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雁字搦め
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***
「それで考えた?ここから出るかどうか」
「……んー…、…まだ、悩ん、…ぅ゛っ、…で、っ、……ぅ…っ、んん、…ぅ゛…ぁ…ッ、」
押し倒されるようにして柔らかな絨毯の上に身を横たえたまま、雪華に配慮なく身体の上に乗っかられている。
ついでに雪華が俯いてる体勢のせいで、長い髪が肌に垂れてるから動くたびに少しくすぐったい。
ある理由から、あっちがやってたしやるように勧めてきたとかで真似してみたいやってみたいって、さっきから首にキスマークつけたりほっぺに舌這わせられたり耳も噛んだり舐めたりしてたと思ったら、今度はそこかと言いたい。彼氏彼女なら普通にすることらしいからそこまで気にせずにいれば、抵抗されないのを良いことに程度が増してる気がする。
さっくんの、スーツの時に着るやつ…首までボタンのついた白い服をくしゃくしゃになるぐらいに抱き締めて横になっていたオレに、あからさまに雪華が怒ってきたところから今日のこれが始まったわけだけど。
「人が答えてる最中に舐めるな」ってさすがに雪華に抗議すれば、「え~、なんで?気持ち良くないの…?」「…ぬるってするしひりひりするから、やだ」最近の雪華のマイブーム?らしい。余計すぎる楽しみを見出してしまったようで、雪華にこんなことをしてるところを見せた犯人に不満を漏らしたくなる。
よくさっくんにもジンジンするぐらい舐められたり指の腹でふにゅふにゅコリュコリュ弄られまくって、そのたびにやばいことになっちゃうからできればしてほしくない。
終わった後までずぅーっとそういう変なのが残って、シャツが当たるたびにビクッビクッってして、お腹の奥にぎゅうって甘くて気持ちいい感覚が続くせいで、いつも大変な目に遭わされる。
「っ、…だ、から…、…っ、ぅ、…やめろ、って言ってる、…っ、のに、」
「えへへ~、夏空が敏感すぎてやめたくなくなっちゃった。身体中全部よわよわで反応もかわいーんだもん」
「…別に、弱くない。…っ」
って、その言われ方がなんだか不満でふいと顔を背けている間に、手がベタベタにされた胸のあたりの素肌をさわさわ触ってきて、またぬるーっと舐められた。「…っ、…もう、いいだろ」軽く震えながら、その手を掴んで優しめにはがす。
オレの上に馬乗りになりながら、一応春に近づいてくるとはいっても、相変わらず薄手のワンピース一枚を身に着けているだけの雪華の格好は露出が多いし、まだこの時期には早い気がする。と本人に伝えたが、気にする様子は全く無かった。
「私を見て、夏空」
頬を包むように触れてくるしっとりとした華奢な手に、顔を固定された。
無理に合わせられた目に、無意識に逃げるように身体が僅かに動く。
再びオレを呼ぶ声とともに顔が近づき、お互いの距離が縮めば、…白百合のような香りを纏った彼女の吐息が、息遣いが触れる。
「夏空の目に私が映ってる、綺麗…」
「……わざわざ言うな」
「にひゃー、照れてるカワイー!」
間近でにんまりとした笑みを浮かべて嬉しそうに騒ぐ雪華に、「うるさい」とさすがに恥ずかしくなってきて抗議した。
「……なんでかな…」
こうして至近距離で見つめ合っていると、前から込み上げていた不思議な感覚が沸き上がる。
「雪華ってちょっと、さっくんに似てるんだよな…」
「似てる…?」
「うん。…話し方とかは全然似てないけど、……なんとなく、…雰囲気、が…」
さっくんは容姿含めた雰囲気までもが神秘的な芸術作品のように美しくて、綺麗で、まるで天使のような儚さと神々しさを併せ持っている。
雪華も何故か似た空気を感じるというか、…だからかもしれない。そのせいで、…距離感が近い気がするけどおかしく感じない、というか、…される行為に違和感を抱きにくい。
それに対して、「そうかもね」って彼女は意味深に、どうでもよさそうに笑って。
「昨日みたいに、」耳に長い髪をかけて、濡れた桜色の唇が微笑むように歪んだ。
「咲人さんが結衣ちゃんとしてたこと…、今日も二人でシよー…?」
最近ずっと、…焼け付くような苦痛が身体中を駆け巡っていた理由。
そもそもの発端として、…雪華が、無性に”こういうこと”をしたがる原因。
それらすべてを示す言葉とともに、あったかい吐息と一緒にやわらかくて温かな唇を押し付けられる。
……拒むことは、できなかった。
恋人である彼女の腕がオレの首に回っている。
薄く目を開けたまま、待ちきれなかったらしい彼女の舌が触れて誘ってくる感触を受け入れるように微かに震える唇を開く。…と、湿った舌が絡み、唾液が混じり合う。
雪華の息遣いが鼻をつき、口の中で舌がぬるぬる蠢く。相手の感触や体温の変化が舌を通じて伝わり、息苦しさを感じる。
前にさっくんに言われたように、…されたように、やり方をなぞるように、息継ぎをする。
「しすぎて、…唾液で苦しくなってきた」
「はぁ…、はぁ……、んふ、ふー。夏空とのキス、きもちいーからもっとしたぁーい」
今日もう何度目かわからないぐらい、ずっとしてる気がする。
雪華の頬には赤みが差し、唇には微かな湿り気が感じられる。長い時間をかけて交わしたキスの余韻がそのままに、少しだけ恥ずかしさと満足感が入り混じった表情を浮かべている。
お互いに不器用でたどたどしい口付けをする最中、ドロリとした唾液が口の中に広がる。呼吸が苦しくなった雪華が離れて、また唇を塞いでくる。さっきよりも身体を密着させながら、やわらかい胸もくっつけてくる。
(……匂いも、味も、感触も、息遣いも、全然…違う)
たとえ似てると思っても、…雪華はそれ以外のものにはならない。
別の誰かと比べて、重ねることすら酷い思考なのに、…脳内は必死に置き換えようとする。
全部、何もかもが女の子って感じでやわらかくて、…深くなるたびに、身体が擦れるたびに、…言葉にできない感情が押し寄せて、心臓が苦しくなる。
さっくんともよくしてることだ。
唇を重ねて、舌を絡めて、…そうやって、相手を大事だと思ってることを伝える。
さっくんも、してたから。
さっくんが、してるから。
オレだって、わかりたいから。
「……、れ、…」
また、……おかしい、何かの、…違和感を覚えた。
何度も、雪華にこうされるたびに見える。
この景色は、この感情は、この感覚は、…別の人にも何度もされた、ような、変な既視感。
けれど、その光景が浮かぶたびに、まるで何かに制御されてるようにうっすらと存在すら消えていく。
肩ひもがはだけているワンピース。
その布越しにやわらかな膨らみに触れるように雪華に手を動かされた。
「…ぁ、」あまりにも予想以上にやわらかすぎる、…手のひらに感じる慣れない生の感触に反射的に退かそうとすれば、「触っていいんだよ」って赤らめた頬を隠さずに小声で呟いて手を掴まれる。
「ねぇ、…もうこれからは、”さっくん”としちゃイヤだからね?」
キスしたことで口紅が剝がれ、その行為の余韻を感じさせている光るように濡れた唇を尖らせる。
「咲人さんの婚約者は結衣ちゃんで、夏空の彼女は私なの」
「……っ、……」
上にのっかかったままの雪華が、事実を思い知らせるようにはっきりと告げる。
「だから、咲人さんが言った通り、”こういうこと”は恋人同士だけの特別な行為なんだよ。本当は、家族としちゃいけないものなんだからね」
「…………うん」
呆れ半分で少し怒ったように言う雪華の言葉に、少しの混乱と戸惑いを滲ませて頷いた。
それが、…雪華の言うことが本当なら、どうしてオレはずっとさっくんとしてたんだろう。
どうしてさっくんは、オレに嘘をついてたんだろう。
……どうせならずっと知らないままでいた方が良かったのに、…なんて、知らなければこれからも雪華には隠れて悪いことをすることになるはずなのに、…これ以上は続けるべきではないとわかっているのに、そう思ってしまった。
……酔ってたから、あの日さっくんは本当のことを言っちゃったのかな。
すごく、…これ以上の行為なんてないと思うぐらい、……めちゃくちゃ気持ち良いことだったから、しちゃだめなことだと思わなかった。
もしかしたら雪華の言ってる言葉が間違ってるかもしれないって思ったけど、あの時のさっくんの表情は…雪華の言葉を裏付けるように、本当のことを言ってるようにしか見えなくて、
(……頭、まわんなくなってきた…)
さっくんとよく二人で過ごしたこの部屋に似つかわしくない、白百合じみた濃い香りも相まって思考を奪う。
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