魔闘少女ハーツ・ラバーズ!

ハリエンジュ

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第六話『愛歌VS詩織!? 試されるハーツ・ラバーの絆!』

その3 キャパオーバー

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★魔闘少女ハーツ・ラバーズ! 
第六話『愛歌VS詩織!? 試されるハーツ・ラバーの絆!』
その3 キャパオーバー


teller:小枝さえだ こずえ


「ずばり! ここは押して駄目なら押して押して押しまくれ作戦でしょ!」

 詩織ちゃんがハーツ・ラバーになってから数日経った昼休み。

 屋上で、私は愛歌ちゃん、詩織ちゃんと一緒にお昼ご飯を食べていた。

 お弁当をつつきながら、私はきょとんとしてしまう。
 目の前では愛歌ちゃんが目をきらきらさせて、凄く楽しそうで。
 一方で詩織ちゃんはひどく恥ずかしそうに顔を真っ赤にして身を縮こまらせている。

 話を聞く限り、詩織ちゃんが芹沢さんを好きなことが愛歌ちゃんにバレちゃった、ということらしい。

 私も詩織ちゃんの恋路は応援している。
 うまく行ってほしいと、心から願ってる。
 だけど、こんな強引なやり方でいいのかな?

「と、いうわけで! 今日早速告白しよう!」

 愛歌ちゃんがそんなとんでもないことを言い放った途端、お茶を口に含んでいた詩織ちゃんがげほげほと噎せ始めた。
 慌てて私は詩織ちゃんの背中をさする。

 けれど、びっくりしたのは私も同じだ。
 いきなり告白なんて、流石に急展開すぎるんじゃないだろうか。

 一通り噎せ終わった詩織ちゃんが、涙目で愛歌ちゃんを睨む。

「な、何言ってるの!? そ、そんなことできるわけないじゃない!」

「どうして? すばるんのこと好きなんでしょ?」

 愛歌ちゃんは心底不思議そうに首を傾げている。
 詩織ちゃんはと言うと、もう可哀想なくらいに顔を真っ赤にしていた。

「好きなら好きって気持ちをちゃんと伝えないとだめだよ! それに自信持って! しぃちゃんは可愛いよ!」

「そ……そういう問題じゃなくて……心の準備とか……それに、わ、私……可愛くないわよ……」

 段々と声が尻すぼみになる詩織ちゃんとは対照的に、愛歌ちゃんの声は大きいまんまで。
 愛歌ちゃんは立ち上がると拳を天に突き上げ、一回大きくジャンプした。

「それじゃあ今日の放課後、レッツ・告白!  がんばろー! おー!」

 何だか愛歌ちゃんがとても、とても盛り上がってしまっている。
 詩織ちゃんは、あからさまに狼狽えていて。

 私はと言うと、どっちを支持すればいいのかわからず、一言も声を発することができなかった。





 授業を終えて、放課後。
 私達三人は、芹沢さんとたっくんの所属するサッカー部の見学の為にグラウンドに来ていた。

 愛歌ちゃんは目を輝かせて詩織ちゃんを見ていて、詩織ちゃんは何やらぶつぶつ言いながら俯いている。

 どうしよう、本当にこれでいいのかな?
 私はおろおろすることしかできない。
 こんな自分がまた嫌いになりそうで、溜息を吐く。

「……あれ? ねーちゃん?」

 聴き慣れた声がして顔を上げると、ユニフォーム姿のたっくんが駆け寄って来るのが見えた。
 不思議そうに、たっくんは私達三人をまじまじと見つめている。

「星野さんと……誰だ?」

 たっくんの視線は、詩織ちゃんに集中している。
 そう言えば、この二人は初対面だった。

「え……えっとね、たっくん。この子は、河本詩織ちゃん。私の……えっと、お友達……」

 私がおずおずとそう答えれば、たっくんは驚いたように一瞬ぽかんと口を開けた。
 それから、合点が行った、とでも言うかのようにぽん、と手の平を拳で叩く。

「ああ……ねーちゃんが言ってた新しいハーツ・ラバーの……」

「う、うん……そう……」

 『ハーツ・ラバー』、という単語がたっくんの口から出て来たことで、顔を上げた詩織ちゃんの表情が僅かに強張る。
 詩織ちゃんの視線が、私へと注がれた。

「こずえ。この人は?」

「あ……えっと、小枝拓海くん……私の弟で……たっくんも、ハーツ・ラバーのサポート役として色々協力してくれてるの……」

 そう言うと、詩織ちゃんはなるほど、とでも言うかのようにこくりと頷いてたっくんに頭を下げた。

「初めまして、河本詩織です。これからよろしくね、小枝くん」

「あ……はい、どうも……ねーちゃんを、よろしく頼みます……」

 何だかまるで、たっくんが私の保護者のようだ。
 今度は私が恥ずかしくなって俯いていると、凛とした声が響いた。

「……拓海。何してる」

 その声を聴いた途端、詩織ちゃんの肩がわかりやすくびくりと跳ねた。

 声の主は、芹沢さん。
 たっくんを呼びに来たらしい。

 その時、違和感に気付いた。
 詩織ちゃんの存在に気付いた芹沢さんが驚いたように一瞬大きく目を見開き、慌てて視線を逸らしたんだ。

 ……その頬が僅かに赤く染まっていたのは、何でだろう?

「ほら、しぃちゃん! チャンスチャンス!」

「……え? え!?」

 愛歌ちゃんが、詩織ちゃんの背中をぐいぐい押す。
 詩織ちゃんは必死に抵抗していたけど、それも長くは続かなくて。

 ついには愛歌ちゃんは詩織ちゃんの背中をどん、と強く突き飛ばした。
 バランスを崩した詩織ちゃんが、前のめりに倒れそうになる。
 それを慌てて抱き留めたのは、芹沢さん。
 二人の距離が、凄く近い。
 詩織ちゃんは、もう頭から湯気が出るんじゃないかって程に真っ赤で。
 ――芹沢さんの方も、何故か凄く顔を真っ赤にしていた。

「……わ、悪い……河本、大丈夫か……?」

「う、うえ……は、はい……ありがとうございます……だいじょうぶ、です……」

 そう言う詩織ちゃんの目は今にもぐるぐる回りそうで。
 どう見ても大丈夫そうには見えない。

 だけど、愛歌ちゃんは追い打ちをかけるようにはしゃいで。

「しぃちゃん、しぃちゃん! 今がチャンス! 言っちゃえー!」

 それが、トリガーになったんだろうか。

 恥ずかしさとときめきとどうしようもならない気持ちでいっぱいいっぱいになったのか。

 詩織ちゃんが、芹沢さんから離れる。

 それから詩織ちゃんは、ゆっくりと振り向いて、涙で潤んだ瞳で愛歌ちゃんを睨みつけて。
 息を、大きく吸い込んで。


「……っ、星野さんの、ばかーーーー!!!!」


 全力の大声で、グラウンド中に響き渡るんじゃないかって勢いでそう叫んだ。

 愛歌ちゃんは、きょとんと目を丸くしている。
 何が起こっているかわからない、と言った風な顔。

 詩織ちゃんが、叫び過ぎたせいで乱れた呼吸を整える。
 それからぎゅっと下唇を噛み締めて、詩織ちゃんは泣きながらその場から走り去ってしまった。

「え!? ちょっと、しぃちゃん!? しぃちゃん!?」

 一拍遅れて、愛歌ちゃんが詩織ちゃんを追いかける。

 私はと言うと。
 突然の大声にびっくりしたのか、友達同士の関係が拗れ始めてしまったことにショックを受けたのか。

 情けないことに、フリーズしたかのように、その場から動けなくなってしまったのだった。
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