75 / 122
第74話 艦と少年
しおりを挟む
動けないグンカイの前にその男は降りたった。
脳天に穴を開けられた大ムカデはまだ暴れまわる。断末魔のもがきなのだろう。
黒い鎧の男は、槍で飛んでくる攻撃を軽く躱し、槍を構えると大ムカデの砕いた尻尾から頭に向かい槍を突き立てて奔った。
一刀両断、槍であってでもこの言葉は使えるのだろう。
大ムカデは真っ二つになって倒れた。
そして、
「若様!一度退いてくだされ!迎えがきております!」
シロウは聞き覚えのある声だった。
いや、聞きたい声だった。
己の誘いの先で、滝に落ちた、死んだかと思ったあの少年の声。
弟だとも思っていた古くからの馴染みの声。
「そっ、そなたは・・・そなたは・・・本当に、生きっ生きて・・・。」
己の不始末は山ほどある。
もう二度と見ることのできない日常の顔も山ほどあるのだろう。
でもその中で、ひとりでもまた会うことができるのなら。
「若様!ご家老様を連れて早う!退いてくだされ!」
「ユウジ!有慈郎!お前なのかっ?!」
鎧の男は振り返り、面当てがひとりでに開いた。
「遅くなりました。片城有慈郎、ただいま帰参いたしました。」
「こんのアホウ!遅いわっ!」
ユウジの面当てが自動で再装着された。
虫のアダケモノが動き始めている。ユウジの拡張視界に赤い攻撃色が急激に増えているのが映る。 仇花頭の大ムカデの大将は、番の犠牲の間にも力を補充していたのだろう。
「若様、早うこちらへ!」
後方からサヤの声がした。
「えっなんで?えっ!なんだこれ?」
シロウが振り向くと、黒い大きな筒状の物体が浮いていた。
そして、その横の扉が開いていて、サヤが手招きをしている。
「若様、早うケガ人をっ!早う!」
サヤが叫ぶ。
シロウはふと我に返り、グンカイとチエノスケをステラマリスとユーグの力を借りてその扉の内に担ぎ込む。そして振り返る。ユウジが残っておる。出ようとする。
「いいから!まず閉めて!」
サヤが必死に引き留めて扉を閉めた。
黒い大きな物体の扉が閉まったのを確認すると、
「よし、これで遠慮なくやれる。」
「ユウジ殿、状況を伝えるわ。」マチルダが拡張視界に現れた。
「ああ、そっち大丈夫?」
「ええ、今、サヤとメルがケガ人の手当てをしているの。」
「ああ、その処置が済むまで艦を離してくれないか。」
「了解、舵は私が取るわ。態勢が整ったらまた連絡する。気を付けて。」
艦と呼ばれた黒い乗り物は、高度をあげながら面舵をとって離れていく。
「今度こそ、暴れようかのう!殿!」
小鹿の印が飛び跳ねる。
「ええ、大叔父上!」
「我が天巫女に続き成馬宮にまで好き勝手しおって!許さぬ!」
璃多姫様はご立腹のようだ。
バッタのアダケモノが弾丸となり魂座の黒い武装に飛んでくる。
人間が生身でいたら、たちまち肉をえぐられ崩れ落ちていただろう。
ユウジは右手で飛んでくるバッタを一匹捕まえた。
ガチガチと口を鳴らす姿には嫌悪感しかない。
「本当に、好き勝手してくれるよな。」
軽く握りつぶして、ユウジが槍を構える。
「ああ、旦那様。妾の方がお役にたてまする。」
ユウジは、フト止まった。
「うん、そうだな。そうする。」
槍と鉄砲を交換する。
「ちょっと待て!ワシがやりたい!」
「登場のひのき舞台は譲ったので、妾の番ですわ!」
「うぬぬ!」
ユウジは構わず散弾銃を乱射し、虫モドキを叩き落としていく。
遠くに土煙が見える。アイツを突撃させるらしい。
左手に預けた散弾銃を離して瞬間握ると狙撃銃になった。
「虎成に帰ってみれば、燃え上がっていて、皆、北に逃げたという。」
歩きながら照準を定める。
「多くの人達をその牙にかけたな・・・。許せねえ!」
撃鉄が落ちる。
イノシシも崩れ落ちる。
脳天に穴を開けられた大ムカデはまだ暴れまわる。断末魔のもがきなのだろう。
黒い鎧の男は、槍で飛んでくる攻撃を軽く躱し、槍を構えると大ムカデの砕いた尻尾から頭に向かい槍を突き立てて奔った。
一刀両断、槍であってでもこの言葉は使えるのだろう。
大ムカデは真っ二つになって倒れた。
そして、
「若様!一度退いてくだされ!迎えがきております!」
シロウは聞き覚えのある声だった。
いや、聞きたい声だった。
己の誘いの先で、滝に落ちた、死んだかと思ったあの少年の声。
弟だとも思っていた古くからの馴染みの声。
「そっ、そなたは・・・そなたは・・・本当に、生きっ生きて・・・。」
己の不始末は山ほどある。
もう二度と見ることのできない日常の顔も山ほどあるのだろう。
でもその中で、ひとりでもまた会うことができるのなら。
「若様!ご家老様を連れて早う!退いてくだされ!」
「ユウジ!有慈郎!お前なのかっ?!」
鎧の男は振り返り、面当てがひとりでに開いた。
「遅くなりました。片城有慈郎、ただいま帰参いたしました。」
「こんのアホウ!遅いわっ!」
ユウジの面当てが自動で再装着された。
虫のアダケモノが動き始めている。ユウジの拡張視界に赤い攻撃色が急激に増えているのが映る。 仇花頭の大ムカデの大将は、番の犠牲の間にも力を補充していたのだろう。
「若様、早うこちらへ!」
後方からサヤの声がした。
「えっなんで?えっ!なんだこれ?」
シロウが振り向くと、黒い大きな筒状の物体が浮いていた。
そして、その横の扉が開いていて、サヤが手招きをしている。
「若様、早うケガ人をっ!早う!」
サヤが叫ぶ。
シロウはふと我に返り、グンカイとチエノスケをステラマリスとユーグの力を借りてその扉の内に担ぎ込む。そして振り返る。ユウジが残っておる。出ようとする。
「いいから!まず閉めて!」
サヤが必死に引き留めて扉を閉めた。
黒い大きな物体の扉が閉まったのを確認すると、
「よし、これで遠慮なくやれる。」
「ユウジ殿、状況を伝えるわ。」マチルダが拡張視界に現れた。
「ああ、そっち大丈夫?」
「ええ、今、サヤとメルがケガ人の手当てをしているの。」
「ああ、その処置が済むまで艦を離してくれないか。」
「了解、舵は私が取るわ。態勢が整ったらまた連絡する。気を付けて。」
艦と呼ばれた黒い乗り物は、高度をあげながら面舵をとって離れていく。
「今度こそ、暴れようかのう!殿!」
小鹿の印が飛び跳ねる。
「ええ、大叔父上!」
「我が天巫女に続き成馬宮にまで好き勝手しおって!許さぬ!」
璃多姫様はご立腹のようだ。
バッタのアダケモノが弾丸となり魂座の黒い武装に飛んでくる。
人間が生身でいたら、たちまち肉をえぐられ崩れ落ちていただろう。
ユウジは右手で飛んでくるバッタを一匹捕まえた。
ガチガチと口を鳴らす姿には嫌悪感しかない。
「本当に、好き勝手してくれるよな。」
軽く握りつぶして、ユウジが槍を構える。
「ああ、旦那様。妾の方がお役にたてまする。」
ユウジは、フト止まった。
「うん、そうだな。そうする。」
槍と鉄砲を交換する。
「ちょっと待て!ワシがやりたい!」
「登場のひのき舞台は譲ったので、妾の番ですわ!」
「うぬぬ!」
ユウジは構わず散弾銃を乱射し、虫モドキを叩き落としていく。
遠くに土煙が見える。アイツを突撃させるらしい。
左手に預けた散弾銃を離して瞬間握ると狙撃銃になった。
「虎成に帰ってみれば、燃え上がっていて、皆、北に逃げたという。」
歩きながら照準を定める。
「多くの人達をその牙にかけたな・・・。許せねえ!」
撃鉄が落ちる。
イノシシも崩れ落ちる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる