天蓋村の不可解な求人広告について

月影 朔

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第一部:ウェブ・ドキュメント『天蓋村(てんがいむら)に関する報告』

第17話:資料No.017(匿名掲示板ログ)2005年

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【資料No.017】
資料種別: 匿名掲示板「2ちゃんねる」過去ログ
取得年: 2005年(平成17年)

(以下は、過去ログ倉庫から発掘された、オカルト板のスレッドの書き起こしである。当時のインターネット文化を色濃く反映した独特の言葉遣いやアスキーアートが散見されるが、ここでは可読性を優先し、一部を省略・整形している)

スレッドタイトル:【時給2000円】〇〇県のヤバいバイト9スレ目【行方不明】

1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
立てたぞ。
前スレで話題になった天蓋村のバイト、新情報あるやついる?
俺の親戚が昔行って、マジで人が変わったみたいになったって話はやめろよ。怖すぎるから。

2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
乙。
天蓋村って、もうダムの底じゃなかったか?
あのへん、昔から変な噂あったよな。神隠しとか。

3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします

2
だから昔の話だって。90年代とか、もっと前とか。
とにかく高給なんだよ。内容は「簡単な作業」としか書いてないのに、地方の相場の倍は出る。
ソースは俺のじいちゃん。昔、役場の広報で募集してるの見たって言ってた。

4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
俺、隣町出身だけど、天蓋村の求人はガチでヤバいって言われてた。
絶対に応募しちゃダメだって。
理由は誰も教えてくれない。「関わらないほうがいい」ってだけ。
でも、金に困ったやつとか、世捨て人みたいなのが、たまに応募してたらしい。

5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
具体的に何させられるわけ?

6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします

5
それが誰も知らんのよ。行ったやつは、村から出てこないか、出てきても何も話さなくなるから。
ただ、うちの親父が聞いた話だと、応募するとまず「体力測定」みたいなことさせられるって。
いきなり「走れ」とか「遠くに石投げてみろ」とか。
意味不明だろ?

7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします

6
kwsk(詳しく)!

8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします

7
親父も又聞きだから詳しくは知らんらしい。
でも、その体力測定で「あんたは向いてない」って日当だけ渡されて帰されるやつもいれば、「合格」してそのまま村の奥に連れてかれるやつもいたって。
連れてかれたやつは、大体戻ってこない。

9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
うわあ…
それ、普通に事件じゃね?
警察とか動かなかったのかよ。

10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします

9
昔の田舎なんてそんなもんだろ。
「よそ者のあんたには関係ない」で終わり。
村全体がグルなんだよ、きっと。

11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
俺の知り合いの親戚が行ったきり帰ってこない。マジで。
80年代の話らしいけど。
ロッジの皿洗いだったかな。視力だけがめちゃくちゃ良かった人だって聞いた。
家族が警察に相談したけど、本人が望んで働いてるんだろうって、まともに捜査してくれなかったらしい。

12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
人が消えてるのにヤバすぎだろ…
何のためにそんなこと…

13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
知らん。
でも、あの村には「お役目」ってのがあって、村人はそれを果たさないといけないって話は聞いたことある。
その「お役目」を、よそから来た人間にやらせてた、とか…?

14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
妄想乙。
ただのタコ部屋労働だろ。

15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
タコ部屋で「瞬きするな」とか言われるのかよw
やっぱオカルトだろ。

【「名無しさん@地域史研究」による解説】

1980年の「山荘てんがい」の求人広告は、私の仮説を裏付ける決定的な証拠となった。

天蓋村のシステムが、複数の異常な能力を兼ね備えた「特殊個体」を、条件を「追加」することで計画的に作り出そうとしていたという事実。

それは、私の調査が、もはや公的な記録という「骨格」だけを追っていては、決してその「肉」に触れることができない段階に至ったことを意味していた。

私は、方針を再度、転換した。
これまで集めてきた、客観的だが血の通わない資料から一度離れ、ネットの深海に沈殿する、人々の「声」の断片を拾い集める作業へと移行したのだ。

そして、調査の初期段階では意味不明な与太話として無視していた、2005年の匿名掲示板のログを再検証した時、私はその一つ一つの書き込みが、これまで私が発掘してきた歴史的資料と、おぞましい精度で符合していることに気づき、全身の血の気が引くのを感じた。

「天蓋村のバイト」「高給だけど、何させられるか不明」――これは、私が集めてきた全ての求人広告が持つ共通構造そのものだ。

「役場の広報で募集してるの見た」――1970年の「広報てんがい」の記録と一致する。

「応募するとまず『体力測定』みたいなことさせられる」「『遠くに石投げてみろ』とか」――これは、1973年のロッジの求人 、そして1970年の「投擲に自信がある方」という条件と、不気味なほどに合致する。

そして、決定的な書き込みがあった。
「ロッジの皿洗いだったかな。視力だけがめちゃくちゃ良かった人だって聞いた」
1980年の山荘「てんがい」のチラシ。

あの求人広告が、「跳躍力」「体の硬さ」に加えて「視力2.0以上」という条件を追加していたことを、私は知っている。
この書き込みは、あの異常な条件を満たした人間が、実際に応募し、そして「消えた」ことを示す、初めての生々しい証言だった。

これまで私が扱ってきたのは、あくまで「募集があった」という事実を示す、無機質な紙の資料だった。
しかし、この匿名の書き込みは、その一枚一枚の紙の裏側に、確かに存在したはずの人間の人生と、その喪失の悲劇を、鮮明に浮かび上がらせた。

公的な記録と、匿名の噂話。
本来、決して交わるはずのない二つの情報が、20年の時を超えて私の目の前で繋がり、互いの信憑性を相互に補強し始めたのだ。

そして、ログの最後に残された「お役目」という言葉。
それは、私がこれから進むべき調査の方向を指し示す、暗い道標のようだった。

私は、この村に古くから伝わるという風習そのものを、正面から見据えなければならない。
そのために必要なのは、もはや図書館の司書ではない。あの村の最後の姿を知る、生き残った元住民を探し出すことだ。
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