死なれても困る親が…さっくんを買ってオレに関するものすべてを押し付けた場所。
だから当然、考えるまでもなくその時にこの家も用意したんだろうって信じて疑わなかった。
「それも、数年前に一括で支払ったみたい。あの”一之瀬”の息子だもん。最上流階級の御令息なんだから、できてもおかしくはないけど、でも…金額を考えたらあの若さですごいよね」
「…最上流階級の御令息…?………一之瀬、…って、」
だれ、?
聞き覚えの無い、かつ、初めて知る誰かの苗字らしいものに、…混乱するどころじゃなかった。
雪華とも長い期間一緒に過ごしたのに、…こんな話はしたことがない。
「それも知らないの?咲人さん、そのぐらいは話してると思ってた。御父様…一之瀬 清隆さんはテレビや雑誌で見るぐらい有名だよ」
「………しら、な…」
情報量が多すぎて、今座っているはずの自分の感覚すら歪んで、支えていられなくなりそうだった。
「………夏空、顔真っ白………だいじょうぶ…?」
「……うん、」
”一之瀬”の単語を聞いた瞬間、…何故か異様な吐き気を催しながら、小さくできる限りの返事をする。
「あ、あのね、ごめんね。全部知ってて一緒にいるんだと思っちゃって、」
「……いや、」
倒れるとでも思っているのか、「ベッドに行く…?」心配してくれる雪華に、首をふるふると微かに振る。
それより、と汗が滲むのにも構わずに食い下がった。
「なんで、…さっくん、が……その、…一之瀬、っていう人の息子…?苗字が、違うじゃないか」
以前、さっくんは買われたと言ってた。
今聞いた情報だけでも多くの資産を持っていそうな父親が、子どもを売るなんてありえないだろうと、懐疑的に絞り出す。
それに、…もし裕福な家庭の息子で、…所謂、さっき言ってたような最上流階級の御令息っていうなら、…執事なんてさせられるわけが、
「咲人さんの御母様は、結婚してないの」
「………、」
彼女の言葉を耳にした瞬間、胸に冷たいものが走る。
不吉な予感が確信に変わる嫌な感覚と、…もう既にわかっているくせに「…結婚して、ない…?」震える声を抑えきれない唇が、明確な答えを欲しがっているように動く。
返事に窮して喉を詰まらせた雪華は、伝えるのをためらっている様子だった。
その手が、太腿の上を覆うスカートを皺ができるほど強く掴んでいる。「えっとね、…ちょっと………言いにくいんだけど…」言葉を選びながら、目をそらして、
「婚外子だから、苗字は継いでないんだよ」
そう、口にした。
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