つぐむく。~中二病と不思議ちゃん~

ハリエンジュ

文字の大きさ
35 / 38
第四話『コイゴコロはむずかしい』

その1 ひだまりのような居場所

しおりを挟む
★つぐむく。~中二病と不思議ちゃん~ 第四話『コイゴコロはむずかしい』その1 ひだまりのような居場所

 っあーーーー、ボコられた傷が痛い、とにかく痛い。
 不良少年・村瀬静流に完膚なきまでにボコボコにされた俺は、翌日、包帯まみれで登校した。
 包帯の下は痛々しい痣まみれだが、元々俺は中二病のせいで包帯キャラとして通っていたので、そこまで目立たないだろう、多分。
 実に悲しい話なのだが。

「っ、鶫くん」

 教室に入ると、一番に椋と目が合った。
 椋が、俺のボロボロの姿を見るなりはっと悲しそうに目を見開き息を呑む。
 その表情を見る度、胸がぐさりと刺されたかのように痛くなる。
 こんな椋の顔、俺はできればもう二度と見たくない、させたくない。

「鶫くん、大丈夫なのですか……?」

 わざわざ席を立って、椋は俺に近寄り、ぎゅ、と俺の両手を握ってくれる。
 村瀬に一撃すら浴びせられなかった、弱々しい俺の拳。
 それを椋が包んでくれるだけで俺はどうしようもなく救われた気分になるのだから、ほんと、馬鹿だと思う。
 俺はちょっと眉を下げて笑う。

「大丈夫。すぐ治る。大した傷じゃない。それに、ほら。あれだ。いつもの救世主パワーで、きっと何とかなるさ」

 中二病設定を、無理矢理笑い話に変えてみる。
 本当に、俺が万能の救世主だったら良いのにな。そしたらもっとちゃんとした形で椋を笑顔に、幸せにできた筈なのに。
 椋は俺の言葉に一瞬きょとんとして、それからくすりと笑って、でもやっぱり悲しげに目を伏せて。それにまた胸が痛んで、俺は椋の手を弱々しく握り返し、言い聞かせるように言った。

「……うん、ごめん。ほんとに、もう無茶はしない。無茶することがあっても、ちゃんと事前に椋に相談する。約束する」

「……はい」

 椋が手を離したかと思うと、そっと自分の小指を差し出してきた。
 気恥ずかしい気持ちはあった、勿論あったけど。
 でも、やっぱり安心させてやりたくて、俺は自分の小指を椋のそれに絡めた。
 触れた体温にどきりとする自分には、今は見ない振りをしておいた。

「おいーっす! 派手にやられたな、鶫! いやはや、静流も容赦ないねえ!」

 元気良く低めの声がぶつけられたかと思いきや、背中を叩かれた。
 牟田だ、牟田美夏。
 牟田とあんまり仲良くしていたら、牟田弟こと牟田美冬に殺意を向けられるから極力距離を置きたいのだが、椋の手前どうすればいいやらわからない。
 あれ、でも、何で。

「……牟田。何で俺が村瀬にボコられたって知ってるんだ?」

 志久から聞いたのか?
 素朴な疑問を口に出すと、牟田は何故かにやり、と色濃い笑みを浮かべて得意気に胸を張った。

「ふふん、何でだと思う?」

 そうのたまう牟田に目を丸くしていると、一人、牟田に白い目を向けているやつを見つけた。
 志久だった。
 志久次郎、牟田の恋人。

「……美夏。さてはその、決闘とやら、直で見てたな?」

「ははは、面白そうだったからな!」

「趣味が悪いな、おまえは……って言うか、止めてくれよ……やれやれ……」

 志久が溜息を吐き、頭を抱える。
 椋もまた、少ししゅんと肩を落とした。

「美夏ちゃん、ひどいのです……」

 機嫌を損ねた椋を宥める為、牟田がぎゅーっと椋に抱きつく。
 その距離感を、一瞬羨ましい、だなんて思ってしまったなんて、決して言ってはいけない。

「神室、大丈夫か?」

 ぼうっと椋と牟田を眺めている俺に、志久が気遣わしげに声をかける。
 そう言えば。
 志久は、俺のこと――俺なんかのこと、友達だって思ってくれてるんだよな。
 そう思うと、俺も勇気を出さなきゃいけない気がして。

「ああ。あの……ありがとう。……次郎」

 ちょっと小さな声で初めて志久の下の名前を呼ぶ。
 その声は志久に、いや次郎にばっちり届いたらしく、次郎は少し驚いた顔をしたあと、ちょっと嬉しそうに笑った。

「ん。『しくじろー』って呼ばれないの、嬉しいぞ。鶫」

 名前で呼んでもらえた、男友達に。
 ちょっと、いやかなり嬉しくて、舞い上がって傷口が開きそうになる。
 ふと、椋に抱きついていた牟田がぴょんぴょんと存在を主張するかのようにその場で飛び跳ね始めた。

「ずるいずるい! 私も美夏と呼んでくれないか、鶫!」

「あ……じゃあ、美夏」

 流されるまま、牟田の下の名前を初めて見る。
 椋以外の女の子を下の名前で呼ぶの、変な感じだな、とふわふわ思っていると。

 どすり。
 何か、重たい音がした。
 音の発生源を見ると、俺の傍の壁で。
 壁には、何故か彫刻刀が刺さっていた。
 問題の彫刻刀を力強く握り締め、俺を鋭く睨んでいるのは――シスコン、じゃなかった牟田美冬、牟田弟で。

「……姉様を、気安く呼び捨てにするな。下等生物」

「ひ、ひえっ、すみませ、ん……」

 つい、情けない声が漏れた。
 この彫刻刀が俺に刺さっていたら、どうなっていたのだろうか。
 ボコられる以上の生命の危機に陥るんじゃないだろうか。
 冷や汗をだらだら流す俺の傍で、美夏がびしり、と美冬を指差す。

「こらこらー、美冬、危ないではないか!」

「はい、姉様、ごめんなさいっ!」

 美夏に言葉を返す美冬の瞳は、子犬のようにきゅるんとしてきた。
 ……いや、毎度思うが、態度違い過ぎだろう。

「む、椋ちゃん、おはよう……」

「愛理ちゃん、おはようなのです」

 聞き慣れた声に視線を動かすと、椋に神戸愛理が声をかけていた。
 神戸の視線は、じっと美冬に突き刺すように向けられていた。

「……牟田くん、今日もかっこいいな……素敵だな……」

「おまえは相変わらずだな、愛理……」

 俺が少し引き気味に言葉を発すると、愛理はぱちぱちと目を瞬かせたあと、ふわりと笑った。

「わ、名前で呼んでくれるんだ。ありがとう、鶫くん」

「……まあ、おまえも、俺のこと、友達だって言ってくれたしな」

 そう言った瞬間。
 きゅ、と制服の袖が引っ張られた。
 視線を落とすと、椋が面白くなさそうな顔をしていて。

「……鶫くんは、いわゆる『たらし』なのです」

「……は?」

 言葉の意味をもう少し詳しく聞きたくて口を開いた瞬間、でっかい影が椋に覆い被さった。
 眩しい金髪、長身。
 これは。

「椋ちゃーん、おっはよー!」

「わ、麻耶ちゃん。おはようなのです」

 八ツ橋だ。
 八ツ橋麻耶。
 俺と村瀬の、決闘のきっかけ。
 とは言っても、八ツ橋に恨みはないし、八ツ橋に非があるとは思えない。
 八ツ橋の視線が俺に向けられる。
 思わず、ぎくり、と固まってしまう。

「鶫くんも、おはよっ!」

 おはよう、とは返せなかった。
 申し訳なかったけど、軽く笑って、会釈するのが精一杯だ。
 八ツ橋とは、距離を置かなければならない。
 それが村瀬との約束だから。
 男としてのケジメだから。
 それに、八ツ橋と友達になれなくたって、俺は大丈夫、大丈夫なんだ。恵まれてる。恵まれすぎている。
 今の俺には――こんなにも、温かい人たちが傍にいてくれる。
 それだけで、今はいい。
 勿論、俺の一番の特別は椋だけど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...