63 / 64
第四部:大団円 ~からくりと人情が結ぶ未来~
第六十五話:夜明けと安堵
しおりを挟む
長屋の路地には、夜明け前の薄明かりの中、戦いの爪痕が生々しく残っていた。破られた門、散乱したからくり部品、そして、縄で縛られ、奉行所の役人たちに取り囲まれた「影」の者たち。その中には、屈辱に顔を歪ませた氷雨の姿もあった。
奉行所の役人たちは、てきぱきと現場を検証し、証拠品を回収していく。氷雨が最後に使った強力なからくりも、甚兵衛が倒した状態のまま、慎重に運び出される。甚兵衛が使ったからくり道具も、証拠として押収されていく。
与力は、甚兵衛とお絹、そして辰五郎の傍らに立った。
「…見事であった」
与力は、疲弊しきった三人の顔を見て、静かに言った。
「貴殿方のお陰で、江戸を揺るがしかねない大罪人の一味を捕らえることができた。貴殿方の勇気とからくり…恐れ入った」
甚兵衛は、深く息を吐き出した。戦いは、本当に終わったのだ。お絹も、安堵の表情を浮かべる。辰五郎は、奥の部屋から、長屋の人々に支えられながら、その様子を見守っていた。
奉行所の役人たちは、捕らえた「影」の者たちを、次々と連行していく。氷雨は、最後に甚兵衛を睨みつけたが、何も言わず、無言のまま連れ去られていった。彼の野望は、長屋という小さな場所で、からくりと人情によって打ち砕かれたのだ。
「これで…全て終わったんですいね…」
お絹が、空を見上げて呟いた。夜明け前の空が、少しずつ明るくなっていく。
長屋の住人たちが、恐る恐る、しかし希望を込めて部屋から出てきた。彼らは、甚兵衛とお絹の傍らに駆け寄り、無事を喜び、心からの感謝を述べた。
「甚兵衛さん! お絹ちゃん! 本当に、よくぞ…!」
「あんたたちのお陰で、長屋は守られた…!」
彼らの言葉に、甚兵衛とお絹は、ただ頷くことしかできなかった。彼らが守りたかったもの…この長屋という「人情」の場が、確かにここにある。
おかみさんが、長屋の人々をまとめ、後片付けの指示を出す。破られた門、散乱した物…戦いの傷跡は深い。しかし、皆の顔には、恐怖よりも、困難を乗り越えた安堵と、連帯感が浮かんでいた。
奉行所の役人たちは、甚兵衛とお絹、そして辰五郎から、改めて詳しい事情聴取を行った。辰五郎の証言は、彼らが提供した証拠…写し取りからくりの画像や、押収された「影」のからくり…と完全に一致した。
「『影』という組織は、確かに存在した。江戸の地下に大規模な本拠地を持ち、からくりを悪用して江戸全土に混乱をもたらす恐るべき計画を企てていた…」
奉行所内で、この事件の真相が明らかになるにつれて、関係者の間に驚きと緊張が走った。甚兵衛たちの話は、決して荒唐無稽なものではなかったのだ。
奉行所の捜査は、長屋で捕らえられた氷雨と残党の取り調べ、そして押収された証拠から、一気に拡大していく。氷雨が使っていたからくりや、押収品から、「影」の組織の全体像や、他の拠点の情報が明らかになる。
長屋での戦いは、単なる一件の事件として終わらなかった。それは、「影」という巨大な陰謀を暴き、その組織を根幹から崩壊させる決定的な契機となったのだ。
奉行所は、秘密裏に他の拠点への手入れを進める。氷雨以外の幹部や構成員たちも、次々と捕らえられていく。からくりを悪用した犯罪組織「影」は、江戸の表舞台から姿を消した。
長屋では、少しずつ日常が戻り始めていた。破られた門は修理され、散乱した道具も片付けられる。戦いの傷跡は残るが、長屋の人々の心には、互いを支え合った「人情」と、甚兵衛とお絹への深い信頼が刻み込まれた。
辰五郎は、長屋の温かい雰囲気の中で、ゆっくりと回復していった。彼を襲った悪夢は終わった。これからは、再び、からくり師として、そして長屋の一員として、生きていける。
甚兵衛とお絹も、体力の回復と共に、からくり師としての自分たちのこれからについて考え始めた。彼らのからくりは、人を傷つけたり、街を混乱させたりするものではない。人を助け、生活を豊かにし、そして人々の心を通わせるためにある。
夜明けを迎えた長屋。それは、長い闇が終わり、新たな光が差し込む希望の象徴だった。大団円へ向けた物語は、陰謀の公式な終焉、そして日常への回帰を描き、最後の締めくくりへと向かう。
奉行所の役人たちは、てきぱきと現場を検証し、証拠品を回収していく。氷雨が最後に使った強力なからくりも、甚兵衛が倒した状態のまま、慎重に運び出される。甚兵衛が使ったからくり道具も、証拠として押収されていく。
与力は、甚兵衛とお絹、そして辰五郎の傍らに立った。
「…見事であった」
与力は、疲弊しきった三人の顔を見て、静かに言った。
「貴殿方のお陰で、江戸を揺るがしかねない大罪人の一味を捕らえることができた。貴殿方の勇気とからくり…恐れ入った」
甚兵衛は、深く息を吐き出した。戦いは、本当に終わったのだ。お絹も、安堵の表情を浮かべる。辰五郎は、奥の部屋から、長屋の人々に支えられながら、その様子を見守っていた。
奉行所の役人たちは、捕らえた「影」の者たちを、次々と連行していく。氷雨は、最後に甚兵衛を睨みつけたが、何も言わず、無言のまま連れ去られていった。彼の野望は、長屋という小さな場所で、からくりと人情によって打ち砕かれたのだ。
「これで…全て終わったんですいね…」
お絹が、空を見上げて呟いた。夜明け前の空が、少しずつ明るくなっていく。
長屋の住人たちが、恐る恐る、しかし希望を込めて部屋から出てきた。彼らは、甚兵衛とお絹の傍らに駆け寄り、無事を喜び、心からの感謝を述べた。
「甚兵衛さん! お絹ちゃん! 本当に、よくぞ…!」
「あんたたちのお陰で、長屋は守られた…!」
彼らの言葉に、甚兵衛とお絹は、ただ頷くことしかできなかった。彼らが守りたかったもの…この長屋という「人情」の場が、確かにここにある。
おかみさんが、長屋の人々をまとめ、後片付けの指示を出す。破られた門、散乱した物…戦いの傷跡は深い。しかし、皆の顔には、恐怖よりも、困難を乗り越えた安堵と、連帯感が浮かんでいた。
奉行所の役人たちは、甚兵衛とお絹、そして辰五郎から、改めて詳しい事情聴取を行った。辰五郎の証言は、彼らが提供した証拠…写し取りからくりの画像や、押収された「影」のからくり…と完全に一致した。
「『影』という組織は、確かに存在した。江戸の地下に大規模な本拠地を持ち、からくりを悪用して江戸全土に混乱をもたらす恐るべき計画を企てていた…」
奉行所内で、この事件の真相が明らかになるにつれて、関係者の間に驚きと緊張が走った。甚兵衛たちの話は、決して荒唐無稽なものではなかったのだ。
奉行所の捜査は、長屋で捕らえられた氷雨と残党の取り調べ、そして押収された証拠から、一気に拡大していく。氷雨が使っていたからくりや、押収品から、「影」の組織の全体像や、他の拠点の情報が明らかになる。
長屋での戦いは、単なる一件の事件として終わらなかった。それは、「影」という巨大な陰謀を暴き、その組織を根幹から崩壊させる決定的な契機となったのだ。
奉行所は、秘密裏に他の拠点への手入れを進める。氷雨以外の幹部や構成員たちも、次々と捕らえられていく。からくりを悪用した犯罪組織「影」は、江戸の表舞台から姿を消した。
長屋では、少しずつ日常が戻り始めていた。破られた門は修理され、散乱した道具も片付けられる。戦いの傷跡は残るが、長屋の人々の心には、互いを支え合った「人情」と、甚兵衛とお絹への深い信頼が刻み込まれた。
辰五郎は、長屋の温かい雰囲気の中で、ゆっくりと回復していった。彼を襲った悪夢は終わった。これからは、再び、からくり師として、そして長屋の一員として、生きていける。
甚兵衛とお絹も、体力の回復と共に、からくり師としての自分たちのこれからについて考え始めた。彼らのからくりは、人を傷つけたり、街を混乱させたりするものではない。人を助け、生活を豊かにし、そして人々の心を通わせるためにある。
夜明けを迎えた長屋。それは、長い闇が終わり、新たな光が差し込む希望の象徴だった。大団円へ向けた物語は、陰謀の公式な終焉、そして日常への回帰を描き、最後の締めくくりへと向かう。
0
あなたにおすすめの小説
剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末
松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰
第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。
本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。
2025年11月28書籍刊行。
なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
高遠の翁の物語
本広 昌
歴史・時代
時は戦国、信州諏方郡を支配する諏方惣領家が敵に滅ぼされた。
伊那郡高遠の主、諏方頼継は惣領家家族のうち、齢十一歳の姫君を、ひょんなことから保護できた。
頼継は豪傑でもなければ知将でもない。その辺の凡将だろう。
それでも若き姫を守りながら、滅びた惣領家の再興を叶えるため、死に物狂いで強大な敵に立ち向かっていく歴史物語。
十二輝の忍神 ーシノビガミ― 第一部
陵月夜白(りょうづきやしろ)
歴史・時代
天明三年――浅間山が火を噴いた。
神の怒りに触れたかのように、黒い灰は空を塞ぎ、郷も田畑も人の営みも、容赦なく呑み込んでいく。噴火と飢饉が藩を蝕み、救いを求める声の裏で、名もなき影が蠢いた。灰の夜を踏むのは、血も温もりも失った“黒屍人”。誰が、何のために――。
その災厄に呼応するように、忍びの郷に封じられていた「十二輝の干支の珠」が、ひとつ、またひとつと眠りから解かれる。
珠は器を選び、器は力に喰われ、力は人を裏返す。
伊賀と甲賀の長い因縁、奪われる珠、引き裂かれる同胞。
そして、灰の国で拾い集められていく十二の輝きが揃う時、世界の秩序そのものが――動き出す。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
江戸情話 てる吉の女観音道
藤原 てるてる
歴史・時代
この物語の主人公は、越後の百姓の倅である。
本当は跡を継いで百姓をするところ、父の後釜に邪険にされ家を出たのであった。
江戸に出て、深川で飛脚をして渡世を送っている。
歳は十九、取り柄はすけべ魂である。女体道から女観音道へ至る物語である。
慶応元年五月、あと何年かしたら明治という激動期である。
その頃は、奇妙な踊りが流行るは、辻斬りがあるはで庶民はてんやわんや。
これは、次に来る、新しい世を感じていたのではないのか。
日本の性文化が、最も乱れ咲きしていたと思われるころの話。
このてる吉は、飛脚であちこち街中をまわって、女を見ては喜んでいる。
生来の女好きではあるが、遊び狂っているうちに、ある思いに至ったのである。
女は観音様なのに、救われていない女衆が多すぎるのではないのか。
遊女たちの流した涙、流せなかった涙、声に出せない叫びを知った。
これは、なんとかならないものか。何か、出来ないかと。
……(オラが、遊女屋をやればええでねえか)
てる吉は、そう思ったのである。
生きるのに、本当に困窮しとる女から来てもらう。
歳、容姿、人となり、借金の過多、子連れなど、なんちゃない。
いつまでも、居てくれていい。みんなが付いているから。
女衆が、安寧に過ごせる場を作ろうと思った。
そこで置屋で知り合った土佐の女衒に弟子入りし、女体道のイロハを教わる。
あてがって来る闇の女らに、研がれまくられるという、ありがた修行を重ねる。
相模の国に女仕入れに行かされ、三人連れ帰り、褒美に小判を頂き元手を得る。
四ツ谷の岡場所の外れに、掘っ立て小屋みたいな置屋を作る。
なんとか四人集めて来て、さあ、これからだという時に……
てる吉は、闇に消えたのであった。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
花嫁
一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる