38 / 122
第37話 槍と針
しおりを挟む
虎成城、城門
大きなイノシシのアダケモノに城門を破られた。
奴は城門を壊すだけ壊しておいて、城内へ突入したらしい。
超巨大な破城槌が、勝手に暴れまわっている様なものだ。
普通の刃など通らぬ、大イノシシの鉄の城門を穿って壊すほどの突進に、こちらには多くの死傷者が出た。
誰も止めることができなかった。
そこに、白い面当てに鎧の虎河の兵が城門付近にまで達する。
閉めるべき城の門扉は粉々でもうその存在の意味は門の上からの射撃のみだ。
門の真下で、両軍がぶつかる。
残った門柱で、なんとか敵の侵入してくる人数は絞れている。
「押し出せぇぇぇぇl。」
シロウは力の限り叫ぶ。
とりあえず、手の付けられないイノシシは捨てる!
そして、虎河の兵を傷ついた味方の兵の全力で押し出す。
シロウはそう指示せざるを得ない。
あの大イノシシの行進で、途中の守備隊はすべて突破され、乱戦となっているからだ。
しかも、虎河の兵たちがしぶとい。
こいつらは本当に人間か?
槍隊を固めて押させるが、白い鎧の硬さはアダケモノのそれと同じらしく、槍の突きに臆する様子がない。槍の柄を抑えられ槍兵がどんどんと倒れていく。
シロウも間に入り敵を斬り伏せるが間に合わない。
この人数、この勢いそしてアダケモノが加われば、父の勇那守と我が勇那の正規軍が壊滅した理由は分かる。
状況を覆せる札がこちらには少ない。
せめて、我が宝を扱えればとシロウはこの時ほど唇を噛んだことはなかった。
中央で黄色い光りがさく裂する。
沖だ。
十六歳の少年はひとり槍一本をたよりに突撃する。数十の羽音を従えて。
「皆ぁ、端によれい!。」
シロウはできるだけ、兵を沖の射線から避けさせる。
「ちぃええええっ!」
掛け声とともに、沖は三人を串刺しにして押し出す。
その周りで十数人の虎河兵を光の羽音が襲いその体に風穴を開ける。
その主人は懸命に槍をつかい、敵を門の外へ押していく。
ー沖はユウジが気に食わなかったー
下級武士の生まれである彼は、戦で父を失い、母は病になり家計は困窮していた。
彼は長男であるが、妹が二人いる。年は少し離れている。
頭は切れ、武術も全般、そつなくこなす優秀な青年だ。
だが、年がいかぬため思うように生活は良くならない。
ギリギリの生活だった。
そこに来ての宝引だったのだ。
立身出世が叶うこともある。
もしかして、オレにも目があるかもしれない・・・そう思った。
錆を落としたことに気を良くして、本堂に招かれると間抜け面を拝むことになった。
どうでもいいが、嫌いな奴だった。
裕福な家で、お気楽なのんびり屋。
使う剣も気に食わない。どこか真剣味がない。余裕をかましている。
彼はユウジをそう捉えていた。飯の苦労もしていないと。
しかし、死線を越え、少し奴の気骨が見えた後、自分が気を失っている間に滝に落ちて死んだという。
はぁ死んだだと。知らん間に退場?ふざけるな。
べつに、特別心が痛むほどの付き合いではない。
しかし、死ぬことはないと思った。
聞けば、年老いた婆様がク海にひとりで探しに行こうとしているそうではないか。
家は断絶状態と聞く。
とんでもない親不孝だと思った。へらへらしてるから後ろからやられるのだ。しかし・・・
オレの嫌いなアイツも誰かの大事な人なんだとフト思った。
アイツ自身は気に食わないが、そう思えば少し譲ってもいい気になる。
そうだ、オレの大事な人。
沖は口を真一文字に結ぶ。
妹たちよ、母をつれて、どうかどうか逃げおおせてくれ。
そのために、この兄の槍が、この汚い牙がそなたらに届かぬよう少しでも、少しでも遠ざけよう。
「兄弟達よ。」
槍帝の孚の周りに黄色い光りが集まってくる。重い羽音と共に。
「俺達は不愛想なところが良くにているな。嫌われているのも一緒だ。」
そう、オレ達は尖っている。人を刺し殺すほに。
この重い羽音は危険な音だった。
スズメバチ・・・人は忌み嫌う。 光の羽音はそんな集団だった。
でもな、と 沖チエノスケは思う。
ハチはただ一人の女王のため、家族のために、淡々とその命をその針に乗せるんだよ。
深く、固く、冷たく。
利己的でも良い。
オレが刺すことで家族が守れるならな。
そして、オレの女王は・・・。
沖の頭にふと影がよぎる。
ぞの陰の顔を想像しかけて、ガチッと沖は槍を掴みなおす。
「来られよ!この沖 八千枝丞、お相手いたす!」
大きなイノシシのアダケモノに城門を破られた。
奴は城門を壊すだけ壊しておいて、城内へ突入したらしい。
超巨大な破城槌が、勝手に暴れまわっている様なものだ。
普通の刃など通らぬ、大イノシシの鉄の城門を穿って壊すほどの突進に、こちらには多くの死傷者が出た。
誰も止めることができなかった。
そこに、白い面当てに鎧の虎河の兵が城門付近にまで達する。
閉めるべき城の門扉は粉々でもうその存在の意味は門の上からの射撃のみだ。
門の真下で、両軍がぶつかる。
残った門柱で、なんとか敵の侵入してくる人数は絞れている。
「押し出せぇぇぇぇl。」
シロウは力の限り叫ぶ。
とりあえず、手の付けられないイノシシは捨てる!
そして、虎河の兵を傷ついた味方の兵の全力で押し出す。
シロウはそう指示せざるを得ない。
あの大イノシシの行進で、途中の守備隊はすべて突破され、乱戦となっているからだ。
しかも、虎河の兵たちがしぶとい。
こいつらは本当に人間か?
槍隊を固めて押させるが、白い鎧の硬さはアダケモノのそれと同じらしく、槍の突きに臆する様子がない。槍の柄を抑えられ槍兵がどんどんと倒れていく。
シロウも間に入り敵を斬り伏せるが間に合わない。
この人数、この勢いそしてアダケモノが加われば、父の勇那守と我が勇那の正規軍が壊滅した理由は分かる。
状況を覆せる札がこちらには少ない。
せめて、我が宝を扱えればとシロウはこの時ほど唇を噛んだことはなかった。
中央で黄色い光りがさく裂する。
沖だ。
十六歳の少年はひとり槍一本をたよりに突撃する。数十の羽音を従えて。
「皆ぁ、端によれい!。」
シロウはできるだけ、兵を沖の射線から避けさせる。
「ちぃええええっ!」
掛け声とともに、沖は三人を串刺しにして押し出す。
その周りで十数人の虎河兵を光の羽音が襲いその体に風穴を開ける。
その主人は懸命に槍をつかい、敵を門の外へ押していく。
ー沖はユウジが気に食わなかったー
下級武士の生まれである彼は、戦で父を失い、母は病になり家計は困窮していた。
彼は長男であるが、妹が二人いる。年は少し離れている。
頭は切れ、武術も全般、そつなくこなす優秀な青年だ。
だが、年がいかぬため思うように生活は良くならない。
ギリギリの生活だった。
そこに来ての宝引だったのだ。
立身出世が叶うこともある。
もしかして、オレにも目があるかもしれない・・・そう思った。
錆を落としたことに気を良くして、本堂に招かれると間抜け面を拝むことになった。
どうでもいいが、嫌いな奴だった。
裕福な家で、お気楽なのんびり屋。
使う剣も気に食わない。どこか真剣味がない。余裕をかましている。
彼はユウジをそう捉えていた。飯の苦労もしていないと。
しかし、死線を越え、少し奴の気骨が見えた後、自分が気を失っている間に滝に落ちて死んだという。
はぁ死んだだと。知らん間に退場?ふざけるな。
べつに、特別心が痛むほどの付き合いではない。
しかし、死ぬことはないと思った。
聞けば、年老いた婆様がク海にひとりで探しに行こうとしているそうではないか。
家は断絶状態と聞く。
とんでもない親不孝だと思った。へらへらしてるから後ろからやられるのだ。しかし・・・
オレの嫌いなアイツも誰かの大事な人なんだとフト思った。
アイツ自身は気に食わないが、そう思えば少し譲ってもいい気になる。
そうだ、オレの大事な人。
沖は口を真一文字に結ぶ。
妹たちよ、母をつれて、どうかどうか逃げおおせてくれ。
そのために、この兄の槍が、この汚い牙がそなたらに届かぬよう少しでも、少しでも遠ざけよう。
「兄弟達よ。」
槍帝の孚の周りに黄色い光りが集まってくる。重い羽音と共に。
「俺達は不愛想なところが良くにているな。嫌われているのも一緒だ。」
そう、オレ達は尖っている。人を刺し殺すほに。
この重い羽音は危険な音だった。
スズメバチ・・・人は忌み嫌う。 光の羽音はそんな集団だった。
でもな、と 沖チエノスケは思う。
ハチはただ一人の女王のため、家族のために、淡々とその命をその針に乗せるんだよ。
深く、固く、冷たく。
利己的でも良い。
オレが刺すことで家族が守れるならな。
そして、オレの女王は・・・。
沖の頭にふと影がよぎる。
ぞの陰の顔を想像しかけて、ガチッと沖は槍を掴みなおす。
「来られよ!この沖 八千枝丞、お相手いたす!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる