【R18】獣人さんにいきなり番と言われた話

よざくら

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22 晴人さんの……

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「「退院おめでとう!」」
「ありがとう!」

 病院の玄関口で、手渡された花束を両手一杯に抱えて微笑む。私の周りには、メーちゃんとハヤッチ。絵里奈もいる。メーちゃんと絵里奈がくれた花束はどちらもそこそこ大きいので前が見えにくい。
 今日は待ちに待った退院の日だ。

 走ったり等はまだ許されていないが、日常の動作で痛みを感じることは無くなっている。

 とても嬉しい日の筈なのに少し気がそぞろなのは晴人さんの姿が見えないからだ。

 あれ程私の退院を心待ちにしてくれていたのに、急に仕事でも入ったのだろうか?
 ハヤッチがここにいるのに?

「あ、あのね、お姉さん。晴人さんの事なんだけど……」
「遅れてすみません瑠璃さん」

 周囲を伺っている私の視線に気付いたメーちゃんが眉を下げながらおずおずと話そうとした所を、最早聞き慣れた穏やかな声が遮った。
 やっと来たのかと振り返った所で私は驚愕に眼を瞠いた。
 
 穏やかな表情で黒い上着に濃紺のTシャツ、そしてダークグレーのジーンズと、見慣れた服装はいつもと変わらない。
 異変は彼の腕の中にあった。

「すみません。彼女を連れてくる為に少し遅れてしまいました。ようやく見つけたんです」

 そうして腕を少し広げて見せびらかすように示されたのは、たれ目気味の大きな瞳が愛らしい美少女だった。

「俺の番です」

 その姿をはっきり見る前に晴人さんが腕の中に閉じ込めてしまったが。
 彼の腕の隙間から見える少女の顔には勝ち誇ったような嘲りが見える。

「番を名乗る古里ゆりなを避けるためにヒューマである瑠璃さんに迫るなんて愚かな事をして、瑠璃さんには随分ご迷惑をお掛けしてしまいました。せめてものお詫びとして入院中は番として振舞わせていただきましたが......ようやく退院ですね。やっと心置きなく彼女と暮らせます」
「なに......言ってるの......」

 晴人さんは肩の荷が降りたとでも言いたげな晴々とした笑顔で、私に言葉の刃を突きつけてくる。

 ゆりなはただのストーカーで、私は盾にする為に選ばれたただの被害者で、彼の腕の中にいる女性が、本来の番だと。
 彼の演技に気付かずに彼の番なのだと思わされた私はただの道化だったのだと言うのか。

 あの優しい眼差しも、温かい大きな手も、これからは全て番である彼女のもの。
 いや、最初からずっと、私のものであった事なのど一度も無かったのか。

「それでは、退院おめでとうございます瑠璃さん」
「ちょっと、待ちなさいよ!」
「……何か?」

 さっさと背を向けようとした晴人さんに追いすがると、一応振り返ってはくれた。
 だが、その表情は酷く冷たく、それ以上の追従は許さないとその眼が告げていた。

 皆が去り、一人きりになった所で、苛立ちよりも苦笑いが漏れた。次第に、肩を震わせる程の笑いに発展し、最後は大笑いした。
 拭う事をしない涙は濁流のように頰を流れ落ちてゆく。

 だから、獣人を恋人にはしないと決めていたのにと、性懲りも無く獣人を信じたりするから、こんな馬鹿な目に遭うのだと。自分を嘲笑い続けた。




















............さん。


......りさん。


「瑠璃さん! しっかりして下さい!」

 掛けられた声にハッと目が覚めると、心配そうに私を伺っている晴人さんの姿があった。
 その隣には猫獣人の看護婦さんもいる。確か名前は三家田真央さんだった筈。真央さんは笑顔で私を軽く診察している。

「熱も無さそうですし、怪我の痛みが原因という訳では無さそうですから、問題無いでしょう。明日、念の為朝一で先生に診察してもらいましょうね」
「はい、ありがとうございます!」

 私はさっさと背を向けて退出していった看護婦さんを解せない気持ちで見送った。

 何故真央さんは私の診察結果を本人ではなく親族でもなんでもない晴人さんに告げ、後は任せたとばかりに去ってしまうのか。そして当然のように晴人さんが承っているのはおかしくないのか。

 もう獣人の番という存在に対する認識が、人間の常識とはかけ離れすぎていて意味がわからない。

 それを今言ってもしょうがないと、溜息一つで考えるのをやめて周囲を伺えば、いつもの病室で、胸元の包帯も、足の固定もそのままだった。あれは夢で、今はまだ入院二週間目だったことを思い出す。

 時計を確認すると、深夜の1時半という時間帯だった。窓の外は星も月も無い曇り空で、街明かりだけが煌々と暗闇を照らしている。

 晴人さんは仕事を終えてから着替えもせずに来たようで、スーツをきっちりと着込んだままで私の様子を伺っている。
 
「随分と魘されてましたよ。傷が痛むのかと思ってナースコールしたんですが......。嫌な夢でも見ましたか」

 パシッ

 頰へと伸ばされた手を振り払ったのは無意識だった。
 静寂に包まれた室内を切り裂くような乾いた音と、晴人さんの傷ついたような哀しげな表情で、ようやく自分のした事に気付いた位に。
 痛いほどの沈黙に耐え切れなくなったのは、やはりというか私のほうだった。

「......聞きたいことが山程あるけど、まずは休んで。酷い顔してるわ」

 それだけ告げて、私は布団を頭まで被って眼を閉じた。

 彼が微動だにしないまま、随分と長い間私の様子を伺っているのを知っていながら、私は眠りに落ちるまでの間、息を潜めるように彼の気配を感じ取り続けた。

「瑠璃さん、好きです」

 そっと告げられた彼の言葉に、私も同じ言葉を返せたらと思わないでも無いけれど、私はひたすら無言を貫き続けた。

 翌朝眼が覚めると、彼の姿は無かった。
 


 
 










 


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