貴方の隣で呼吸がしたい。

ハリエンジュ

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第一話『きみ、異世界転生って知ってるかね?』

その7 プレザント・ナイトメア

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★貴方の隣で呼吸がしたい。 第一話『きみ、異世界転生って知ってるかね?』その7 プレザント・ナイトメア

 目を開けると、私は騒々しい世界に居た。
 はっと意識が浮上し、慌てて辺りを見回す。
 それから、私は私を取り巻く異常に気付いた。
 そこは、ビル街だった。
 現代社会で慣れている筈の、有り触れた筈のビル街。
 けれど、通行人の様子がおかしい。
 私の横を忙しなく横切る人々は、確かな『異形』だった。
 獣の耳が、角が、翼が付いた人々が、平然と世界をうろついている。
 中には私のような普通の人間も居たので私が特別浮いているわけでもなかったが、それでも、おかしな状況であることは確かだった。

「――異世界『プレザント・ナイトメア』。意味は『賑やかな悪夢』。人外人間入り乱れる、文字通り賑やかな異世界だ」

 聞き慣れた声がして、視線を僅かに下げると、すぐ横に聖くんが居た。
 顔には出さずとも動揺している私とは正反対に、至って余裕そうな表情だ。

「面白いだろう?」

 そう言って、聖くんはいつもの掴みどころのない笑顔を浮かべた。
 思わず、眉を顰めてしまう。
 確かに深い考えもなしに小夜さんを求めて衝動的にこの世界に来たのは他でもない私だが、もう少し移動先の異世界について詳しく説明しておいてほしかった。
 聖くんが困ったように笑って、肩を竦める。

「そう、怖い顔をしないでおくれ。大丈夫。ちょーっとヒトとは違う『魔族』が闊歩しているだけで、ちゃんときみたちヒトとも共存はできている。一見ファンタジックな世界だが、ご覧の通りビル街や学校もある。社会構造は、運が良いことに元の世界と大体同じさ。きみなら、すぐに適応できるのだよ」

 言葉が、上手く出て来ない。
 適応とは、また簡単に言ってくれる。
 現に、この状況に声一つ出せないほど、私は困惑していると言うのに。
 一方、聖くんはにやつきながらことを進めてくる。

「さて、これからどうするかだが――ちぃ。きみにはね、この異世界プレザント・ナイトメアで、学業地区にある黄桜きざくら高校2年1組の担任教師になってもらう。元の世界と同じ、教師の仕事だ。慣れたものだろう?」

 慣れている、とは言っても、その生徒たちも、同僚というのも、魔族が混じっているわけだが。
 まずは彼らの外見に動じないようにする胆力を身につけなければならないだろう。
 差別的な考えは、教師として捨てなければならない。

「すでに引継ぎの業務は済んでいるはずだ。おれの神様パワーでね」

「……何でもありなんですね。きみのその『神様』の力とやらは」

「まあ、おれだからね」

 自慢げに、聖くんがえへんと胸を張る。
 その自信はどこから来るのか甚だ疑問だったが、現にこの異世界に私を連れて来たのは聖くんだ。
 彼が、普通の人ならざる者なのは、確かだった。

「道を教えるから、とりあえず学校に挨拶に行きたまえよ。ちぃ。ちなみに、おれも転入生としてきみのクラスに入るから、よろしく」

 学校でも、聖くんと一緒なのか。
 そう言えば、聖くんのこの世界での立場を私は思慮に入れていなかった。
 聖くんのこともある程度大事に思っている筈なのに、つくづく駄目な大人だ、私は。
 しかし、聖くんとは長年名前のない関係を築いてきたからか、彼と教師として向き合うとなると、妙な感じがする。

「――ああ、それから」

 ふと、思い出したかのように聖くんが声を上げた。
 それから、彼は笑みを深めて。

「学校でもし、小夜ちゃんに会ったら――慎重にな」

 ――聖くんのこの言葉を、良く良く噛み締めておかなかったことを、私が後悔することになると知るのは、もう少し後の話である。
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