6 / 17
痕
1
しおりを挟む***
こそっと、様子を盗み見る。
「…っ、う、」
と、ぱちっと目があって、…瞬間、氷点下を一気に下るような視線が投げられた。
「…あの、オレ、何かしましたか…?」
「自覚ないんだ。へぇ、流石天然ジゴロはレベルが違う」
パイプ椅子に座り、優雅に長い足を組んだまま不機嫌そうに顔を背けられる
しかも嫌味っぽく言われた。それになんだか、怒っている。…というか拗ねている。
「貴方の言った通り、彼女と別れました」
従ったはずなのに、どうしてそんな顔をするんだと困惑する。
「…頭撫でたり、友達になりましょうとか言ってたけどな」
機嫌が良くなるどころか、皮肉な口調で非難されて、それの何が悪かったのかとたじたじになった。
「それより前も言ったけど、敬語やめろ。嫌だ。ぞわぞわする」と、続けてじとっと睨みつけられて、曖昧に笑う。
あの後、体中の水分を吐き出しきる勢いで抱きついたまま泣く彼女が幼い子どものように見えて、
”悪いのは麻由里さんじゃなくて、オレなんだよ。だから、責めるのはオレにして”
って、できるだけ優しく声をかけながら、困って少しぎこちなく、よしよしと頭を撫でてていた。
……正直相手の年齢を考慮しても頭を撫でていいのかとも思ったけど、前のオレは慰めるときにそういうことをしてたって聞いたから、…多分、行動としては問題なかったと…思う。
結局どうしようか考えて、彼女としては接することができないけど、友達になれませんかという話をした。
けど、彼は『友達』ではなく、もっと別の対応を求めていたようだった。
……オレがその発言をした瞬間に一瞬で空気が凍り付いたのがわかった。
言葉には出さないのに、わかりやすく表情が冷め、機嫌が悪くなった。
「だって、突然別れて会わないっていうのも…何か変かなって。浮気って言っても、オレは全然覚えてないし…」
「覚えてなくても本人が認めてただろ。それに、浮気した女に優しくしたって余計に付け上がるだけだと思うけど」
何がごめんだよ。悪くないのに謝るな。ばか。ばか、と続けて文句を吐き捨てるように零しながらオレに怒っている。
麻由里さんがいた時とは全然違う、感情に伴って人間らしく変化する態度。
外見の異常な綺麗さも相まって、先程は意図的に感情を抑えていたのか…無表情の時の彼は、冷たくて、美しくて…人間味がなかった。
非の打ちどころがない人形みたいで、…色んな意味で少しドキドキしていた。
けど、今こうして子どもっぽく感情を吐露して拗ねながら毒を吐いている感じは、彼が少しくらいはオレに気を許してくれているのかなって気がして、結構可愛く思える。
「でも、まさか貴方と浮気してたとは思わなかった」
「…何だよ」
驚き半分、納得半分で見つめれば、「俺だって望んで迫られたわけじゃない」と居心地悪そうな顔をする。
…まぁ、響さんは男のオレから見ても美形だし、わからなくはない。むしろわかる気しかしない。
けど…記憶はなくても、やはりちょっと複雑な気分にはなるもので、
「響さんは、麻由里さんと仲が良かった?」
麻由里さんが口にしていた彼の名前。
以前聞いた時は、なぜかはぐらかされてしまったから。
こうして前に繋がる情報を知れるのは素直に嬉しい。
彼女と別れたのも、そうすれば以前のオレのことを色々教えてくれるって響さんが言ったからで…彼女をあれだけ泣かせた理由が、本当は浮気じゃなくて、…自分のためだって知ったらきっと彼女はオレを軽蔑するだろう。
21
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
天然くんは無自覚に手強い
結衣可
BL
営業部の敏腕先輩・真壁洋司は、30歳前後にして社内で一目置かれる存在。
冷静で仕事もできるが、恋愛はいつも軽い気持ち——「来るもの拒まず」で誰か一人に執着したことはなかった。
そんな彼の前に現れたのは、新人の佐倉有紀。
天然で人懐っこく、悪気なく距離の近い言動をするため、男女問わず人気者。
その無邪気さに翻弄される真壁。らしくないと思いつつも、心は変化していく。
一方、有紀もまた、遊び人だと思っていた真壁が自分にだけ見せる真剣な顔や、不器用な優しさに気づき始める。
次第に「僕だけを見てほしい」という独占欲が芽生え、やがて涙ながらに「僕だけにしてください」と告げることに——。
遊びの恋愛しか知らなかった男と、初めて本気で人を好きになった天然後輩。
仕事場とプライベートの狭間で、二人の関係はテンポよく、甘く、“ただの先輩と後輩”から“かけがえのない恋人”へと変わっていく。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
長年の恋に終止符を
mahiro
BL
あの人が大の女好きであることは有名です。
そんな人に恋をしてしまった私は何と哀れなことでしょうか。
男性など眼中になく、女性がいればすぐにでも口説く。
それがあの人のモットーというやつでしょう。
どれだけあの人を思っても、無駄だと分かっていながらなかなか終止符を打てない私についにチャンスがやってきました。
これで終らせることが出来る、そう思っていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる