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雁字搦め
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見上げた光景に重なって見えた知らない誰かと、あの日のさっくんの言葉と、目の前にいる雪華としていること、…全部情報量が多すぎてズキズキしてきた。
……と、…「そういえば、」不意に浮かんだ疑問が口から零れ落ちた。
「どうして、雪華がその話を知ってるんだ?」
「………」
再びオレとキスをしようと顔を近づけていた彼女の動きが、ぴた、と不自然に止まる。
「……さっくんにそう言われたって、……オレ、…話してない、…よな…?」
今更気づく。
振り返ってみても、…多分、言ってなかった。
不思議に思って聞くオレに、彼女は「言ってたんじゃないかな?そんなことより、」と身体を起こして話題を変えようとする。
「騙されてたってわかっても、出ていこうと思わないの?」
「……放って行けない」
さっくんは、あれからどこかに出かけて帰ってこなくなってしまった。
けど、だからオレは家で待ってなくちゃいけないし、傍にいるって言ったのと、今までオレを守るために色々してくれたのに、それを全部裏切って内緒で外に出ることなんかできない。
「最近のさっくんは、…前より余計に心配だから」
「……そっか…」
「夏空は優しいね…」って呟いて、ぷく、と少し頬を膨らました後、落胆したように肩を落とす雪華に、謝る。
せっかく提案してくれたのに断ることになって、…それに、ずっと裏で悪いことをしてたことになるオレの行為を咎めようとしない彼女に、申し訳なくなる。
「…咲人さん、……もう戻ってこないかもしれないのに」
「………え…?」
一瞬、聞き間違えかと思った。
けど、扉の方を見てそう口にした彼女の顔は真剣で。
(……戻ってこない?)
「……な、ん」何言ってるんだよ。なんでそんなことが言えるんだ、と、問い詰めようとして、雪華が「だって、私に夏空を任せていなくなっちゃったから」と当然のように答える。
「今日で何日目か、わかってるでしょ?…こんなに長い間、咲人さんが夏空の傍にいないことなんてなかった」
「………っ、さっくんは用事があって、…だから、」
日にちなんか、数えたくない。
どうでもいい。
昨日は来なくても、今日は帰ってくるはずだから。
今こうしている間にも、もしかしたら帰ってくるかもしれない。
そう思って、…毎日毎日雪華と過ごしながら待ち続けた。
突き付けられる現実に、オレと雪華以外の気配を感じない、空っぽの部屋を見回して、…足の下が真っ暗になった気がした。
泣いて笑ってしまいそうになる。
何が、あったんだよ。
オレなんか、どうでもよくなったのか。
オレに、いなくなってほしいのか。
捨てたくなったんだろ。
ひとりでなんにもできない、甘えてばっかりの失敗作だから。
親もオレを捨てたんだから、さっくんだっていつ捨ててもおかしくなかった。
だから、可愛いって言われたくなかった。
いつかこういう日が来るって、いらなくなって、さっくんに邪魔に思われるときが来るってわかってたから。
「でも、これで、夏空も咲人さんの前で演じてまでお世話してもらわずに済む、良いきっかけになったんじゃない?」
オレの気持ちなんて知らずに、あっけらかんとした雪華がオレに身体を擦り寄せたまま小首を傾げる。
「できないふり、しなくていいでしょ?」
「……何、言って」
「だって、一緒にいるとわかるもん。夏空は、本当は全部自分のことは自分でできるってこと」
「…っ、」
反射的に、口から出かかった言葉を…やめる。
……やり方がわからなかったしできなかったはずなのに、やってみてと言われてなんとなく、ではあるし時間もかなりかかったけど、トイレも、そのほかの生活もひとりでやれたのは事実だったから。
「仕方ないよ。夏空は咲人さんに”そうなるように”、されてただけなんだから」
「違う。さっくんは悪くない、元々はオレが、」
色々言いたいことはあるけど、飲み込んで、…ずっと気にかかってたことを零す。
「雪華は、…どこにいるのか知ってるのか?」
「んー…」
今までずっと触れようとして、できなかった疑問。
彼女は困惑しながらも、「知りたくなくて、聞いてこないんだと思ってた」と呟いて、無理に笑みを浮かべた。
「咲人さんはね、今…”世界で一番大切な人”の傍にいるの」
「……っ、」
「一日中、ずーっと離れないで、傍にいて、…その人のことだけを考えてる」
同情するように、憐れむような目でオレを見つめる雪華から、目を逸らす。
這うように肌を添って、撫でるように動いた手。胸を、腰を押し付けるようにして抱き締められて、慰められる。
「それ、は…」
結衣さん、のことかと聞こうとして、…できない。
鼓動が気持ち悪いほどに脈打ち、身体が震えて、…思わず、縋るように雪華に手を伸ばしてその服を掴んだ。
「だから、咲人さんは夏空のことなんて気にもしてない」
「……っ、」
「そうじゃなきゃ、一週間以上も一人にされるわけないでしょ?」
あまりにも容赦なく、露骨に現実を思い知らせてくる雪華に、…耐えきれなくなって顔を背けた。
肩が震え、涙が頬を伝うのを見て、彼女は「あ…、泣いちゃった」と少しだけ、気の毒そうに、でも心配そうに声を揺らす。
「昨日も熱が出ちゃったのに、咲人さんが帰ってくるかもって思って頑張って治したのにね」
涙の伝う肌に触れる彼女の目は、その時のことを思い出しているのか、慈しんでいるように優しい。
「傷ついてる夏空にこれ以上追い詰めることは言いたくないんだけど、…このままだと、二度と会えなくなるかもしれないの」
「………っ、…え…、な、…なん、で…」
「そんなの、嫌でしょ?」って、何もかもをわかってるって表情で、彼女が微笑む。
「咲人さんに、会いたい?」
「…会いたい、」
涙を飲み込んで頷けば、雪華は受け入れるように笑って、「私が協力してあげる」と答えた。
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