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雁字搦め
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でも、…どうしても、あれ以来一緒にいられなくて、…今も、そうだ。
この距離で目が合うと、自分でも理由はわからないけど、…見つめられることに耐えられずに顔を背けてしまう、…から、…だから、さっくんが困ってるのはわかったうえで、…傍に戻る機会を失ってしまっていた。
「気にしてくださっていたんですね」
「っ、あ、…当たり前だ」
「……でも、そう…ですね。それも、あるかもしれません」
無理をしているように微かに笑って、オレの手に重なっている彼の手が、壊れ物を扱うように優しく握ってくる。
でもおそらく、この反応だとオレに関することじゃない何かがあったんだろうと…なんとなく思った。
「さっくんが、そういう、…雰囲気…になるまで、…お酒飲んでるの…めったに見ない、から。……嫌なこと、とか、あったなら……」
「……それは、夏空様の方でしょう?」
緩く口元に笑みを滲ませる彼が、…オレの頬を指先で優しく撫でる。
ただ触れるだけではないその動きに別の意味を感じて、なんだっけと数秒考えて、思い出した。あ、と声を漏らす。
さっくんのことで忘れてたけど、泣いた跡が残っているのかもしれない。
今はそれどころじゃない。急いでぐしゃぐしゃと袖で頬を拭って、「っ、オレは、ちょっと怖い夢を見ただけだ」と早口で言ってのける。
「それより、」少なくない量を飲んだとしても酔わないし、見た感じも酔っていると全然わからないさっくんが、これだけ見てわかるほどにお酒を飲むことなんかなかったのに。
何故か、その事実以上に別の悪いことが絡んでいる気がして、どうしても心配になる。
「さっくんに比べたら、…オレにできることなんて、…ほとんどないかもしれないけど、…だけど、何でも力になるから、」
「…些細な事です。……ただ、俺も怖い夢を見てしまっただけですよ」
はぐらかすように目を逸らすさっくんに、…嘘だろ、と言いたい気持ちに駆られた。
オレが役立たずなのは今更だし、わかってる。
わかってるけど、…そんなにつらそうな、泣きそうな顔をしているのを、放ってなんておけないし、…知らないふりをするのはもっと嫌だ。それに、隠されるのも嫌だ。
……さっくんはいつもそうだ。
オレが困ってる時には強引にでも聞き出すし、言葉通りの意味で本当に『何でも』して、結局全部解決してくれる。
それに、…綺麗とか、可愛いとか、美少年がなんたらとか、そういう余計で恥ずかしいことはあんなにさらっというくせに、…こういうことは意地でも言わないし、…大抵ごまかそうとする。
「…わかった。夢のせい、なんだな」
しょうがないから、その嘘に付き合うことにした。
諦めて息を吐いて頷くオレに、…さっくんは目を細め、「はい」と視線を下げて微かに笑みを零す。
だけど、このままにはしたくない。
意を決して、「なら、」と少し明るく声を張り上げる。
「いつもの、幸せになるおまじない…してやる」
さっくんを見上げたまま、ばっと両方の手を大きく広げた。
……けど、ちょこっとだけ、怖くなった。
さっくんには婚約者がいるから、オレからの、…こんなのはいらないかもしれない、って考えてしまった。
なんか自分で提案したくせにちょこっとだけ、今のは上から目線すぎた気がしてうざいかなとか色々考えた結果、「……ぁ、……う、………してやる、じゃない、…な…。…ん、……んー……、する、ぞ…?」むむ、うぐぐ、なんといえばいいかいっぱい頭を悩ませて、結局そんな感じの言い方になった。
きっと、最近ずっと避けまくってたくせにと思われるだろう。
その何かがあったんだろう時に、多分傍にいることができなかったオレがやっていいことかも、言っていいことなのかもわからない。
でも、ちょっとでも、…元気になってほしかった。
さっくんが紙にんぎょーを操るのを見て羨ましくて、(今思えば自分でも子どもすぎるとは思うけど)オレも一緒にできないことが悲しくて落ち込んでた時に、教えてくれた。
……これがオレのできる最高の魔法だって前にさっくんが言ってくれたから。
だから、ちょっとでもあの時みたいにさっくんが幸せを感じてくれるなら、何十回でも、何百回でもするんだ。
「こ、今回に限っては、さっくんだけじゃなくて、怖い夢を見たオレもぎゅってしてくれたら嬉しくなれるからなっ」
恥ずかしい感情を隠すように付け加えて、ぷいっと顔を背ける。
さっくんがこういう感じになるのは、ほんとに時々だけど、…特に夜に近づくにつれてとか、…あとは寝起きに、こうなることがある。
大人の男って感じに、余裕で澄ましてるいつもの態度とは違って、……完璧すぎる彼の裏側にある人間らしさ、その儚さを見せつけられているようで、胸がざわつき、ぎゅぅってなるくらい庇護欲を掻き立てられるような感じだから、すぐにわかる。
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