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第一章:止まった時間と不思議なレシート
第十二話:次のレシート
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「コマドリ珈琲店」からの帰り道、遥の足取りは、いつになく軽かった。
半年前からずっしりと沈んでいた心が、ほんの少しだけ浮上したような感覚。
湿気を含んだ空気も、今はもう気にならなかった。
むしろ、季節の移ろいを肌で感じられることが、新鮮でさえあった。
自宅に戻ると、遥はまっすぐに圭の机へと向かった。
引き出しから、レシートの束を取り出す。
一枚目の「コマドリ珈琲店」のレシートは、もうその役割を終えたかのように、遥の掌に温かく馴染んでいた。
その温かさは、まるで圭の優しい手が、まだそこにあるかのような錯覚を遥に覚えさせた。
遥は、そっとそのレシートを、束の一番下へと滑らせた。
そして、束の先頭に現れた二枚目のレシートに、ゆっくりと指を滑らせる。
「ひだまり陶芸用品店/信楽土 2kg」。
その文字が、遥の目に飛び込んできた。
陶芸用品店。
そして、「信楽土」。
遥は、その文字をじっと見つめた。
圭が陶芸に興味を持っていたなんて、全く知らなかった。
圭は、多趣味な人だった。
休日は、手の込んだ料理を作ったり、部屋にこもってプログラミングをしたり、時には遥の仕事を手伝ってくれたりもした。
けれど、陶芸の話は、一度も聞いたことがない。
ましてや、土を買いに行くような姿は、遥の記憶にはない。
「信楽土 2kg」。
いったい、圭はこの土で何を作ろうとしていたのだろう。
遥は、レシートをもう一度よく見てみた。
ごく普通の、どこにでもありそうなレシートだ。
店名と商品名、そして金額。
それ以外に、特別な情報は何も書かれていない。
しかし、このレシートもまた、「遥」と書かれた小さな黄色の付箋が貼られた束の中にあった。
つまり、圭が遥のために、意図的にこのレシートを残したということなのだろうか。
遥の脳裏に、圭の穏やかな笑顔が浮かんだ。
彼はいつも、遥の知らないところで、ひっそりと色々なことを調べては、遥を驚かせることが好きだった。
誕生日や記念日には、遥が密かに欲しがっていたものを、まるでエスパーのように言い当て、完璧なサプライズを用意してくれた。
遥が何気なく口にした「これ、可愛いね」といった一言も、彼は決して聞き逃さなかった。
圭は、遥の小さな願望や、心の奥底に秘められた夢を、誰よりも理解してくれていた。
もしかしたら、この陶芸用品店のレシートも、圭からの次の「宿題」なのかもしれない。
遥は、レシートをそっと胸元に抱きしめた。
コマドリ珈琲店で感じた温かさが、再び遥の心をじんわりと満たしていく。
まだ、圭の意図は測りかねる。
なぜ、陶芸なのか。
なぜ、この「信楽土」なのか。
疑問は尽きないが、不思議と、遥の心には不安よりも、新たな好奇心が芽生え始めていた。
このレシートが、圭の気配を、そして彼が遥を想う温かい心を、確かに遥に伝えているような気がした。
彼の存在が、まだ遥のすぐそばにあるかのように感じられた。
あの日の「コマドリ珈琲店」で、圭が遥に似合うと言ってくれたキリマンジャロの香りが、まだ遥の指先に微かに残っているようだった。
その香りが、遥の背中をそっと押す。
遥の止まっていた時間が、少しずつ、ゆっくりと、しかし確実に動き出している。
そのことに、遥は静かな喜びを感じていた。
レシートの束は、まだ遥の手の中に残されている。
この「未来への贈り物」が、次に遥をどこへ導いてくれるのだろうか。
遥は、静かに次のレシートの示す場所へと思いを馳せた。
半年前からずっしりと沈んでいた心が、ほんの少しだけ浮上したような感覚。
湿気を含んだ空気も、今はもう気にならなかった。
むしろ、季節の移ろいを肌で感じられることが、新鮮でさえあった。
自宅に戻ると、遥はまっすぐに圭の机へと向かった。
引き出しから、レシートの束を取り出す。
一枚目の「コマドリ珈琲店」のレシートは、もうその役割を終えたかのように、遥の掌に温かく馴染んでいた。
その温かさは、まるで圭の優しい手が、まだそこにあるかのような錯覚を遥に覚えさせた。
遥は、そっとそのレシートを、束の一番下へと滑らせた。
そして、束の先頭に現れた二枚目のレシートに、ゆっくりと指を滑らせる。
「ひだまり陶芸用品店/信楽土 2kg」。
その文字が、遥の目に飛び込んできた。
陶芸用品店。
そして、「信楽土」。
遥は、その文字をじっと見つめた。
圭が陶芸に興味を持っていたなんて、全く知らなかった。
圭は、多趣味な人だった。
休日は、手の込んだ料理を作ったり、部屋にこもってプログラミングをしたり、時には遥の仕事を手伝ってくれたりもした。
けれど、陶芸の話は、一度も聞いたことがない。
ましてや、土を買いに行くような姿は、遥の記憶にはない。
「信楽土 2kg」。
いったい、圭はこの土で何を作ろうとしていたのだろう。
遥は、レシートをもう一度よく見てみた。
ごく普通の、どこにでもありそうなレシートだ。
店名と商品名、そして金額。
それ以外に、特別な情報は何も書かれていない。
しかし、このレシートもまた、「遥」と書かれた小さな黄色の付箋が貼られた束の中にあった。
つまり、圭が遥のために、意図的にこのレシートを残したということなのだろうか。
遥の脳裏に、圭の穏やかな笑顔が浮かんだ。
彼はいつも、遥の知らないところで、ひっそりと色々なことを調べては、遥を驚かせることが好きだった。
誕生日や記念日には、遥が密かに欲しがっていたものを、まるでエスパーのように言い当て、完璧なサプライズを用意してくれた。
遥が何気なく口にした「これ、可愛いね」といった一言も、彼は決して聞き逃さなかった。
圭は、遥の小さな願望や、心の奥底に秘められた夢を、誰よりも理解してくれていた。
もしかしたら、この陶芸用品店のレシートも、圭からの次の「宿題」なのかもしれない。
遥は、レシートをそっと胸元に抱きしめた。
コマドリ珈琲店で感じた温かさが、再び遥の心をじんわりと満たしていく。
まだ、圭の意図は測りかねる。
なぜ、陶芸なのか。
なぜ、この「信楽土」なのか。
疑問は尽きないが、不思議と、遥の心には不安よりも、新たな好奇心が芽生え始めていた。
このレシートが、圭の気配を、そして彼が遥を想う温かい心を、確かに遥に伝えているような気がした。
彼の存在が、まだ遥のすぐそばにあるかのように感じられた。
あの日の「コマドリ珈琲店」で、圭が遥に似合うと言ってくれたキリマンジャロの香りが、まだ遥の指先に微かに残っているようだった。
その香りが、遥の背中をそっと押す。
遥の止まっていた時間が、少しずつ、ゆっくりと、しかし確実に動き出している。
そのことに、遥は静かな喜びを感じていた。
レシートの束は、まだ遥の手の中に残されている。
この「未来への贈り物」が、次に遥をどこへ導いてくれるのだろうか。
遥は、静かに次のレシートの示す場所へと思いを馳せた。
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