『未来郵便局』

月影 朔

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第一章:祖父からのウエディングベル

第八話:健太の誓い

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 健太は、美咲が涙を流すのを見て、優しくその背中をさすった。

 美咲の祖父・宗一郎の言葉が、健太の心にも温かく響いていた。

 不格好な卵焼きを二人で囲み、その味に美咲が涙したこと。
それは、健太にとって、宗一郎の深い愛情が伝わる瞬間だった。

「宗一郎さん、本当に優しい方だったんだね」

 健太は、美咲の祖父との思い出話に、何度も頷きながら耳を傾けた。

 美咲が幼い頃に両親を亡くし、祖父に育てられたこと、祖父がどれほど美咲を大切にしていたか、そして宗一郎の作る卵焼きが、美咲にとってどれほど特別なものだったか。

 美咲の口から語られる祖父の姿は、健太の心に宗一郎という人物を鮮明に描き出していく。

 美咲は、少し落ち着くと、改めて健太に手紙を差し出した。

「健太も、読んでみて。
おじいちゃんが、健太にも見せてあげてって言ってたから」

 健太は、美咲から手紙を受け取ると、ゆっくりと読み始めた。

 美咲と同じように、宗一郎の愛情深い言葉に、健太の表情も刻々と変化していく。

『お前の大切な人にも、この手紙を見せてあげなさい。

 そして、二人で、この卵焼きを作ってみるんだ。

 不格好でもいい。失敗してもいい。

 二人で笑いながら作って、一緒に食べることが大切だ。』

 その一文を読んだ時、健太は改めて宗一郎の温かい心に触れた気がした。

 未来の孫の伴侶に対して、これほどまでに優しく、そして深い愛情を示すことができる宗一郎という人物に、健太は感銘を受けた。

 手紙を読み終えた健太は、美咲の手をそっと握った。

「美咲、宗一郎さんの思い、しっかり受け止めたよ」

 健太の言葉は、普段の彼からは想像もつかないほど、真剣な響きを持っていた。

 美咲は、健太の力強い眼差しに、心が温かくなるのを感じた。

 翌日、結婚式を控えた朝。

 美咲は健太と一緒に、仏壇の前に座っていた。
宗一郎の遺影が、穏やかな表情で二人を見守っている。

 美咲は、結婚式の準備で忙しい中でも、祖父に直接報告したいという気持ちが強く、健太に無理を言って仏壇に付き合ってもらっていた。

 健太は、遺影に向かって深々と頭を下げた。

 そして、真っ直ぐに宗一郎の目を見て、静かに語り始めた。

「宗一郎さん。
美咲さんを、僕に託してくださり、ありがとうございます。
僕も、美咲さんと同じように、宗一郎さんの作ってくれた卵焼き、とても温かい気持ちになりました」

 健太の言葉は、真っ直ぐで、飾らないものだった。

 美咲は、そんな健太の誠実さに、改めて胸を打たれた。

「宗一郎さんの手紙、美咲さんと一緒に読ませていただきました。
二人で美味しいものを食べることの大切さ、そして、夫婦の絆の尊さ。
宗一郎さんのそのお言葉、僕たちが夫婦として生きていく上で、ずっと心に留めておきます」

 健太は、深く息を吸い込むと、宗一郎の遺影に向かって、力強く誓った。

「僕が、美咲さんを一生かけて幸せにします。
どんな時も、笑顔でいられるように、美咲さんを支え、守り抜くことを誓います。
どうか、安心して、僕たちを見守っていてください」

 健太の言葉には、一片の迷いもなかった。

 それは、美咲への深い愛情と、宗一郎への尊敬の念が込められた、真摯な誓いだった。

 美咲は、隣で健太の言葉を聞きながら、目頭が熱くなるのを感じた。

 マリッジブルーで揺らいでいた美咲の心は、健太の力強い誓いによって、確かなものへと変わっていった。

 健太の誓いは、宗一郎からの手紙がくれた、もう一つの贈り物だった。

 祖父の願いが、健太という新しい家族の心に、確かに受け継がれたことを、美咲は実感した。

 健太は、美咲の手を優しく握り、微笑んだ。美咲もまた、健太の温かい手に、そっと自分の手を重ねた。

 祖父の想いと、健太の誓い。

二つの温かい絆に包まれ、美咲の心は、明日の結婚式に向けて、希望に満ちていた。
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