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第二話『最愛の人よ』
その5 そのころの椋
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★つぐむく。~中二病と不思議ちゃん~ 第二話『最愛のひとよ』その5 そのころの椋
teller:志久次郎
「……しくじろーくん……?」
「……ん?」
授業を終えて一旦男子バスケットボール部の部活に向かった俺――志久次郎だったが、ふと忘れ物に気がついてユニフォーム姿のまま教室まで戻った。
その時、放課後だと言うのに同じタイミングで教室に入ろうとしていた女子の存在に気付く。
桜色の可愛らしいおさげ、カチューシャ、眼鏡、カーディガン、あとちっこい。
美夏の友達の、南雲椋だった。
『しくじろー』という呼び名は、美夏から伝染したんだろう。
フルネームで呼ばれるのは変な感じがするし、何かしくじってる感じがしてあんまり好きじゃないので正直あんまり広めないでほしいのだが、美夏はこの呼び名をひどく気に入っていた。
面白いらしい。俺には良くわからん。
俺は、俺とは反対側の扉から教室に入ろうとしていた南雲の姿を確認し、首を傾げる。
「一人か? 神室は、どうした? 一緒じゃないのか?」
美夏は今の時間は部活だろうし、南雲はどういう経緯か仲良くなった神室と一緒に居るのだろう、とてっきり思っていたのだが。
南雲は、俺に予想外の答えを返してきた。
「鶫くんなら、愛理ちゃんと、美夏ちゃんの部活に体験入部しに行ったのです」
美夏の部活に?
オカ研に体験入部ってことか?
しかも神戸と?
どういう組み合わせだ?
色々と不可解だったが、まあ南雲と神室が仲良くなったのも不可解と言えば不可解なので、あまり気にしないでおいた。
細かいことをいちいち気にしていては、あのエキセントリックな美夏の恋人など務まらないのである。
「椋は、やっぱり鶫くんと一緒に帰りたいから、ここで待ってるのです」
「そうか」
健気だな。
相当、南雲は神室に懐いているんだろう。
南雲が美夏以外に興味を示すなんて珍しい。
「それにしても、オカ研か……美冬がうるさいんだろうな。あいつ、美夏と二人きりになれないと露骨に不機嫌になるから」
「そう言えば、椋も美夏ちゃんと話していると、美冬くんに良く睨まれるのです」
「殺されかけるよりは、マシさ」
俺がそんな物騒な台詞を吐くと、南雲はきょとんと目を丸くした。
脳裏に、既に日常茶飯事となっている美冬からの襲撃、暗殺行為が過ぎるが、まあこの歳まで何とか無事でいられるだけ御の字なんじゃねーの。
知らんけど。
「……しくじろーくんは」
「ん?」
「危ない目に遭っても、美夏ちゃんのこと、好きなんですね」
南雲は、自分のことじゃないのに、どこか嬉しそうだった。
友達のこと、美夏のことだからかな。
だとしたら、南雲は割と優しいやつなんだろう。
美夏が気に入るわけだ。
「まあ、俺はこれでもあいつに心底惚れてるからな」
「どうしてですか?」
どうして。
その理由を、俺は上手く説明できなかった。
どうして俺が、あんな変人にこんなにも惚れているのか。
わからないけど、誰かを好きになるのに特別な理由も要らない、と俺は思う。
「良くわかんないけど、運命なんじゃねーの?」
そう言った、俺の顔は。
オレンジがかった教室の窓に映った俺の顔は。
――心なしか、どこか穏やかだった気がした。
teller:志久次郎
「……しくじろーくん……?」
「……ん?」
授業を終えて一旦男子バスケットボール部の部活に向かった俺――志久次郎だったが、ふと忘れ物に気がついてユニフォーム姿のまま教室まで戻った。
その時、放課後だと言うのに同じタイミングで教室に入ろうとしていた女子の存在に気付く。
桜色の可愛らしいおさげ、カチューシャ、眼鏡、カーディガン、あとちっこい。
美夏の友達の、南雲椋だった。
『しくじろー』という呼び名は、美夏から伝染したんだろう。
フルネームで呼ばれるのは変な感じがするし、何かしくじってる感じがしてあんまり好きじゃないので正直あんまり広めないでほしいのだが、美夏はこの呼び名をひどく気に入っていた。
面白いらしい。俺には良くわからん。
俺は、俺とは反対側の扉から教室に入ろうとしていた南雲の姿を確認し、首を傾げる。
「一人か? 神室は、どうした? 一緒じゃないのか?」
美夏は今の時間は部活だろうし、南雲はどういう経緯か仲良くなった神室と一緒に居るのだろう、とてっきり思っていたのだが。
南雲は、俺に予想外の答えを返してきた。
「鶫くんなら、愛理ちゃんと、美夏ちゃんの部活に体験入部しに行ったのです」
美夏の部活に?
オカ研に体験入部ってことか?
しかも神戸と?
どういう組み合わせだ?
色々と不可解だったが、まあ南雲と神室が仲良くなったのも不可解と言えば不可解なので、あまり気にしないでおいた。
細かいことをいちいち気にしていては、あのエキセントリックな美夏の恋人など務まらないのである。
「椋は、やっぱり鶫くんと一緒に帰りたいから、ここで待ってるのです」
「そうか」
健気だな。
相当、南雲は神室に懐いているんだろう。
南雲が美夏以外に興味を示すなんて珍しい。
「それにしても、オカ研か……美冬がうるさいんだろうな。あいつ、美夏と二人きりになれないと露骨に不機嫌になるから」
「そう言えば、椋も美夏ちゃんと話していると、美冬くんに良く睨まれるのです」
「殺されかけるよりは、マシさ」
俺がそんな物騒な台詞を吐くと、南雲はきょとんと目を丸くした。
脳裏に、既に日常茶飯事となっている美冬からの襲撃、暗殺行為が過ぎるが、まあこの歳まで何とか無事でいられるだけ御の字なんじゃねーの。
知らんけど。
「……しくじろーくんは」
「ん?」
「危ない目に遭っても、美夏ちゃんのこと、好きなんですね」
南雲は、自分のことじゃないのに、どこか嬉しそうだった。
友達のこと、美夏のことだからかな。
だとしたら、南雲は割と優しいやつなんだろう。
美夏が気に入るわけだ。
「まあ、俺はこれでもあいつに心底惚れてるからな」
「どうしてですか?」
どうして。
その理由を、俺は上手く説明できなかった。
どうして俺が、あんな変人にこんなにも惚れているのか。
わからないけど、誰かを好きになるのに特別な理由も要らない、と俺は思う。
「良くわかんないけど、運命なんじゃねーの?」
そう言った、俺の顔は。
オレンジがかった教室の窓に映った俺の顔は。
――心なしか、どこか穏やかだった気がした。
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