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第31話 名字と娘
しおりを挟むしばらくの後、夕暮れ刻
ク海から見上げる空に乾いた銃声が響く。
ユウジ達は魂座の城の門の崩れた石垣の陰でうずくまっていた。
深い霧が出ていて、周りが良く見えない。
城は天守はおろかすぐ先ににある城門すら霞んでいる。
しかし、ずいぶん荒れ果てているのは分かる。
その中で土埃がもうもうと舞う。
理由は・・・。
「あの、本当にここ、魂座殿のお城なんですか?」
一応、主という立場の少年が頭を抱えて訊く。
「いかにも!」
中年落ち武者が胸を張る。
ーチュキィッンー
胸を張ってのけぞったため、飛び出た立派な兜の鹿の前建ての先が砕け散った。
「じゃあどうしてオレ達、今、狙撃されてるんですかっ?」
少年は質問を大人にぶつける。
「ちょっとした、行き違いにござる。」
大人はいつも適当を言うなと少年は呆れる。
「話の持って行き方というより、・・最初から話してもらってないですよね!」
また、一発撃たれた。
今のは本当に危ない。
「そもそも飛び道具で父親を門前払いってあり得るのかよ!」
ク海ってやっぱり狂ってる!狂った世界だ!少年は手に持った石をちょっと放る。
瞬間、乾いた音と共にその石が即座に砕け散った。
「おおう・・・・」 少年は身動き取れないことを知った。
すると城門の上から若い女性の声が聞こえてきた。
「ちぃちぃうぅえええー!」
反対側の門の陰で、魂座がワシの娘という意味だろう、自分と声の方を交互に指す。
「ちぃちぃうぅえええー!なぜじゃぁぁぁぁ!」
声の主は相当お怒りなのであろう。城門周辺の波石が真っ赤だ。
近づきたくもないのに、帰れもしない。なんてとこに来てしまったんだ。
「ちぃちぃうぅえええー!なぜ生モノの配下に成り下がったのじゃぁぁぁぁ!」
生モノ?言うにことかいて生モノとな?ユウジは目の前がぐらつく。
滝から落ちる前は、まだまともだったよ。
ク海に来てからどうだ、変なことばかりだ・・・とユウジはつぶやいた。
「それは、みんな自分の当たり前が違うからだよ。」
サラッとローラが耳元で囁いた。
「埒があきませんわ。」
向こうの岩陰で正座しているメルさんの膝元も赤くなってきている。
「仕方ない、一戦交えるか!」
マチルダさんの足元の方が確実に赤黒い。
「まぁ、さすがにやりすぎだな。膝を突き合わせてみるか。久しぶりに。」
魂座も槍を引き寄せている。
「まぁまぁ、武器はまずいですよ。」
相手方はもうすでに撃ってきているのだが。
「まぁ、親子に限らず、顔見て話さんとな。特にこういう場合。」
槍と同時の鎧もガシャっと音が鳴った。
「乱暴なことしないでくださいよ。娘さん相手に。」
ユウジはこの魂座に加減ができるのか心配だ。
すると
ーゴゴゴゴゴゴゴー
城門が開き、その上から声が響く。
「どうだぁ、この城門の内に一歩でも入ってみよぉ!そうしたら話を聞いてやらんでもないわぁ!」
また、どこぞで聞き覚えのあるようなセリフ。
「親子だね。」
「うん。」 魂座が素直にうなづいた。
親子?そういえばク海の住人に血縁関係ってあるのか?
ユウジは不思議に思った。
ローラ達にも親兄弟がいるのかな? 聞いていない。
本体がお椀や懐剣や風車だから、作った人が親なのだろうか?
それ、オレの思い込みなのか?
本体が人の姿なのか? 宝は象徴的なもの?
ユウジはフトさっきのローラの言葉を思い出してそう考えた。
「それは、みんな自分の当たり前が違うからだよ。」
自分が当たり前だと思って判断することが違っていたら?
じゃあ、逆に魂座親子は何の精なのだろうか?
この人たちにも自分の能力的なものを表現する姿があるのだろうか?
魂座殿は、ローラ達とは根は同じ存在だと言っていたが、まったく同じとは言っていない。
「うー!分からん!」
経験とかよく考えることも大事だが、ともかく動こう!
やりながら考えよう!
だってここはク海で、状況は刻々と変わる。
そもそも、オレはその方が合ってるわ!
「あー儘よっ!」
ユウジのお気楽が発動した。
「おっ!ようやく行く気になられましたな、殿!」
こっちの魂座もお気楽では負けていなかった。
銃弾が笑う魂座の兜をかすめた。
「おっ!腕を上げたな!璃多の奴め!」
「璃多?」
皆の声がかぶった。
「そう、娘の名前。璃多姫という。魂座璃多じゃ。」
ユウジは何か引っかかった。名字を名乗る?他の連中は名乗らないのに?
聞き流していたけれど、確かこの父親の方は現八という名だ。
そういえば、魂座・・・現八・・・璃多、どこかで聞いたことあるな。
ユウジは記憶をたどる。
何か、こんまい頃に何か聞いたような・・・・。
・・・思い出せない。
「うー!思い出せんものは思い出せん!やめた!」
また、お気楽発動。
「璃多も、婿を探す年頃なんじゃけどのぉ」
「おいくつなのです?」
メルが興味深げに聞いた。
「もう少しで十七の歳じゃ。」
魂座が槍を両手で握りしめた。
「それは、若すぎたね。」
マチルダの足元の色が急激に冷めた色に戻っていく。
「ああ、こんなワシと共に死んでくれたからの。かわいい娘よ。」
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