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29 番
しおりを挟む「瑠璃さんが、好きです。一生傍に居て欲しいんです。本当の意味で俺の番になって貰えませんか」
私は彼の言葉に感動して言葉が出てこなかった。
それらしいことは何度も言われていたし、態度でも示されていた。泥酔しながら抱かれていた時も言われていた。それでも、素面の状態で真正面から告白されたのは初めてなのだ。
ただ、ここでこのまま私もだと答えて大丈夫なのかという理性がどうしても働いてしまう。
晴人さんの事は好きだしずっと一緒に居たいとは思ってはいるが、ここで頷いてしまえば何もかも彼の思うがままになってしまうという事だ。それは何となく負けたようで悔しい。
それに、色んな理由があったとしても、彼のしたことは犯罪的だ。前後不覚にして番承諾書にサインをさせて身体を奪うなんてことをされて許してしまっていいものか。
でもここで断る理由も無い。どう応えるべきか。もだもだと考え込んでいると、晴人さんが唐突に話を変えてきた。
「そういえば、瑠璃さん退院したら温泉に行きたいと言っていたそうですね」
「え? あ、うん。出来ればメーちゃんや絵里奈と一緒に」
真剣な告白だった筈なのに唐突にハシゴを外されたようにガラっと話が替わったので肩透かしを食らったように戸惑ってしまった。
「獣人の番には割とお得な特典があって、獣管の保養施設を無料で利用できるんですよ。しかもあらかじめ予約しておけば部外者を招待する事も出来ます。本来は番の家族を招待することを想定したサービスですが……退院したら友人も誘って皆で温泉旅行など如何ですか? 熱海でも別府でも草津でも、大体の場所はカバーしてますよ。他にも欲しいものがあれば言って下さい。俺元々物欲があまり無くて貯金もありますし、それなりに稼いでもいるんで大抵の事は叶えられると思いますよ。車は実用性重視で選んでましたけど、瑠璃さんが望むのなら好きな車に買い替えてもいいですし。家だってマンションが嫌なら獣管の所有地の中から一か所を選んで新しく家を建てる事だってできます」
「んなっ」
何というやつだ。
強引に番にさせたかと思ったら希うように告白してきて、旗色が悪いとなればモノで釣る懐柔作戦まで持ち出して来るとは。
「俺には瑠璃さん以外いませんからね。なりふり構っていられません。どうしても嫌だといわれたら監禁しかありませんが、出来ればそれはしたくありませんので」
「ん? 最後の方何か言った?」
話の後半がボソボソと低い声で聞き取れなかったので聞き返すと、いいえ何もと返ってきた。何だったんだろう。
「それより、俺の番になって貰えませんか?」
仕切りなおすように、両手を取られて見つめられた。
好きな人にここまで言わせて勿体ぶるのはどうかと思ってしまって、気づけば応じていた。
「う、うん……なる。本当は私も、晴人さんのこと好き、だから番になるわ。ううん、ならせて下さい」
いつまでも好きな人相手に意地張って勿体つけてそれでフラれてしまったら困るのは私の方なので、つっかえつつも応じた。そこでハッとして必要な部分の訂正だけはしておく。
「あと、旅行は行きたいけど、別に欲しいものなんか無いから。モノに釣られてって訳じゃないんだから誤解しないでよ!」
この流れのままにしておいてモノに釣られて承諾したみたいに思われるのは嫌だ。ここまでの流れ的に冗談大袈裟ではなく本気で貢がれそうで、私は恐々としてしまう。
というか、当然のように退院後一緒に住む流れになっているのだけれどそこはもうしょうがない気もしている。
番になるって言っちゃったし離れて暮らす選択肢は彼に存在しないのだろう。
今の家割と立地が良くて家賃もそこそこなので気に入っていたんだけど諦めるしか無さそうだ。
宣言した後で少し恥ずかしくなって俯くと、包み込むように抱きしめられた。勿論身体を気遣ってか力は籠っていないけれど、それでもしっかりと包み込まれる。
「瑠璃さん、愛してます」
「あ、愛!?」
愛しているなんて、映画やドラマでしか聞いたことのないセリフに戸惑ったけれど、少し低い体温が私に馴染んで温かくなるのがとても嬉しくてほっとする。私もそっと彼の背中に手を回して身体を預けるようにすると、もっと隙間なくくっついて心地いい。
そして、頬を包むようにして顔を持ち上げられて唇が合わせられた。
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