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第二話『こどものぼうけん』
その6 嗚呼、素晴らしき冒険の日
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★貴方の隣で呼吸がしたい。 第二話『こどものぼうけん』その6 嗚呼、素晴らしき冒険の日
teller:フィーナ・ミスタル
「聖くん、足、辛くない? 大丈夫?」
「うむ。おれは平気なのだよ。そんなにヤワじゃないさ。ちぃに日々殴られて鍛えられてるからね」
「あはは。殴られるのと足ってなんか、関係ないね」
私――フィーナ・ミスタルの少し後ろを、転入生の神前聖くんが、杖をつきながらついてきてくれている。
片足が義足だと聞いた時は心配したが、彼は私と一緒に行きたい、私についていきたいのだと言ってくれて。
実際今も、疲れも苦しさも微塵も感じさせない様子で笑ってくれている。
そのことに――私はとても、救われていた。
私と聖くんは現在、黄桜高校の裏庭を探検している。
実を言うと、この裏庭は立ち入り禁止区域だ。
理由は、裏庭の奥深くにちょっと凶暴な魔物が生息しているから。
でも、私は――私は、この裏庭という空間に強く惹かれていた。
だって此処には、私の知らない『未知』がある気がしたから。
私は、他人に比べてちょっと好奇心が強い、気がする。
未知が好きだ、変わったものが好きだ。
不確かなものは、確かめたくなってしまう。
危険や冒険が大好きだし、もはや冒険は私のライフワークのようなものだけど、今まで私の好奇心についてこれる――まあ、『物好き』は、あんまりいなかった。
そのことに寂しさを抱えつつ、日々をぼんやりと過ごしていた私は今日――この、聖くんと出会ったのだ。
聖くんは、自分のことを『神様』だと豪語した。
自分に対する自信に満ち溢れた堂々とした態度、超然とした雰囲気。
只者じゃない、と感じ取って、声をかけて、共に行動をして。
勇気を出して『冒険』に誘ってみたら――聖くんは、快く誘いに乗ってくれた。
「……ふふっ」
「おや、どうしたのかね、フィーナ。随分と嬉しそうじゃないか」
ちょっと、いや、かなり、今の私は浮かれ切っているかもしれない。
思わず笑い声を漏らすと、聖くんが私の顔を覗き込んだ。
私より少し背の低い、聖くん。
灰色の瞳が、綺麗だな、と漠然と思った。
「うん、嬉しいよ。私ね、未知とか冒険とか、奇跡とか……そういうの、大好きなんだけど、自分でも探しに行きたいっていっつも思ってるんだけど、なかなかついてきてくれる人いなくて。仲良しのフウリちゃんには『危ない』って叱られちゃうし、小夜ちゃんは、やっぱり危ない目に遭わせたくないタイプだし」
「ふむ、なるほどね」
そう、ずっと、私はその誰かを求めていた。
だから。
「だから、私、嬉しいの。聖くんが一緒に来てくれて。今、凄く嬉しいし、楽しい」
幸せなんだよって伝えたくて、笑顔を向けると、聖くんもにこりと笑ってくれた。
ぽん、と杖を持っていない方の手が、私の頭に乗せられる。
きょとんとしていると、聖くんはにまにましながら言った。
「では、これからはおれが、きみにお供しよう。おれも、楽しいことは大好きなのだよ」
わ。
じんわりと、胸いっぱいに喜びが広がっていく。
どうしよう、今、凄く嬉しい。
嬉しすぎて、逆に涙が出そうだ。
……未知とか冒険とか、好きのままで良かったな。
こうして、わかってくれる人も居るんだ。
そんなことを考えながら、ふと視線を上げて。
私は、思わず息を呑んだ。
「わっ……見て見て! 聖くんっ!」
「……ほう。これは……凄いね。絶景なのだよ」
私たちの目の前の木々には、木の実のように色とりどりの水晶が実っていた。
それぞれ淡い輝きを放ち、幻想的な空気を作り出している。
凄く、綺麗。
学校の傍に、こんな素敵な場所があったなんて。
私が今まで見た中で、一番美しい光景を、私は目にしているかもしれない。
これだから、冒険はやめられない。
楽しい発見がいっぱいあるから、心を、感情を、強く強く動かされるから。
私が感動して、さっきとはまた違う意味で泣きそうになっていると。
がさり。
妙な音がした。
割と、近くの茂みからだ。
びっくりして視線をやる。
何だろう、嫌な予感がする。
茂みが、かさかさと揺れる。
そこから、のそり、と出てきたのは。
「っわ……」
――真っ黒い、狼と蛇が一緒になったような、『魔物』。
本で見たことがある。
あれは、『キメラ』と呼ばれる――かなり、獰猛な『魔物』だ。
流石の私も、身を固くする。
危険は好きだけど、いざこの身にはっきりとした危機が迫ると、やはり多少は怖い。
どうしよう、襲われるのかな、怪我しちゃうのかな。
――怪我で、済むのかな。
思考回路が悪い方へ悪い方へと動き出していると、キメラが低い唸り声を上げた。
やばい。
キメラが、今にも私たちに飛びかかろうとする。
せめて聖くんを巻き込みたくなくて、庇おうと前に出ようとした瞬間。
――聖くんが、くすりと笑った。
聖くんの笑顔を見て、キメラの動きが止まる。
聖くんの雰囲気が、変わった気がする。
何だろう、冷たくて、厳かで――神々しいような、不思議な感じ。
キメラは、聖くんの笑顔を、すっと細められた灰色の視線を受けて、怯えているかのようだった。
目だけで、こんな魔物を竦ませるなんて。
やっぱり、聖くんは只者じゃない。
こんな時だと言うのに高揚してしまう私は、ちょっと馬鹿なのかもしれない。
聖くんに、私もキメラも意識を奪われていた時だった。
急に第三者の影が飛び出し、キメラを横から強く殴りつけ、一発でダウンさせた。
走ってきたのか、少し乱れた黒髪、理知的な印象を与える眼鏡、かっちりとしたスーツ。
――千歳先生。
え、先生、凄い。
一撃で、キメラ倒しちゃった。
足下で目を回しているキメラを一瞥した後、千歳先生は乱れた髪を少し直し、じろり、と私たちを睨んでくる。
それでも、聖くんは楽しそうに笑った。
「さっすが、ちぃ。相変わらずのインテリゴリラだね」
「誰がインテリゴリラですか」
淡々とそう言うと、千歳先生はがんっと聖くんの頭をグーで殴った。
結構な音がしたけど、それでも聖くんはへらへらしていた。強い。
千歳先生の意識が、私に向けられる。
あ、やばい。
ぎゅっと目を閉じて、衝撃に備える。
でも、襲ってきたのは軽い衝撃。
――デコピンされた、軽く。
私が額を押さえて、きょとんとしていると、千歳先生は私たち二人を見下ろし、少し安堵したように息をついて。
「……心配、したんですからね」
……あ。
この先生。
ちょっと、可愛い人かもしれない。
叱られていると言うのに、何だか嬉しくなってしまったのが、不思議かつ、申し訳なかった。
teller:フィーナ・ミスタル
「聖くん、足、辛くない? 大丈夫?」
「うむ。おれは平気なのだよ。そんなにヤワじゃないさ。ちぃに日々殴られて鍛えられてるからね」
「あはは。殴られるのと足ってなんか、関係ないね」
私――フィーナ・ミスタルの少し後ろを、転入生の神前聖くんが、杖をつきながらついてきてくれている。
片足が義足だと聞いた時は心配したが、彼は私と一緒に行きたい、私についていきたいのだと言ってくれて。
実際今も、疲れも苦しさも微塵も感じさせない様子で笑ってくれている。
そのことに――私はとても、救われていた。
私と聖くんは現在、黄桜高校の裏庭を探検している。
実を言うと、この裏庭は立ち入り禁止区域だ。
理由は、裏庭の奥深くにちょっと凶暴な魔物が生息しているから。
でも、私は――私は、この裏庭という空間に強く惹かれていた。
だって此処には、私の知らない『未知』がある気がしたから。
私は、他人に比べてちょっと好奇心が強い、気がする。
未知が好きだ、変わったものが好きだ。
不確かなものは、確かめたくなってしまう。
危険や冒険が大好きだし、もはや冒険は私のライフワークのようなものだけど、今まで私の好奇心についてこれる――まあ、『物好き』は、あんまりいなかった。
そのことに寂しさを抱えつつ、日々をぼんやりと過ごしていた私は今日――この、聖くんと出会ったのだ。
聖くんは、自分のことを『神様』だと豪語した。
自分に対する自信に満ち溢れた堂々とした態度、超然とした雰囲気。
只者じゃない、と感じ取って、声をかけて、共に行動をして。
勇気を出して『冒険』に誘ってみたら――聖くんは、快く誘いに乗ってくれた。
「……ふふっ」
「おや、どうしたのかね、フィーナ。随分と嬉しそうじゃないか」
ちょっと、いや、かなり、今の私は浮かれ切っているかもしれない。
思わず笑い声を漏らすと、聖くんが私の顔を覗き込んだ。
私より少し背の低い、聖くん。
灰色の瞳が、綺麗だな、と漠然と思った。
「うん、嬉しいよ。私ね、未知とか冒険とか、奇跡とか……そういうの、大好きなんだけど、自分でも探しに行きたいっていっつも思ってるんだけど、なかなかついてきてくれる人いなくて。仲良しのフウリちゃんには『危ない』って叱られちゃうし、小夜ちゃんは、やっぱり危ない目に遭わせたくないタイプだし」
「ふむ、なるほどね」
そう、ずっと、私はその誰かを求めていた。
だから。
「だから、私、嬉しいの。聖くんが一緒に来てくれて。今、凄く嬉しいし、楽しい」
幸せなんだよって伝えたくて、笑顔を向けると、聖くんもにこりと笑ってくれた。
ぽん、と杖を持っていない方の手が、私の頭に乗せられる。
きょとんとしていると、聖くんはにまにましながら言った。
「では、これからはおれが、きみにお供しよう。おれも、楽しいことは大好きなのだよ」
わ。
じんわりと、胸いっぱいに喜びが広がっていく。
どうしよう、今、凄く嬉しい。
嬉しすぎて、逆に涙が出そうだ。
……未知とか冒険とか、好きのままで良かったな。
こうして、わかってくれる人も居るんだ。
そんなことを考えながら、ふと視線を上げて。
私は、思わず息を呑んだ。
「わっ……見て見て! 聖くんっ!」
「……ほう。これは……凄いね。絶景なのだよ」
私たちの目の前の木々には、木の実のように色とりどりの水晶が実っていた。
それぞれ淡い輝きを放ち、幻想的な空気を作り出している。
凄く、綺麗。
学校の傍に、こんな素敵な場所があったなんて。
私が今まで見た中で、一番美しい光景を、私は目にしているかもしれない。
これだから、冒険はやめられない。
楽しい発見がいっぱいあるから、心を、感情を、強く強く動かされるから。
私が感動して、さっきとはまた違う意味で泣きそうになっていると。
がさり。
妙な音がした。
割と、近くの茂みからだ。
びっくりして視線をやる。
何だろう、嫌な予感がする。
茂みが、かさかさと揺れる。
そこから、のそり、と出てきたのは。
「っわ……」
――真っ黒い、狼と蛇が一緒になったような、『魔物』。
本で見たことがある。
あれは、『キメラ』と呼ばれる――かなり、獰猛な『魔物』だ。
流石の私も、身を固くする。
危険は好きだけど、いざこの身にはっきりとした危機が迫ると、やはり多少は怖い。
どうしよう、襲われるのかな、怪我しちゃうのかな。
――怪我で、済むのかな。
思考回路が悪い方へ悪い方へと動き出していると、キメラが低い唸り声を上げた。
やばい。
キメラが、今にも私たちに飛びかかろうとする。
せめて聖くんを巻き込みたくなくて、庇おうと前に出ようとした瞬間。
――聖くんが、くすりと笑った。
聖くんの笑顔を見て、キメラの動きが止まる。
聖くんの雰囲気が、変わった気がする。
何だろう、冷たくて、厳かで――神々しいような、不思議な感じ。
キメラは、聖くんの笑顔を、すっと細められた灰色の視線を受けて、怯えているかのようだった。
目だけで、こんな魔物を竦ませるなんて。
やっぱり、聖くんは只者じゃない。
こんな時だと言うのに高揚してしまう私は、ちょっと馬鹿なのかもしれない。
聖くんに、私もキメラも意識を奪われていた時だった。
急に第三者の影が飛び出し、キメラを横から強く殴りつけ、一発でダウンさせた。
走ってきたのか、少し乱れた黒髪、理知的な印象を与える眼鏡、かっちりとしたスーツ。
――千歳先生。
え、先生、凄い。
一撃で、キメラ倒しちゃった。
足下で目を回しているキメラを一瞥した後、千歳先生は乱れた髪を少し直し、じろり、と私たちを睨んでくる。
それでも、聖くんは楽しそうに笑った。
「さっすが、ちぃ。相変わらずのインテリゴリラだね」
「誰がインテリゴリラですか」
淡々とそう言うと、千歳先生はがんっと聖くんの頭をグーで殴った。
結構な音がしたけど、それでも聖くんはへらへらしていた。強い。
千歳先生の意識が、私に向けられる。
あ、やばい。
ぎゅっと目を閉じて、衝撃に備える。
でも、襲ってきたのは軽い衝撃。
――デコピンされた、軽く。
私が額を押さえて、きょとんとしていると、千歳先生は私たち二人を見下ろし、少し安堵したように息をついて。
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