46 / 122
第45話 執着と嫁
しおりを挟むク海 魂座の城 城門前
ユウジは黒き鎧を身に纏い、銃弾の雨の中一歩もひるまず城門を目指す。
銃弾は頭や胸に当たるが、粉となって砕け散り白い煙が立つ。
砲弾はその槍の突きの前に、花火のごとく弾けるだけだ。
一歩一歩進んでいくがまるで攻撃されていることを意に介さない。
それほどの強度の防御力があるようだ。
歩きながら
「俺は思うのだが。」
ユウジは頭の中で騒ぐ連中に向かって話しかけた。
「なあにぃ?」
やはり呑気な声。縁側で爪でも切っている余裕だ。
「魂座とローラ達三人、ク海での生まれ方に違いがあるのだろ?」
「違い?」
妖精の星は糸で垂らされているかのように左右に揺れる。
「オレが思うに、魂座は生前の記憶があるのに、ローラ達にはないとか。」
ユウジは自分の思いつく精いっぱいのことを伝えてみた。
「ああ、そういうことか」
マチルダが拡張視界の右端に現れた。
「他人のことは分かりませんが、私には宝としての記憶しかありません。」
メルが左端に現れて言う。
「だから、はっきりと断定はできないけど違いという点に絞れば、ふたつの点で違いがあることを知っている。」
マチルダは何か見聞きしたのだろうか。
「私は、宝としてこのク海に居ついて以来、他の宝が生まれてくるのを見ることがあった。」
そういうことならあり得るだろうと思うユウジ。
「まず、新しい仇花が宝をそのツボミに宿す時、親花がその縄張りで死んだ者の魂の中から、特定の魂を選んで宝の核としているという事実が前提にある。」
やはりク海が死んだ人間の魂を吸うという考えはこいつらも同じなのだ。
「ひとつは、生前の名前と記憶を持つか持たないかという違い、どうして違うようになるかという理由は、仇花が咲く直前にツボミが切られたか、そうでないかだ。」
マチルダは続ける。
「ふたつ目は、選ばれた魂がその土地など特定のものに執着しているという違い。」
「人間は普通、一番自分のことにこだわるものですわ。」
メルはそれが宝の特殊能力の本質なのですと付け加えた。
つまりは、咲く前に首を切られた仇花から出た宝が、ローラ達とは違う魂座のような元の名前と記憶をもつ宝となる。その記憶により何かに執着している可能性が高いのか。
「花神様はね、少しずつこだわりを捨てなさいって言うのぉ。」
星が揺れながら震える。
「でもね、石神様はこだわりこそが人間だって怒ってたわ。」
「だから、あのお二人は互いにもつれ合い。ク海という名の苦しみを広げて、人を際まで追い詰めるのかもしれません。アダケモノを使って。」
メルの声は悲しい香りがする。
「さぁて、話は一旦ここで終わりだ!」
拡張視界全体が少し震えた。魂座は鎧として外装に出力しているからだ。
気がつけば、城門の少し前まで来ていた。
「そこのキサマ、そこで止まれ!」
目が大きくて、黒く長く美しい髪の頬の白く透き通る娘。璃多姫だろう。
城門の真ん中で後ろから風を受けていた。
「父の気配はあるが、姿が見えぬ。キサマ!父をどこにやった。」
怒りで足元の波石が真っ赤に染まって一本の線になりユウジの足元を刺していた。
「あなたは、どうしてそう怒ってばかりいるのです?」
ユウジはたまらず尋ねる。
「ここはな、かつて我が一族が命をかけて国守様のために守り抜いた場所。六年前に一族の最後の者が北の彩琶に敗れ、ク海に落ちた後は、我らが蘇りアダケモノより奪い返した大事な城じゃ!生ものなどにこの地は踏まさん!」
生ものってまだ言うかよ。執念が凄いな。ああ、執念か。
ここに、留まり続ける理由。これは妄執だ。ユウジはそう感じとった。
つまりこの女性も・・・宝か。
兜に衝撃が走った。眉間を撃たれたのだ。
ユウジは歩を進めた。
一歩歩くごとに眉間に弾をもらう。
六歩ほど進んだ。その分撃たれた。
「なぜ、倒れぬのだ。やはりその鎧は父上のものか?だいぶ形が違うが・・・。」
璃多姫は銃の照門からわずかに顔をそらした。
「教えてやろうか、璃多よ。」
「父上、そこで遊んでおられるのですか?」
「おう。璃多よ。なぜ父の鎧にそなたの弾が効かぬか分かるか?それはな、親の想いの方が、子の想いよりも遥かに硬いから・・・。」
間髪入れずにもう一発撃たれた。兜が割れて落ちる。ユウジの額から血が一筋流れた。
「子の想いも時には親をえぐることもありまする。」
「璃多、遊びは辞めじゃ。良いか、親はの、少なくともワシはな。この古い鎧でそなたを守ろう。時勢似合わねば即刻捨てよ。」
その時、ユウジは璃多の銃を左手で押し下げるとその白いおでこにデコピンをした。
「いいかげんになさい。」
思わず、璃多姫は後ずさる。
「父上!」
「おう、何だ?」
「璃多は嫁に行きまする。この御方のもとへ!」
「はあっ?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる