貴方は俺を愛せない

和泉奏

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雁字搦め

5(結衣side)








***


窓辺から差し込む柔らかな月の光が、部屋の一人掛けソファに影を落としている。

その王座の如く優雅なソファには一人の男性が静かに腰を下ろし、まるで人形かと錯覚するほど、時の流れを超えた存在のように佇んでいた。

彼は、……咲人は、彫刻のように完璧に整った顔立ちに加え、思わず唾を飲むほど白い首筋と、均整の取れた美しい身体つきをしている。

例えるとしたら芸術作品の一部のように完璧なバランスを保ち、細身ながらも適度に筋肉がついた腰回りは無意識に目を惹き、些細な仕草ひとつでさえもすべてが計算されているように上品さと優雅さを兼ね備えている。


(…この光景を、…この人を、永遠に閉じ込めておけたらいいのに…)


胸の鼓動が速まり、手のひらに汗が滲むのを感じながらも、抗えない魅力に引き込まれてしまう。

…彼のために、…咲人のためだけに特別にあつらえた部屋。

私でさえもこの神聖な空間を侵すことには抵抗を覚えるほど、隅から隅までこだわって丁寧につくらせた。

その室内で、彼は本を片手に持ち、文章を読むために伏せた長いまつ毛は、静かに影を落としている。

表情の読めない佇まいは、神秘と威厳を漂わせ、…見る者の想像力を掻き立ててくる。

何度見ても、彼の姿は…ただそこにいるだけで視線を奪い、その圧倒的な美貌と存在感はまさに理想的な男性像だと思い知らされる。

……咲人専用の部屋にいる彼を見るのが、好きだった。

だって、ここは咲人の居場所で、彼がいることで初めて意味を持つ場所だから。



「ねぇ、咲人」

「何?」

「あの話、聞いた?」


彼が座っているソファのひじ掛けに邪魔にならない程度に尻を乗せて、ひっそりと声をかける。

…と、咲人が続きを促すように私を見上げてくる。

その見上げる顔にでさえ、…目が合った瞬間、世界が静止したかのように感じ、心の奥底から熱いものが湧き上がった。 

ドキドキしながら、「妃 澪ちゃん、…覚えてる?」と、話題を投げる。


「彼女、蒼くんとついに結婚するらしいわよ」

「……へぇ。…かなり執着してたから、もうしてると思ってた」


言葉だけは意外そうな感じを含んでいるのに、顔からは一切その感情を読み取れない。

私との会話にそれだけ気を遣わなくていいと思ってくれているのは嬉しくもあるけれど、…少しぐらい、婚約者との会話を楽しもうというやる気を見せてくれないかしらと内心不貞腐れたくなる。

そう考えている間に、…話に対する興味を失ったのか読書に戻ってしまっていた。

強引にでもその視線を奪い返したくなる気持ちを押さえつける。


『私も、…一秒でもはやく…咲人と結婚したい』


そう、口から出かかるのを止めて、…やれやれと息を吐く。

あの粘着質で厄介な性格の澪ちゃんに負けないぐらい…彼女が蒼くんに一目惚れしたのと同じぐらいの歳から私も咲人にそういう気持ちを抱いていた。

私だって、有象無象の女達に奪われる前に私のものにしてしまいたくて焦る気持ちはあるけれど、面倒な女だと思われるのは避けたい。

……あそこまで露骨に態度に出して、男女問わず牽制して(ただ父の仕事の付き合いでお茶会に参加しただけの私にまで牽制してきた)、彼は私だけのモノ♡好き好き♡ピンクオーラを出すのはまともじゃないし、ああまでするのは恥ずかしいというプライドもある。

(…私は、あんなふうに強引に、縛ったりしない)

無理矢理じゃなくて、心から咲人に私を想っていてほしい。…愛していてほしい。

……その証拠に、今ではもはや当たり前のようにそこにある。

右手の薬指に嵌めている婚約指輪を別の手の指で触れて、…確認して、…うっとりと熱い息を漏らす。


「ねぇ、どうして私に黙っていたの?」


何をとまで言及しなかったのに、思い当たることがあるのか彼は言い返さなかった。


「あの男の子のことよ」

「……」


どれほど待っていても告白する気配がまるでないから、…我慢できずに、私から口を出すことにした。


「何故、隠していたのかがとても気になるわね」


答えようとしない咲人に気を揉みながら、…硬くなった身体を落ち着かせた。


「敬語なんか使っちゃって、…まるで…執事の真似事でもしているみたいだった」


少年の頃から彼を知っているからこそ、…ずっと傍で見てきたからこそ、…あの高校生ぐらいの男の子への態度に違和感を覚える。

絶対に他人に仕える性格じゃないくせに、と付け加えて…想起する。

もしあの場に私がいなければ、今後も隠し通す気だったのだろう。

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