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第一話『芽生える勇気! ブレイブラバー誕生!』
その12 初めての戦い
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★魔闘少女ハーツ・ラバーズ!
第一話『芽生える勇気! ブレイブラバー誕生!』
その12 初めての戦い
……名乗りを上げたのは、いいんだけど。
私は、どうやらハーツ・ラバーになったらしいんだけど。
これから、どうすればいいんだろう。
混乱して、ついあたふたしてしまう。
うう、かっこわるい。
さっきは何でもできる気がしたんだけどな。
「ハーツ・ラバーだと……!? くそっ、目覚めやがったか! アニマ! 蹴散らせ!」
ネスさんの怒号が響く。
アニマの太い枝が、横から振るわれる。
前と同じだ。
私を薙ぎ払うつもりだ。
避けなくちゃ。
そう思って、咄嗟にぴょん、と私は飛んだ。
本当に、ぴょんとだけ、飛んだつもりだった。
「……え?」
体が、異様に軽い。
ふわり、と宙に浮いて。
そのまま、羽根でも生えたように浮いて、浮いて、とにかく浮いて。
10m、いや、もしかしたら20mくらいかもしれない。
物凄く、高く高く飛び上がってしまった。
「ふ、ふええええええ!?」
びっくりしすぎて、変な声が出る。
高い、こわい。
拭ったはずの涙が、また溢れ出る。
何で、何で私、こんな。
「落ち着け、チビスケ!」
いつの間に、動いたのか。
ゼロットさんがぴゅう、と地上から飛んで来て、私の肩にちょこん、と可愛らしく乗った。
「ゼ、ゼロットさん、あの、あの、あの……!」
「ったく、戦いドシロートのチビスケに、このゼロ様がアドバイスしてやるよ。いいかぁ? 耳かっぽじって聞け!」
「た、戦い……」
「ああ、そうだ、戦いだ。お前は戦士なんだからな。いいか、ハーツ・ラバーに変身すると身体能力がとんでもなく強化される! 体力、瞬発力、跳躍力、防御力、攻撃力、どれを取っても普通の人間とは段違いだ」
「攻撃力……」
「何、不思議そうな顔してんだ! 覚悟決めろ! お前とあの赤いガキが助かる為には、お前はあのアニマを倒すしかねえんだ!」
倒す。
私が、アニマを、あの樹を。
戦いとか、攻撃とか、私には無縁の言葉だった。
……私に、できるの?
……ううん、問うんじゃない、やるんだって決めるんだ、誓うんだ。
何でもできるって、鈴原くんが元気づけてくれたんだから。
その鈴原くんを、私は絶対に助けたい。
とん、と地上に降り立ち、涙を拭う。
じっと、アニマを見上げる。
大きな大きな樹。
私みたいなちっぽけな存在とは違う。
でも、私はこずえ、梢。
私だって樹。
これから大きくなる、いくらでも成長できる樹だ。
だから、この樹にも負けない、絶対に。
そう信じないと、変われない。
今までの逃げてばかりの自分と、さよならしなきゃ。
「……ゼロットさん、私、どうすればいいですか」
震える声で、問いかける。
「私……どうやったら、アニマを倒せますか」
私の言葉に、ゼロットさんは、はっきりと告げた。
「殴れ」
「……ふえ……」
「殴って、殴って、殴りまくれ。蹴ってもいい。とにかく消耗させろ。そうすれば少しずつ奴らを形作るエモーションが霧のように洩れていく。霧がはっきりと視えたら、チャンスだ。お前の胸の中にあるラブセイバーが反応して、アニマを完全に元のエモーションに戻す攻撃を放つ力を与えてくれる!」
何かを、殴る。
何かを、蹴る。
そんなこと、これまでの人生で一度だってしたことない。
何かを傷つけるのなんて、こわいし、申し訳ないし、考えただけで胸が潰れそうだ。
頭が、真っ白になりかける。
自然と視線が地面に落ちかけて、私は慌てて前を見据えた。
何でもしたいって思った。
初めての友達を、助ける為なら。
それに、鈴原くんだけじゃない。
このアニマを作る為に必要な感情を抽出された、道に倒れてる人達。
それであの人達に感情を返すことができるのなら、それが私にしかできないと言うのなら。
こんな私でも、いいのなら。
やらない以外の選択肢、なんてない。
「……っ、う、あああああ!」
恐怖を押し殺すように叫んで、アニマへと駆け出す。
肩に乗っていたゼロットさんが、ひゅ、と後方へ下がる。
あれ、何これ、すごく速い。
私、かけっこ遅いのに、とろいのに。
これも、ハーツ・ラバーの力なんだ。
……力があるなら、私、頑張らなきゃ。
小さな拳を、ぎゅ、と握る。
叩く、殴る。
初めてのこと。
騒ぐ心臓を無視して、私はその拳をアニマの幹に思いっきり叩きつけた。
「グ、ガア……!」
アニマが唸り、そのまま後方へと吹き飛ぶ。
無数の枝が、地面に落ちる。
幹にある、私の殴った跡は、抉れていた。
……殴っちゃった。
肩で息をする。
手の甲が、じんじんと痛む。
これが、何かを殴る重みなんだ。
背負えない、と泣き崩れそうになる。
相変わらずこわくて、逃げ出しそうになる。
それでも、ぎゅ、とまた拳を握る。
これは、傷つけるだけの力じゃない、守る為の力でもあるんだ。
鈴原くんは、ボロボロになってまで私を守ってくれた。
こんな痛み、鈴原くんの痛みに比べればどうってことない。
倒れている隙に、もっと攻撃を加えようとアニマに駆け寄り、また殴りつける。
二発、三発、何発も連続で。
やっぱり慣れないし、殴る度にこれでいいのかと不安で泣きそうになる。
それでも涙を何とか引っ込めて、また、殴った頃。
「え……ひゃっ!」
アニマの根っこの部分が、近づいてきた。
根っこには、針が生えている。
刺される。
慌てて幹の上から飛び退き、近くの細い普通の木の枝に飛び移る。
でも、少し掠ってしまった。
右頬が僅かに熱くて、ひりひりしてる。
多分、血、出てる。
ごし、と左手で傷口を拭った。
白い手袋に、少しだけ赤色が付着する。
痛い、けど、私、頑張る。
力の限り、命の限り、精一杯、勇気を振り絞って。
ばっと、木の枝からアニマへと飛び移り、その勢いのまま起き上がりかけていた顔の部分を力一杯蹴り飛ばした。
初めて、何かを蹴った。
項を、変な汗が伝う。
さっきから、自分で自分を殺して戦っているようなものだと思う。
「……ぁ……」
声が、出た。
アニマから、黒い霧のような物が出てる。
感情が、エモーションが洩れ出てる。
……弱ってる、の?
「今だ! チビスケ! 『必殺技』、叩き込んでやれぃ!」
ゼロットさんの叫び声が聞こえる。
必殺技。
そんなもの、あるの?
ずきん、と頭が痛んだ。
言葉が響いてる、まただ。
心が知ってる。
この言葉を言えと、それがハーツ・ラバーとしての務めだと。
心臓が、燃え滾るように熱い。
ラブセイバーが反応している。
そして、私は顔を思い切り歪めさせたアニマに、両手をかざした。
「……還って、エモーション」
そっと、呟く。
「ハーツ・ラバー! バーニング・フォレスト!」
脳を支配する言葉を、全力で叫んだ。
両手から、赤い、赤い炎が噴き出る。
それは柱のように、樹のように長く長く広がり、アニマの体全体を包んだ。
炎が、アニマの体を焼き尽くす。
黒い葉が、消えていく。
その代わりに、また黒い霧が溢れる。
アニマの体が消える代わりに、霧はどんどん大きくなって、空いっぱいに広がって。
やがて、きらきらとした光を放ちどこかへと飛び去って行ってしまった。
……還ったの、かな、元の人達の体に。
アニマが、消えてる。
とすん、と私はその場に着地する。
目を凝らすと、倒れていた人達が遠くでゆっくりと起き上がって言葉を交わしている姿が見えた。
……良かった。
あれ、でも、私こんなに視力良かったっけ。
これも、ハーツ・ラバーになったから、なのかな。
「……おい、ブレイブラバーとか言ったか」
低い声が聴こえて、はっと振り向くと、背中を衝撃が襲った。
すぐに私の体は崩れ落ちると思ったのだけど、これもハーツ・ラバーの防御力、というやつらしい。
少し体が宙に浮いただけで、すぐに私はぎゅ、と足を地面に縫い付けた。
私を蹴ったのは、ネスさん。
苛立ちを隠そうともしない顔で、その巨体で、私の前に立ち塞がっている。
そうだ、この人もいたんだ。
人を殴ることは、さすがに、できないと思う。
無理矢理創られた存在じゃない。
この人はこの人の意思を持って行動している。
そんな人を、攻撃なんてできない。
どうしよう。
「どうした? オレを殴れよ。その力で」
「……で……できません……」
「ああ? なーに綺麗ごと抜かしてんだ、クソチビ。オレは敵だぜ? オレを何とかしねえと、この星、守れねえぞ?」
「……それでも、私、できません」
「……ああ、そうかよ。だったら、こっちから行ってやんよ!」
ネスさんが、確かな敵意を持って私に殴りかかる。
思わずぎゅっと目を瞑る。
星を、守る。
私にそんな大役が務まるとは思えない。
でも、何とかしなきゃいけないのかな。
お母さん、お父さん、たっくん――鈴原くん。
私に、全部守れるの?
押し殺していた不安が表に出ようとしていた頃。
「はい、しゅーりょー。そこまで」
聴いたことのない声が、響いた。
いつまで経っても、攻撃が当たる気配はない。
何だろう、と思って目をゆっくりと開ける。
ネスさんの片腕を、ネスさんよりは身長が低い、細身の黒髪の男の人が掴んでいた。
彼の赤い瞳が、ネスさんをじっと捉えていた。
「……っ、ナハトさん!? 何で止めんだよ! 今、チャンスだったろ! こいつ、まだハーツ・ラバーの覚悟もなんもできてねえ! 心が折れそうなんだ、今折ってやらなきゃこいつは……」
「姫っちが、やめろってさ」
「はあ!? アガペが!?」
「こういう子、嫌いじゃねえんだと。ま、あれだよ、オレらもさ。とうとう地球にハーツ・ラバー現れちまったわけだし、アニマも倒されちゃっただろ? 戻ってのんびり作戦立てようぜ」
「でもよ!」
「年上の言うことは、素直に聞いときなさいな」
ナハト、と呼ばれた人がネスさんの頭を軽く小突く。
ネスさんは、ひどく不服そうな顔を浮かべた。
「……アガペは年上じゃねーよ」
「オレはお前より年上だよ」
「ナハトさんは、アガペなんかの肩を持つつもりかよ」
「そーかも。オレ、姫っちのことは結構気に入ってるぜ? 妹みたいに思ってるよ。……っと、ゼロ」
ナハトさんがふと振り返る。
その視線の先では、ゼロットさんが飛んでいた。
「よっす、元気してた?」
「……てめえは相変わらずだな、ナハト。何考えてんのか全然読めねえ」
「はは、良く言われるわ。主にネスに。……ああ、姫っちから伝言。『体に気をつけて。私はずっとダーリンを愛してる』ってさ。ラブラブだねえ、お前ら」
「……そんなんじゃねえよ」
「照れんなって。姫っち結構落ち込んでるから、帰ってやれば?」
「できねーよ。俺様はオーディオの敵になるって、決めたんだ」
「あっそ。オレと姫っちはいつでも待ってるけどね」
ナハトさんが、呆然としている私を置いて、ネスさんの耳を引っ張る。
「ちょ、ナハトさん!? オレは待ってねーよ、こんな裏切り者! っつーか許せねーし!」
「はいはい、喚かないの。ほら、帰るぞー。チャンスはいつでもあるさ。そう急ぐことはない。……じゃーね、ブレイブラバーちゃん?」
ひら、とナハトさんが飄々とした笑顔で私に手を軽く振る。
え、と声を出す暇もなく、一瞬にしてネスさんとナハトさんの姿は消え去った。
終わった、のかな。
私、守れた、のかな。
何だか力が抜けて、その場にへなへなと座り込んでしまう。
安心したからか、変身が解けたらしい。
見ると、ドレスのようなハーツ・ラバーの服装はもう消えていて、ピンク色のワンピースが膝を覆っているのが視界に映った。
「……っ、鈴原くん!」
そこで、ようやく一番大事なことを思い出す。
なに安心してるの、私のばか。
鈴原くん、あんなに血が出てた。
早く、早く病院に。
よろけながらも立ち上がって、慌てて元いた方向へと駆け出す。
ハーツ・ラバーじゃないいつもの私はやっぱりとろくて、鈍くさくて、体力もなくて、少し走っただけで息切れをしてしまう。
頬の傷が、まだ痛む。
心臓が破れそうで、転びそうになる。
それでも、走って、走って、走り続けて。
「鈴原くんっ!」
彼の名前を呼んで、赤い髪の彼に近づいて。
私は、ぽかん、と口を開けた。
「……こずえ」
上体を起こしている鈴原くんが、私の名を呼ぶ。
服は、相変わらずボロボロだったけど。
傷が、全部治ってた。
あのぞっとする程に赤い血は、綺麗さっぱり消えている。
「……え? え? どうして……」
「俺様の、力だよ」
ちょこん、と頭に何かが乗る感触。
ゼロットさんだ。
「俺様は、アニマによって傷ついたモンをこうして治癒できる。命に関わる致命傷は、さすがに無理だけどな。……ま、俺様なりのサポートってやつだ」
体の力が、本当に抜ける。
鈴原くん。
鈴原くん、鈴原くん、鈴原くん。
生きてる、ちゃんと生きてる。
「……よかったぁ……っ」
引っ込めていた涙が、ぽろぽろと零れる。
私、やっぱり泣き虫のまんまだ。
私をじっと見ていた鈴原くんの表情が、和らぐ。
彼は、優しく笑ってくれた。
ゼロットさんがぴょん、と離れると、鈴原くんの大きな手が私の頭の上に乗った。
「鈴原くん……鈴原くん……っ!」
「……すまんな。ワイ、なんもできんかった。めっちゃ怖かったやろ。頑張ったな」
「そんな……そんな、私、なんて……っ」
「……めちゃくちゃかっこよかったで、こずえ。おおきに」
彼の声が、どこまでも優しくて、それにまた涙腺が刺激されて。
結局私は、しばらく鈴原くんに宥められながら大泣きしてしまった。
第一話『芽生える勇気! ブレイブラバー誕生!』
その12 初めての戦い
……名乗りを上げたのは、いいんだけど。
私は、どうやらハーツ・ラバーになったらしいんだけど。
これから、どうすればいいんだろう。
混乱して、ついあたふたしてしまう。
うう、かっこわるい。
さっきは何でもできる気がしたんだけどな。
「ハーツ・ラバーだと……!? くそっ、目覚めやがったか! アニマ! 蹴散らせ!」
ネスさんの怒号が響く。
アニマの太い枝が、横から振るわれる。
前と同じだ。
私を薙ぎ払うつもりだ。
避けなくちゃ。
そう思って、咄嗟にぴょん、と私は飛んだ。
本当に、ぴょんとだけ、飛んだつもりだった。
「……え?」
体が、異様に軽い。
ふわり、と宙に浮いて。
そのまま、羽根でも生えたように浮いて、浮いて、とにかく浮いて。
10m、いや、もしかしたら20mくらいかもしれない。
物凄く、高く高く飛び上がってしまった。
「ふ、ふええええええ!?」
びっくりしすぎて、変な声が出る。
高い、こわい。
拭ったはずの涙が、また溢れ出る。
何で、何で私、こんな。
「落ち着け、チビスケ!」
いつの間に、動いたのか。
ゼロットさんがぴゅう、と地上から飛んで来て、私の肩にちょこん、と可愛らしく乗った。
「ゼ、ゼロットさん、あの、あの、あの……!」
「ったく、戦いドシロートのチビスケに、このゼロ様がアドバイスしてやるよ。いいかぁ? 耳かっぽじって聞け!」
「た、戦い……」
「ああ、そうだ、戦いだ。お前は戦士なんだからな。いいか、ハーツ・ラバーに変身すると身体能力がとんでもなく強化される! 体力、瞬発力、跳躍力、防御力、攻撃力、どれを取っても普通の人間とは段違いだ」
「攻撃力……」
「何、不思議そうな顔してんだ! 覚悟決めろ! お前とあの赤いガキが助かる為には、お前はあのアニマを倒すしかねえんだ!」
倒す。
私が、アニマを、あの樹を。
戦いとか、攻撃とか、私には無縁の言葉だった。
……私に、できるの?
……ううん、問うんじゃない、やるんだって決めるんだ、誓うんだ。
何でもできるって、鈴原くんが元気づけてくれたんだから。
その鈴原くんを、私は絶対に助けたい。
とん、と地上に降り立ち、涙を拭う。
じっと、アニマを見上げる。
大きな大きな樹。
私みたいなちっぽけな存在とは違う。
でも、私はこずえ、梢。
私だって樹。
これから大きくなる、いくらでも成長できる樹だ。
だから、この樹にも負けない、絶対に。
そう信じないと、変われない。
今までの逃げてばかりの自分と、さよならしなきゃ。
「……ゼロットさん、私、どうすればいいですか」
震える声で、問いかける。
「私……どうやったら、アニマを倒せますか」
私の言葉に、ゼロットさんは、はっきりと告げた。
「殴れ」
「……ふえ……」
「殴って、殴って、殴りまくれ。蹴ってもいい。とにかく消耗させろ。そうすれば少しずつ奴らを形作るエモーションが霧のように洩れていく。霧がはっきりと視えたら、チャンスだ。お前の胸の中にあるラブセイバーが反応して、アニマを完全に元のエモーションに戻す攻撃を放つ力を与えてくれる!」
何かを、殴る。
何かを、蹴る。
そんなこと、これまでの人生で一度だってしたことない。
何かを傷つけるのなんて、こわいし、申し訳ないし、考えただけで胸が潰れそうだ。
頭が、真っ白になりかける。
自然と視線が地面に落ちかけて、私は慌てて前を見据えた。
何でもしたいって思った。
初めての友達を、助ける為なら。
それに、鈴原くんだけじゃない。
このアニマを作る為に必要な感情を抽出された、道に倒れてる人達。
それであの人達に感情を返すことができるのなら、それが私にしかできないと言うのなら。
こんな私でも、いいのなら。
やらない以外の選択肢、なんてない。
「……っ、う、あああああ!」
恐怖を押し殺すように叫んで、アニマへと駆け出す。
肩に乗っていたゼロットさんが、ひゅ、と後方へ下がる。
あれ、何これ、すごく速い。
私、かけっこ遅いのに、とろいのに。
これも、ハーツ・ラバーの力なんだ。
……力があるなら、私、頑張らなきゃ。
小さな拳を、ぎゅ、と握る。
叩く、殴る。
初めてのこと。
騒ぐ心臓を無視して、私はその拳をアニマの幹に思いっきり叩きつけた。
「グ、ガア……!」
アニマが唸り、そのまま後方へと吹き飛ぶ。
無数の枝が、地面に落ちる。
幹にある、私の殴った跡は、抉れていた。
……殴っちゃった。
肩で息をする。
手の甲が、じんじんと痛む。
これが、何かを殴る重みなんだ。
背負えない、と泣き崩れそうになる。
相変わらずこわくて、逃げ出しそうになる。
それでも、ぎゅ、とまた拳を握る。
これは、傷つけるだけの力じゃない、守る為の力でもあるんだ。
鈴原くんは、ボロボロになってまで私を守ってくれた。
こんな痛み、鈴原くんの痛みに比べればどうってことない。
倒れている隙に、もっと攻撃を加えようとアニマに駆け寄り、また殴りつける。
二発、三発、何発も連続で。
やっぱり慣れないし、殴る度にこれでいいのかと不安で泣きそうになる。
それでも涙を何とか引っ込めて、また、殴った頃。
「え……ひゃっ!」
アニマの根っこの部分が、近づいてきた。
根っこには、針が生えている。
刺される。
慌てて幹の上から飛び退き、近くの細い普通の木の枝に飛び移る。
でも、少し掠ってしまった。
右頬が僅かに熱くて、ひりひりしてる。
多分、血、出てる。
ごし、と左手で傷口を拭った。
白い手袋に、少しだけ赤色が付着する。
痛い、けど、私、頑張る。
力の限り、命の限り、精一杯、勇気を振り絞って。
ばっと、木の枝からアニマへと飛び移り、その勢いのまま起き上がりかけていた顔の部分を力一杯蹴り飛ばした。
初めて、何かを蹴った。
項を、変な汗が伝う。
さっきから、自分で自分を殺して戦っているようなものだと思う。
「……ぁ……」
声が、出た。
アニマから、黒い霧のような物が出てる。
感情が、エモーションが洩れ出てる。
……弱ってる、の?
「今だ! チビスケ! 『必殺技』、叩き込んでやれぃ!」
ゼロットさんの叫び声が聞こえる。
必殺技。
そんなもの、あるの?
ずきん、と頭が痛んだ。
言葉が響いてる、まただ。
心が知ってる。
この言葉を言えと、それがハーツ・ラバーとしての務めだと。
心臓が、燃え滾るように熱い。
ラブセイバーが反応している。
そして、私は顔を思い切り歪めさせたアニマに、両手をかざした。
「……還って、エモーション」
そっと、呟く。
「ハーツ・ラバー! バーニング・フォレスト!」
脳を支配する言葉を、全力で叫んだ。
両手から、赤い、赤い炎が噴き出る。
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炎が、アニマの体を焼き尽くす。
黒い葉が、消えていく。
その代わりに、また黒い霧が溢れる。
アニマの体が消える代わりに、霧はどんどん大きくなって、空いっぱいに広がって。
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……還ったの、かな、元の人達の体に。
アニマが、消えてる。
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目を凝らすと、倒れていた人達が遠くでゆっくりと起き上がって言葉を交わしている姿が見えた。
……良かった。
あれ、でも、私こんなに視力良かったっけ。
これも、ハーツ・ラバーになったから、なのかな。
「……おい、ブレイブラバーとか言ったか」
低い声が聴こえて、はっと振り向くと、背中を衝撃が襲った。
すぐに私の体は崩れ落ちると思ったのだけど、これもハーツ・ラバーの防御力、というやつらしい。
少し体が宙に浮いただけで、すぐに私はぎゅ、と足を地面に縫い付けた。
私を蹴ったのは、ネスさん。
苛立ちを隠そうともしない顔で、その巨体で、私の前に立ち塞がっている。
そうだ、この人もいたんだ。
人を殴ることは、さすがに、できないと思う。
無理矢理創られた存在じゃない。
この人はこの人の意思を持って行動している。
そんな人を、攻撃なんてできない。
どうしよう。
「どうした? オレを殴れよ。その力で」
「……で……できません……」
「ああ? なーに綺麗ごと抜かしてんだ、クソチビ。オレは敵だぜ? オレを何とかしねえと、この星、守れねえぞ?」
「……それでも、私、できません」
「……ああ、そうかよ。だったら、こっちから行ってやんよ!」
ネスさんが、確かな敵意を持って私に殴りかかる。
思わずぎゅっと目を瞑る。
星を、守る。
私にそんな大役が務まるとは思えない。
でも、何とかしなきゃいけないのかな。
お母さん、お父さん、たっくん――鈴原くん。
私に、全部守れるの?
押し殺していた不安が表に出ようとしていた頃。
「はい、しゅーりょー。そこまで」
聴いたことのない声が、響いた。
いつまで経っても、攻撃が当たる気配はない。
何だろう、と思って目をゆっくりと開ける。
ネスさんの片腕を、ネスさんよりは身長が低い、細身の黒髪の男の人が掴んでいた。
彼の赤い瞳が、ネスさんをじっと捉えていた。
「……っ、ナハトさん!? 何で止めんだよ! 今、チャンスだったろ! こいつ、まだハーツ・ラバーの覚悟もなんもできてねえ! 心が折れそうなんだ、今折ってやらなきゃこいつは……」
「姫っちが、やめろってさ」
「はあ!? アガペが!?」
「こういう子、嫌いじゃねえんだと。ま、あれだよ、オレらもさ。とうとう地球にハーツ・ラバー現れちまったわけだし、アニマも倒されちゃっただろ? 戻ってのんびり作戦立てようぜ」
「でもよ!」
「年上の言うことは、素直に聞いときなさいな」
ナハト、と呼ばれた人がネスさんの頭を軽く小突く。
ネスさんは、ひどく不服そうな顔を浮かべた。
「……アガペは年上じゃねーよ」
「オレはお前より年上だよ」
「ナハトさんは、アガペなんかの肩を持つつもりかよ」
「そーかも。オレ、姫っちのことは結構気に入ってるぜ? 妹みたいに思ってるよ。……っと、ゼロ」
ナハトさんがふと振り返る。
その視線の先では、ゼロットさんが飛んでいた。
「よっす、元気してた?」
「……てめえは相変わらずだな、ナハト。何考えてんのか全然読めねえ」
「はは、良く言われるわ。主にネスに。……ああ、姫っちから伝言。『体に気をつけて。私はずっとダーリンを愛してる』ってさ。ラブラブだねえ、お前ら」
「……そんなんじゃねえよ」
「照れんなって。姫っち結構落ち込んでるから、帰ってやれば?」
「できねーよ。俺様はオーディオの敵になるって、決めたんだ」
「あっそ。オレと姫っちはいつでも待ってるけどね」
ナハトさんが、呆然としている私を置いて、ネスさんの耳を引っ張る。
「ちょ、ナハトさん!? オレは待ってねーよ、こんな裏切り者! っつーか許せねーし!」
「はいはい、喚かないの。ほら、帰るぞー。チャンスはいつでもあるさ。そう急ぐことはない。……じゃーね、ブレイブラバーちゃん?」
ひら、とナハトさんが飄々とした笑顔で私に手を軽く振る。
え、と声を出す暇もなく、一瞬にしてネスさんとナハトさんの姿は消え去った。
終わった、のかな。
私、守れた、のかな。
何だか力が抜けて、その場にへなへなと座り込んでしまう。
安心したからか、変身が解けたらしい。
見ると、ドレスのようなハーツ・ラバーの服装はもう消えていて、ピンク色のワンピースが膝を覆っているのが視界に映った。
「……っ、鈴原くん!」
そこで、ようやく一番大事なことを思い出す。
なに安心してるの、私のばか。
鈴原くん、あんなに血が出てた。
早く、早く病院に。
よろけながらも立ち上がって、慌てて元いた方向へと駆け出す。
ハーツ・ラバーじゃないいつもの私はやっぱりとろくて、鈍くさくて、体力もなくて、少し走っただけで息切れをしてしまう。
頬の傷が、まだ痛む。
心臓が破れそうで、転びそうになる。
それでも、走って、走って、走り続けて。
「鈴原くんっ!」
彼の名前を呼んで、赤い髪の彼に近づいて。
私は、ぽかん、と口を開けた。
「……こずえ」
上体を起こしている鈴原くんが、私の名を呼ぶ。
服は、相変わらずボロボロだったけど。
傷が、全部治ってた。
あのぞっとする程に赤い血は、綺麗さっぱり消えている。
「……え? え? どうして……」
「俺様の、力だよ」
ちょこん、と頭に何かが乗る感触。
ゼロットさんだ。
「俺様は、アニマによって傷ついたモンをこうして治癒できる。命に関わる致命傷は、さすがに無理だけどな。……ま、俺様なりのサポートってやつだ」
体の力が、本当に抜ける。
鈴原くん。
鈴原くん、鈴原くん、鈴原くん。
生きてる、ちゃんと生きてる。
「……よかったぁ……っ」
引っ込めていた涙が、ぽろぽろと零れる。
私、やっぱり泣き虫のまんまだ。
私をじっと見ていた鈴原くんの表情が、和らぐ。
彼は、優しく笑ってくれた。
ゼロットさんがぴょん、と離れると、鈴原くんの大きな手が私の頭の上に乗った。
「鈴原くん……鈴原くん……っ!」
「……すまんな。ワイ、なんもできんかった。めっちゃ怖かったやろ。頑張ったな」
「そんな……そんな、私、なんて……っ」
「……めちゃくちゃかっこよかったで、こずえ。おおきに」
彼の声が、どこまでも優しくて、それにまた涙腺が刺激されて。
結局私は、しばらく鈴原くんに宥められながら大泣きしてしまった。
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