君に出会わなければ、知らなくて良かったのに

和泉奏

文字の大きさ
6 / 8
カラオケで、

(成瀬side)

しおりを挟む





***


……きっとこうなるって、なんとなくわかってた。


「…っ゛ぐ、ぅ…」

「もうされるわけないって思った?」


そもそも、今回は久遠が悪い。
最初は澄ました顔してたくせに、酔い始めると段々挑発するようなことを言ってきて。

…まるで、首を絞められることを望んでいるような瞳。そこから、涙が溢れて顎に落ちた。


「久遠が誘ったから、俺は悪くないよ」

「だ、…ぇ」


何かを言い返そうとしたらしいのに、全然声になっていない。

…――カラオケのトイレ。

その一室の壁に身体を押し付け、首を絞めている手に力を込める。俺の手を外そうと必死にもがいて、爪に引っ掻かれる。
ドクドクドクドク、と指先に感じる動脈の悲鳴。締めるたびに久遠の顔色がどんどん悪くなっているのが目に見えてわかった。


(…久遠が俺の手で苦しんでる。強気な顔が涙でぐちゃぐちゃになって、こんなに手足をばたばたさせてみっともなくもがいて…)


今自分は酔っている。だから仕方ない。

けど、それでも残った理性がこの異常な状況と自分の酷く興奮した感情に戸惑い、震えを呼ぶ。

…なんでだよ。

久遠が参加しなければ、俺はもうこんなことしなくて良かったのに。あんなことされた後に来るとかどうかしてるんじゃないのか。

そもそも俺はこんなことをして喜ぶような人間じゃない。まともなんだ。異常者じゃないのに。なんで、なんで、こんなのおかしいだろ。

あの日から、酔った久遠に触れた日から、全部変わった。

彼女といるのに何度も何度も思い出して、考えるのをやめないとと思うともっと思い出してしまう。
首を絞めて、絞められた時の顔を見てしまったその瞬間から頭に焼き付いて離れない。


「お前のせいだ、お前のせいだ、お前の、…っ、」

「…っ、が、げほっ、げっ、」


手を離しても、ずっと残っている。
陶酔、高揚感、歓喜、全部そんな感情ばっかりで本気で泣きたい。

……わかってる。悪いのは俺だ。

むしろ久遠は…被害者で、

よろよろと後退すれば、すぐに狭いトイレの壁に背がぶつかる。顔を覆って動揺に耐えようにも、どうしようもできない。

せめてこの場から逃げ出そうとトイレの鍵に手を伸ばそうとして、


「っ、なに、」


腕を、掴まれた。

振り向けば、床に蹲って咳き込んでいたはずのくしゃ、と苦痛に顔を歪めながらも、久遠が涙でぐちゃぐちゃになった顔で俺を見上げていて、


「…や゛、めなくて、い゛い…から、」

「ッ゛、」

「もっと、俺に、」


懇願するような表情に、…ぷつ、と何かが切れた。

(……なんで我慢しないといけないんだっけ)

酔ってるんだから、もう全部どうでもいいか。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『定時後の偶然が多すぎる』

こさ
BL
定時後に残業をするたび、 なぜか必ず同じ上司が、同じフロアに残っている。 仕事ができて、無口で、社内でも一目置かれている存在。 必要以上に踏み込まず、距離を保つ人―― それが、彼の上司だった。 ただの偶然。 そう思っていたはずなのに、 声をかけられる回数が増え、 視線が重なる時間が長くなっていく。 「無理はするな」 それだけの言葉に、胸がざわつく理由を、 彼自身はまだ知らない。 これは、 気づかないふりをする上司と、 勘違いだと思い込もうとする部下が、 少しずつ“偶然”を積み重ねていく話。 静かで、逃げ場のない溺愛が、 定時後から始まる。

大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)

子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ 喰われるなんて聞いてないんだが(?) 俺はただ、 いちご狩りに誘われただけだが。 なのに── 誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に なぜか俺が捕まって食われる展開に? ちょっと待てい。 意味がわからないんだが! いちご狩りから始まる ケンカップルいちゃらぶBL ※大人描写のある話はタイトルに『※』あり

脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない

綿毛ぽぽ
BL
 アイドルを夢見るも、デビューできずオーディション番組に出演しても脱落ばかりの地味男、亀谷日翔はついに夢を諦めた。そしてひょんなことから事務所にあるカフェで働き始めると、かつて出演していた番組のデビューメンバーと再会する。テレビでも引っ張りだこで相変わらずビジュアルが強い二人は何故か俺に対して距離が近い。 ━━━━━━━━━━━ 現役人気アイドル×脱落モブ男 表紙はくま様からお借りしました https://www.pixiv.net/artworks/84182395

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

「大人扱いしていい?」〜純情当主、執務室で策士な従兄の『相性確認』にハメられる〜

中山(ほ)
BL
「ルイン、少し口開けてみて」 仕事終わりの静かな執務室。 差し入れの食事と、ポーションの瓶。 信頼していた従兄のトロンに誘われるまま、 ルインは「大人の相性確認」を始めることになる。

処理中です...