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第一話:消えた名脇差『濡烏』
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江戸、神田。裏路地の鑑定所に、桐谷一葉という名の女鑑定士がいる。若き女性ながら、「刀の声を聞く」と噂されるほどの腕前だ。刀に刻まれた傷、錆、跡…その全てから、持ち主の過去や隠された真実を読み解く。
この日、鑑定所を訪れたのは、息を切らした武士、藤井平蔵。顔色は土気色で、尋常ではない様子だった。
「先生! どうか、どうかお力添えを! 我が家に伝わる大切な脇差が…盗まれましたのです!」
平蔵の声は震えていた。彼の家は武家。刀は命にも等しい。それが奪われたのだ。
「盗まれた脇差は、『濡烏(ぬれがらす)』と呼ばれておりまして…少々、血なまぐさい来歴を持つ刀にございます。」
『濡烏』。一葉はその名に僅かに反応した。濡れた烏のように深い黒の刀。そして、その血なまぐさい来歴。それは、かつて罪人の首を斬る「試し斬り」に幾度も使われたという、暗い噂を持つ刀だった。
「試し斬りの…なるほど。ゆえに、奉行所には届け出ず、私の元へ?」
「左様でございます! 噂が広まれば家名の恥…ですが、祖先からの大切な刀を…!」平蔵は切実な思いを訴える。
「刀が語るわけではございません、藤井様。刀はただ、その身に受けた痕跡を残すのみ。ですが…それを読み解けば、刀の歩んだ道が見えるのです。まるで、鉄に刻まれた履歴書のように。」
一葉は、平蔵の語る『濡烏』の特徴に耳を傾けた。無銘だが、幅広く鋭い切っ先。そして…
「…その根元、柄に隠れる部分には、どれほど研いでも消えぬ、黒々とした血の色がこびりついておりました。」
茎(なかご)に残る血の色。それは、試し斬りの来歴が真実であることを物語る、消えない「証拠」だ。一葉は刀の姿を頭の中に描く。なぜ、金品には手をつけず、このような曰くつきの刀だけが狙われたのか? 賊の目的は、刀そのものだ。
「盗まれた時の状況は? 現場の様子は?」
平蔵は、留守中に賊が入ったこと、そして家の中が荒らされていた様子を語った。金品は無事。そして、奇妙な点。
「奥の部屋の襖(ふすま)に、妙な傷がございました。爪でも刀でもなく…数本の細い線が、人の背丈よりずいぶん低い位置に…。」
襖の傷。一葉は、そこに事件解決の手がかりがあると直感した。
さらに、隣家の者の目撃情報。賊は小柄な男で、刀扱いは不慣れ。背中に長いものを背負っていたという。
小柄な男。刀扱いの不得手。そして、襖の低い位置の奇妙な傷。一葉の頭の中で、点と点が繋がり始める。
「藤井様。賊は、『濡烏』を明確な目的を持って狙った者でしょう。単なる盗賊ではない。」一葉は静かに語り始めた。「そして、現場に残された襖の傷…小柄な体格と刀扱いの不得手さ…これは…」
一葉は、襖の傷が、犯人の持つ特定の「技能」に関わるのではないかと推理した。それは、刀剣鑑定とは異なる、別の種類の技術。
「さらに、『濡烏』の試し斬りの来歴。血の色…このような刀を欲しがるのは、血生臭い歴史に惹かれる者か…あるいは、その刀に宿るとされる、『特別な力』や『因縁』を求める者かもしれません。」
平蔵は息を呑んだ。
「藤井様。あの襖の傷を、もう一度詳しく調べていただけますか? それが、犯人の正体、そして彼が何をしようとしていたのかを語っているかもしれません。」
平蔵は、一葉の言葉に希望を見出した。そして、もう一つの、不穏な情報を思い出す。
「実は…近頃、裏の世界で妙な噂が…。血生臭い歴史を持つ刀ばかりを集めている者がいると。正体不明で…『影追(かげおい)』と呼ばれている…。」
影追(かげおい)。不気味な響きだ。
小柄で刀扱いの不得手な賊は、この「影追」の手先なのか? 一葉は、その名に興味を惹かれた。今回の事件は、その存在と繋がっている可能性が高い。
「藤井様。まずは、あの襖の傷について詳しく。そして、『影追』について、何か新たな情報があればご連絡ください。この『濡烏』に隠された真実…必ず突き止めてみせましょう。」
平蔵は一葉に全てを託し、帰路についた。
一人残された一葉は、窓から差し込む光の中で、自らの指先を見た。この指先が、刀に残された微細な「証拠」を読み解く。そして、その証拠が、過去の物語と、目の前の謎を繋ぎ合わせる。
一葉は、次の手がかりを求めて、静かに立ち上がった。彼女の鋭い眼差しは、盗まれた「濡烏」と、現場に残された謎を捉えている。
数日後、一葉は襖の再調査からある結論に達していた。あの傷は、鍵開けや隠し場所を開けるための、特定の道具を使った痕跡。
そして、小柄な犯人、刀扱いの不得手さという情報と結びつけ、犯人像を「鍵師」であると推理する。彼こそが、「影追」に雇われた手先であろうと。
一葉の推理に基づき、奉行所の田島同心たちが探索を開始。間もなく、曰くつきの刀剣に関わる裏取引の場で、一葉の推理通りの特徴を持つ男が確認され、捕縛された。男は鍵師で、彼こそが平蔵宅から『濡烏』を盗み出した犯人だった。
盗まれた『濡烏』は無事に戻された。
平蔵は、戻ってきた刀を手に、安堵の息を漏らした。そして、一葉から聞かされた事件の真相に驚きを隠せない。曰くつきの「呪われた」刀だと思っていたものが、実はある目的のために狙われ、その背後には「影追」という不気味な存在がいるという事実。
捕らえられた鍵師は、「影追」のことは多くを語らなかった。「影追」は、曰くつきの刀、血塗られた歴史を持つ刀を求めていること、そして刀が持つ「物語」、血塗られた物語ほど価値があると考えていること以外は。その目的は謎のままだ。
「先生…この『濡烏』は…単なる物ではなかったのですね…。」平蔵は、茎に残る血の色を見つめた。「我が家の祖先が…そして、この刀が刻んできた歴史が…」
「刀は、ただの鉄ではございません。」一葉は静かに答えた。「持つ者の思い、流された血、刻まれた時を記憶しております。『濡烏』の血の色は、貴殿の祖先の武士としての覚悟、そしてこの刀が辿ってきた壮絶な道のりを物語っています。」
平蔵は一葉に深々と頭を下げた。汚名を晴らし、刀の真実を知った。
「濡烏」は、無事、あるべき場所へ戻された。
しかし、「影追」という影は、依然として江戸の闇に潜んでいる。そして、曰くつきの刀を巡る物語は、まだ終わらない。「影追」は何者なのか? その目的は? 彼らが求める刀に、伝説の「五龍の剣」は含まれるのか?
一葉の、刃に刻まれた真実を追う日々は、続いていく。彼女の鋭い眼差しは、既に、次の刀が語り出すであろう物語、そして江戸の闇に潜む、さらなる謎へと向けられていた。
この日、鑑定所を訪れたのは、息を切らした武士、藤井平蔵。顔色は土気色で、尋常ではない様子だった。
「先生! どうか、どうかお力添えを! 我が家に伝わる大切な脇差が…盗まれましたのです!」
平蔵の声は震えていた。彼の家は武家。刀は命にも等しい。それが奪われたのだ。
「盗まれた脇差は、『濡烏(ぬれがらす)』と呼ばれておりまして…少々、血なまぐさい来歴を持つ刀にございます。」
『濡烏』。一葉はその名に僅かに反応した。濡れた烏のように深い黒の刀。そして、その血なまぐさい来歴。それは、かつて罪人の首を斬る「試し斬り」に幾度も使われたという、暗い噂を持つ刀だった。
「試し斬りの…なるほど。ゆえに、奉行所には届け出ず、私の元へ?」
「左様でございます! 噂が広まれば家名の恥…ですが、祖先からの大切な刀を…!」平蔵は切実な思いを訴える。
「刀が語るわけではございません、藤井様。刀はただ、その身に受けた痕跡を残すのみ。ですが…それを読み解けば、刀の歩んだ道が見えるのです。まるで、鉄に刻まれた履歴書のように。」
一葉は、平蔵の語る『濡烏』の特徴に耳を傾けた。無銘だが、幅広く鋭い切っ先。そして…
「…その根元、柄に隠れる部分には、どれほど研いでも消えぬ、黒々とした血の色がこびりついておりました。」
茎(なかご)に残る血の色。それは、試し斬りの来歴が真実であることを物語る、消えない「証拠」だ。一葉は刀の姿を頭の中に描く。なぜ、金品には手をつけず、このような曰くつきの刀だけが狙われたのか? 賊の目的は、刀そのものだ。
「盗まれた時の状況は? 現場の様子は?」
平蔵は、留守中に賊が入ったこと、そして家の中が荒らされていた様子を語った。金品は無事。そして、奇妙な点。
「奥の部屋の襖(ふすま)に、妙な傷がございました。爪でも刀でもなく…数本の細い線が、人の背丈よりずいぶん低い位置に…。」
襖の傷。一葉は、そこに事件解決の手がかりがあると直感した。
さらに、隣家の者の目撃情報。賊は小柄な男で、刀扱いは不慣れ。背中に長いものを背負っていたという。
小柄な男。刀扱いの不得手。そして、襖の低い位置の奇妙な傷。一葉の頭の中で、点と点が繋がり始める。
「藤井様。賊は、『濡烏』を明確な目的を持って狙った者でしょう。単なる盗賊ではない。」一葉は静かに語り始めた。「そして、現場に残された襖の傷…小柄な体格と刀扱いの不得手さ…これは…」
一葉は、襖の傷が、犯人の持つ特定の「技能」に関わるのではないかと推理した。それは、刀剣鑑定とは異なる、別の種類の技術。
「さらに、『濡烏』の試し斬りの来歴。血の色…このような刀を欲しがるのは、血生臭い歴史に惹かれる者か…あるいは、その刀に宿るとされる、『特別な力』や『因縁』を求める者かもしれません。」
平蔵は息を呑んだ。
「藤井様。あの襖の傷を、もう一度詳しく調べていただけますか? それが、犯人の正体、そして彼が何をしようとしていたのかを語っているかもしれません。」
平蔵は、一葉の言葉に希望を見出した。そして、もう一つの、不穏な情報を思い出す。
「実は…近頃、裏の世界で妙な噂が…。血生臭い歴史を持つ刀ばかりを集めている者がいると。正体不明で…『影追(かげおい)』と呼ばれている…。」
影追(かげおい)。不気味な響きだ。
小柄で刀扱いの不得手な賊は、この「影追」の手先なのか? 一葉は、その名に興味を惹かれた。今回の事件は、その存在と繋がっている可能性が高い。
「藤井様。まずは、あの襖の傷について詳しく。そして、『影追』について、何か新たな情報があればご連絡ください。この『濡烏』に隠された真実…必ず突き止めてみせましょう。」
平蔵は一葉に全てを託し、帰路についた。
一人残された一葉は、窓から差し込む光の中で、自らの指先を見た。この指先が、刀に残された微細な「証拠」を読み解く。そして、その証拠が、過去の物語と、目の前の謎を繋ぎ合わせる。
一葉は、次の手がかりを求めて、静かに立ち上がった。彼女の鋭い眼差しは、盗まれた「濡烏」と、現場に残された謎を捉えている。
数日後、一葉は襖の再調査からある結論に達していた。あの傷は、鍵開けや隠し場所を開けるための、特定の道具を使った痕跡。
そして、小柄な犯人、刀扱いの不得手さという情報と結びつけ、犯人像を「鍵師」であると推理する。彼こそが、「影追」に雇われた手先であろうと。
一葉の推理に基づき、奉行所の田島同心たちが探索を開始。間もなく、曰くつきの刀剣に関わる裏取引の場で、一葉の推理通りの特徴を持つ男が確認され、捕縛された。男は鍵師で、彼こそが平蔵宅から『濡烏』を盗み出した犯人だった。
盗まれた『濡烏』は無事に戻された。
平蔵は、戻ってきた刀を手に、安堵の息を漏らした。そして、一葉から聞かされた事件の真相に驚きを隠せない。曰くつきの「呪われた」刀だと思っていたものが、実はある目的のために狙われ、その背後には「影追」という不気味な存在がいるという事実。
捕らえられた鍵師は、「影追」のことは多くを語らなかった。「影追」は、曰くつきの刀、血塗られた歴史を持つ刀を求めていること、そして刀が持つ「物語」、血塗られた物語ほど価値があると考えていること以外は。その目的は謎のままだ。
「先生…この『濡烏』は…単なる物ではなかったのですね…。」平蔵は、茎に残る血の色を見つめた。「我が家の祖先が…そして、この刀が刻んできた歴史が…」
「刀は、ただの鉄ではございません。」一葉は静かに答えた。「持つ者の思い、流された血、刻まれた時を記憶しております。『濡烏』の血の色は、貴殿の祖先の武士としての覚悟、そしてこの刀が辿ってきた壮絶な道のりを物語っています。」
平蔵は一葉に深々と頭を下げた。汚名を晴らし、刀の真実を知った。
「濡烏」は、無事、あるべき場所へ戻された。
しかし、「影追」という影は、依然として江戸の闇に潜んでいる。そして、曰くつきの刀を巡る物語は、まだ終わらない。「影追」は何者なのか? その目的は? 彼らが求める刀に、伝説の「五龍の剣」は含まれるのか?
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