つぐむく。~中二病と不思議ちゃん~

ハリエンジュ

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第二話『最愛の人よ』

その8 おまえを殺してなんかやらない

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★つぐむく。~中二病と不思議ちゃん~ 第二話『最愛のひとよ』その8 おまえを殺してなんかやらない

teller:神戸愛理

「大丈夫なのか!? 牟田、これ、本当に大丈夫なのか!?!?」

 オカルト研究部部室。
 怪しげな魔法陣の上に、神室鶫くんは縛り上げられていた。
 その顔面は蒼白で、恐らく冷や汗も凄い勢いで噴き出している。
 それでもこの状況に神室くんを追いやった牟田美夏さんはにこにこと一点の曇りもない笑顔を浮かべていた。

「大丈夫だ鶫、恐らく死にはしない! 少し霊に魂を持っていかれるかもしれんが!」

「それ絶対大丈夫じゃないやつ!!」

 半泣きで抗議する神室くんだったけど彼を縛る縄の拘束は私が思っているよりきついのか、いくら神室くんが身じろいでも状況は変わらなかった。

「姉様、今日も素敵です!!」

 そんな神室くんの危機的状況を意にも介さず、牟田美冬くん――私、神戸愛理の想い人は、きらきらと目を輝かせてまっすぐな思慕の情を美夏さんに向けている。
 その直向きな眼差しが、どこまでも純粋で、こんな状況だと言うのに彼を凄く愛おしいな、と思ってしまった。

「誰か止めて! 助けて!」

「それは出来ない相談だな! この儀式はオカルト研究部始まって以来の壮大なものになりそうだからな!」

「志久ーー!! 今すぐ助けに来てくれ、志久ーー!!!!」

 神室くんの抵抗も虚しく、美夏さんはオカルト的な儀式をてきぱきと進めていく。
 神室くんは可哀想だと思ったけれど私は薄情なことに、隣に牟田くんが居てくれるという事実に、しかも彼の美夏さんを想うきらきらとした表情を間近で見られることに胸がきゅんきゅんと高鳴っていた。
 思わず、くすくすと笑いが漏れる。
 そんな私を見て、牟田くんは怪訝そうに眉を顰めた。
 私は牟田くんに、深くて重い恋愛感情だけで構成された表情を向けて、言った。

「牟田くんは、美夏さんが本当に好きなんだね」

 私がそう告げると、牟田くんは『何を当たり前のことを言っているんだ』と言いたげな表情をしたあと、誇らしげに胸を張った。

「そりゃあ、僕の最高の姉様だからな。姉様はいつだって完璧だ。そんな姉様を、慕わない理由があるか?」

 どこまでも、美夏さんを想い続ける牟田くん。
 そんな姿が好きだな、と思ったし――少し、寂しくもあった。

「……私ね、牟田くんのそういう一途なところ、本当に素敵だと思う」

「……は?」

 牟田くんが、ますます『意味が分からない』と言ったような表情を浮かべる。
 何だろう、神室くんの後押しで強気になれたのかな。
 次の一言は思ったよりすんなりと喉の奥から出てきて、オカルト研究部室の淀んだ空気に溶けていった。

「……好きだよ、牟田くん。男の子として、私は牟田くんが大好き。私、牟田くんに、殺意でもいいから真っ直ぐな気持ちを向けられたいの。それだけなの。だからね、私……死ぬ時は、牟田くんに、殺されたいの」

 牟田くんは、しばし私の告白に絶句していた。
 何か、信じられないものを見てしまった。
 そんなような、表情だった。
 当たり前なのかもしれない。
 私の愛の形は、きっと人よりずっとおかしいから。
 牟田くんは少し押し黙った後、吐き捨てるように言った。
 私を、鋭く睨みながら。
 その、男の子にしては大きな瞳に宿るのは。
 確かな拒絶。嫌悪の感情。

「……誰が、おまえなんか殺すか」

 牟田くんの声が、いつもより低い。
 それは、彼がとんでもなく不機嫌な証拠で。

「おまえを、殺してなんかやらない。……おまえなんて、殺す価値もない」

「……そっか、じゃあ私、もっと頑張るね。牟田くんに殺してもらえるように」

 そう、微笑みながら言うと。
 牟田くんは非常にばつが悪そうな顔をした後、私から顔を背けてしまった。
 その一連の行為に胸が痛む自分はいたけど、憎悪、嫌悪とは言え、牟田くんから何かしら特別な感情を向けられたことが、私は嬉しくて嬉しくてたまらなかったのだ。
 おかしくたっていい、誰にも理解されなくっていい。
 ただ、私は牟田くんが好き、大好き。
 それだけの、話なんだ。




teller:牟田美冬

 クラスメイトの神戸愛理に、たった今、僕は告白された。
 最初に感じたことは、『理解できない』、だった。
 姉様に恋をしたなら、気に食わないが、まだわかる。
 姉様は、世界で一番素敵な人だから。
 それによって僕の神戸への悪感情が増すのは、別として。
 なのに神戸は、姉様ではなく僕なんかを『好きだ』と言ってきたのだ。
 何でこの女は姉様じゃなくて僕なんだ。
 理解できない。
 全くもって、理解できない。
 姉様の魅力を理解できない、姉様を肯定しない神戸愛理。
 僕は、この神戸愛理という人間が――たった今、憎らしいくらいに嫌いになったのは、確かだった。
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