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普通の病院
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「これで処置は終わりです」
毎日ほぼ同じ時間に怪我の経過の確認と、包帯を巻きなおしてくれる看護師さんに「ありがとうございます」とお礼を言う。
今日は採血と注射もあったから、いつもより時間がかかっていた。
消毒液独特の匂いが充満している白基調の病室。
仕事を終えて出ていこうとする看護師さんを、「あの、」と呼び止める。
「気分転換したくて、…数分だけでも、外に出られませんか……?」
「ごめんなさいね。外出は許可されないので出来ないんです」
先日同様、微量に同情を交えた返事に、それ以上食い下がることなく諦めて納得した。
病院の規則で、どんな事情であっても一時的な散歩等すら認められないらしい。
黒い格子によって開けることさえできない窓の方を意味もなく見て、…落胆に息を吐いた。
……今日は琉夏が来ていない。
(……何かあったのかな)
心配になると同時に、…オレを見る時の彼のふとした瞬間の表情が…凄く苦しそうで、悲しそうで、…そうさせているのが自分だという自己嫌悪に陥って布団に顔を埋めた。
濡れた髪から水滴がぽた、と布団に落ち、染みを作る。
そこに目をやって、…お風呂上がりに面会の連絡を受け、いそいで病室の外に迎えに行った時に見た琉夏の表情を思い出して、クス、と小さく笑みが零れた。
びっくりしてる表情が普段の澄ましてる顔と違って、そんな顔もするんだなってなんだか可愛く?っていうのかな、そんなふうに感じて新鮮だった。
それに、「髪を濡らしたまま出てくるな」と嘆息しつつも、なんだかんだ面倒見が良いらしく、タオルで拭いてからドライヤーで乾かしてくれた。
(……嬉しかった)
オレを通して、昔のオレを見て期待しているんだろうなってことはわかってるけど、……一緒にいればいるほど、過去のオレが彼を好きになった理由がわかる気がした。
だからこそ、余計に不安になる。
ずっと、思い出せなかったらどうしよう。
ほとんど毎日来てくれてるのに、…記憶が戻る予兆は全くない。
空白でしかない今のオレは、彼にとって価値がないのに。
過去のオレのために琉夏が傍にいてくれるのに…永遠に思い出せなかったら、…期待するのをやめられてしまったらどうしよう。
……こうして誰も来ることのない病室で、窓から外を見るだけの生活になって…改めて気づく。
「…一人だ…」
唯一昔のことを覚えているらしい琉夏。
今思えば、彼のことを何も知らない。
電話番号すら知らない。
今までのことだってただの気まぐれで来てくれただけで、…もう来ないかもしれない。
「……早く、来ないかな…」
誰も知らない世界は、怖い。
その怖さを一度知ってしまえば、…もう元の生活には戻れない気がした。
膝を抱えながら布団に頬をのせ、…窓の外を見ていると…
コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。
時計を見ると、もう午後5時だった。
夕方で、窓の外の陽は落ちかけている。
(……もしかして、)
布団をよけて、ベッドから降りた。
スリッパを履き、少し早歩きで向かう。
速くなる鼓動を隠せないのを自覚しながら、病室の扉の取っ手に手をかける。
「………るか…?」
期待半分、若干逸る気持ちで…扉を開ける。
と、オレを見上げる同い年ぐらいの少女がいた。
病衣を着ている。
「こんにちは」
控えめに、鈴を転がすような声。
それから、緊張の面持ちで、ちょっと俯き加減に笑った。
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