君の愛に狂って死ぬ

和泉奏

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***


こそっと、様子を盗み見る。


「…っ、う、」


と、ぱちっと目があって、…瞬間、氷点下を一気に下るような視線が投げられた。


「…あの、オレ、何かしましたか…?」

「自覚ないんだ。へぇ、流石天然ジゴロはレベルが違う」


パイプ椅子に座り、優雅に長い足を組んだまま不機嫌そうに顔を背けられる
しかも嫌味っぽく言われた。それになんだか、怒っている。…というか拗ねている。


「貴方の言った通り、彼女と別れました」


従ったはずなのに、どうしてそんな顔をするんだと困惑する。


「…頭撫でたり、友達になりましょうとか言ってたけどな」


機嫌が良くなるどころか、皮肉な口調で非難されて、それの何が悪かったのかとたじたじになった。

「それより前も言ったけど、敬語やめろ。嫌だ。ぞわぞわする」と、続けてじとっと睨みつけられて、曖昧に笑う。

あの後、体中の水分を吐き出しきる勢いで抱きついたまま泣く彼女が幼い子どものように見えて、

”悪いのは麻由里さんじゃなくて、オレなんだよ。だから、責めるのはオレにして”

って、できるだけ優しく声をかけながら、困って少しぎこちなく、よしよしと頭を撫でてていた。

……正直相手の年齢を考慮しても頭を撫でていいのかとも思ったけど、前のオレは慰めるときにそういうことをしてたって聞いたから、…多分、行動としては問題なかったと…思う。

結局どうしようか考えて、彼女としては接することができないけど、友達になれませんかという話をした。

けど、彼は『友達』ではなく、もっと別の対応を求めていたようだった。

……オレがその発言をした瞬間に一瞬で空気が凍り付いたのがわかった。
言葉には出さないのに、わかりやすく表情が冷め、機嫌が悪くなった。


「だって、突然別れて会わないっていうのも…何か変かなって。浮気って言っても、オレは全然覚えてないし…」

「覚えてなくても本人が認めてただろ。それに、浮気した女に優しくしたって余計に付け上がるだけだと思うけど」


何がごめんだよ。悪くないのに謝るな。ばか。ばか、と続けて文句を吐き捨てるように零しながらオレに怒っている。

麻由里さんがいた時とは全然違う、感情に伴って人間らしく変化する態度。

外見の異常な綺麗さも相まって、先程は意図的に感情を抑えていたのか…無表情の時の彼は、冷たくて、美しくて…人間味がなかった。

非の打ちどころがない人形みたいで、…色んな意味で少しドキドキしていた。

けど、今こうして子どもっぽく感情を吐露して拗ねながら毒を吐いている感じは、彼が少しくらいはオレに気を許してくれているのかなって気がして、結構可愛く思える。


「でも、まさか貴方と浮気してたとは思わなかった」

「…何だよ」


驚き半分、納得半分で見つめれば、「俺だって望んで迫られたわけじゃない」と居心地悪そうな顔をする。

…まぁ、響さんは男のオレから見ても美形だし、わからなくはない。むしろわかる気しかしない。
けど…記憶はなくても、やはりちょっと複雑な気分にはなるもので、


「響さんは、麻由里さんと仲が良かった?」


麻由里さんが口にしていた彼の名前。

以前聞いた時は、なぜかはぐらかされてしまったから。

こうして前に繋がる情報を知れるのは素直に嬉しい。

彼女と別れたのも、そうすれば以前のオレのことを色々教えてくれるって響さんが言ったからで…彼女をあれだけ泣かせた理由が、本当は浮気じゃなくて、…自分のためだって知ったらきっと彼女はオレを軽蔑するだろう。



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