つぐむく。~中二病と不思議ちゃん~

ハリエンジュ

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第一話『お友達から始めましょう』

その5 ジェラシーなんてしたくないのに

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★つぐむく。~中二病と不思議ちゃん~ 第一話『お友達から始めましょう』その5 ジェラシーなんてしたくないのに

 昨日はあまり寝付けなかった。
 南雲と友達になって、渇望していた『友人』という存在ができて。
 舞い上がりすぎて、遠足前日の小学生みたいなテンションになってしまったのだ。
 きっと今、俺の目元にはひっどい隈が出来ていることだろう。
 片目は眼帯で覆っているのだから、然程目立たないとは思うけど。
 でも、南雲と友達になったは良いけれど、南雲の言う通り俺は何からすればいいやらまるでわからない。
 ……友達同士って、何をするんだ?
 そんな思いを悶々と抱えたまま、今日も今日とて登校すると。

「神室くん、おはようなのです」

 俺の隣の席に座って読書していた南雲が、こちらに気付いてぺこりと頭を下げて来た。
 誰かに挨拶してもらえた。
 そのことだけでも無性に嬉しくて飛び上がって喜びたいくらいだったが、俺は馬鹿なので片手で顔を覆って中二くさい台詞を吐く。

「フッ……良い朝だな、南雲。まさしく新時代の幕開けと言えよう。俺と言う救世主が誕生しようとしているのだからな!」

 もうわけわからん。
 心の中で自分に自分でツッコミを入れる。
 それでも、南雲はくすくすと笑って。
 南雲の笑顔を未だに見慣れていない俺の心臓が、どくんっと勢い良く跳ねる。

「やっぱり、神室くんは面白いのです。そういうところ、好きですよ」

 好き……好き……。
 衝撃的な言葉だった。
 脳内に、確実にエコーがかかっている。
 その発言に深い意味がないのはわかっている。でも、免疫がない俺はその場に真っ赤になって立ち尽くすことしかできなかった。
 ……南雲は、こんな俺を肯定してくれるんだな。
 中二病全開の俺を、ドン引きしたりもせず無邪気に受け入れてくれる。
 そのことにどれだけ俺が救われているかなんて、南雲はきっと気付いていないし俺もきっと伝えられない。
 それが歯痒くてもどかしくて仕方がなかった。

「椋ー!! おっはよー!!」

 突然教室に元気な声が響き渡る。
 昨日も聞いた声、昨日も経験した展開。
 デジャヴというやつだ。
 登校したばかりの牟田美夏が、南雲に突進して、抱きついて、そのまま頬ずりを始める。

「いやはや、朝から椋に触れるのは癒されるな! 今日も太ももの肉付きが実にセクシーだ。触ってもいいかい?」

「……美夏ちゃん……太ももについては椋、気にしているのです……」

 牟田に変態的に迫られて、太もものことを指摘されて椋が不満そうに俯く。
 太もも……。
 ちらりと視線を下にやると、なるほど確かに。
 南雲は小柄な体躯に反して、太ももの肉付きが良い。
 ……って、どこ見てんだよ俺は!!
 変態かよ!!
 本気で、自分で自分を殴りたくなった。

「はよ、神室」

 急に背後から声をかけられ、びくりと肩が跳ねる。
 振り返ると、牟田と一緒に登校してきたのだろうか。 
 牟田の彼氏の、志久次郎が立っていた。

「悪いな、美夏が南雲にべったりで」

 志久が申し訳なさそうな顔をする。
 悪い?
 何が?
 声も出せない俺に向かって、志久は補足するように言った。

「ん? お前と南雲、付き合い始めたんだろ?」

 つきあう。
 …………つきあう?
 ぼんっと自分の顔が真っ赤になるのが嫌でもわかった。
 俺は慌ててぶんぶんと首を横に振った。
 俺と南雲は友達だ、まだそんなんじゃない。
 ……いや、『まだ』って何だよ……。
 一人勝手に意識して浮き沈みしている俺が、俺は世界で一番滑稽な生き物のように思えてきた。
 志久は百面相をしている俺に訝しげな視線を送りつつも、穏やかに言う。

「何だ、違うのか。でも、多分仲良くなったんだろお前ら。美夏が邪魔するかもしれねえけど、あんまり気にすんなよ。俺で良ければフォローするからさ。……美夏、いい加減南雲から離れろよ。困ってるだろ。やれやれ……」

 そう言って、志久は牟田に近寄り、その首根っこを引っ掴んで南雲から引き剥がす。
 その時、昨日経験した感情がまた自分の胸の奥に渦巻いていることに気付いた。
 南雲と距離が近い牟田、南雲と自然体で話せる牟田。
 俺も、そう在りたいのに。
 どうすれば、南雲との距離が縮まるんだろう。
 女子に嫉妬するなんて、心が狭いし馬鹿馬鹿しいことくらいわかっている。
 それでも、俺は。
 俺は――ようやく出来た友達を、手放したくなくて。
 みっともない嫉妬に焦がれる胸が、無性に疎ましく感じる。
 その気持ちは、放課後まで悶々と続いたのだった。
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