転生したら鎧だったので、自分で動けない。だから呪われた美少女妖精に乗り込んでもらって最強を目指します!

月影 朔

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第1章:忘れられたダンジョン編

第12話:ジャイアントバットの超音波

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 「キィン」という魂を直接削るような不快音が、巨大なほらあなに足を踏み入れた俺たちを襲った。

 それは物理的な音じゃない。
魂で聞かされている。

 ゴブリンたちとの戦いを乗り越えたばかりの疲れ切った魂に、無数の針を突き立てられるような我慢できない苦痛だった。

(なんだこの音……黒板を爪でひっかく音を百倍にして、直接脳に流されてるみてえだ!)

 俺は鉄の体だ。
物理的なダメージはない。
だが、この精神攻撃は体の芯に響くように効いてくる。

「うっ……あ……アルマ様……! 
あたまが……割れるように……!」

 鎧の中からリリアの悲鳴が魂に直接響いた。
彼女の魂の光が、風の前の光のように激しくゆらめいている。

 そうだ。
彼女はか弱き妖精。
俺という鉄の鎧は、魂に直接干渉してくるような攻撃に対しては、苦痛を大きくしているだけかもしれない。

(リリア!? 
しっかりしろ!)

 俺が焦りの声を上げるのと、天井の暗闇から無数の赤い光の点が現れるのはほぼ同時だった。

 それは憎しみに満ちた魔物の眼。
バサッ、バサッと不気味な羽ばたきと共に、その正体が明らかになる。

「あれは……ジャイアントバット……!
群れで超音波を放ち、獲物の感覚と魂を狂わせ、弱らせてから……襲いかかる、厄介な……魔物……!」

 リリアが途切れ途切れの苦しい息の下で、敵の情報を伝えてくれる。

 天井から、巨大なコウモリの群れが、まるで黒いなだれのようにこちらへ向かって降りてきていた。

 その数、50はいるだろう。
奴らが一斉に放つ不協和音が、このほらあな全体を魂を削る拷問部屋へと変えているのだ。

◇ ◇ ◇

(くそっ! 
リリアが危ない!
 早くなんとかしないと!)

 ゴブリン戦で得たばかりの自信が、全く新しいタイプの攻撃の前に早くも揺らぎ始める。

(遠距離攻撃だ!
 スライム戦でやったみたいに……!)

 俺は《共振撃レゾナス・ブロウ》を放とうと、腕に霊素エーテルを集中させた。

 だが、すぐにその無意味さに気づく。
相手は一体じゃない。空中を飛び回る数十体の群れだ。
一体を狙い撃ちしたところで、残りの群れに踏みつぶされるのがいいところだ。

(なら、分析だ! 
敵の動きを読んで……!)

 俺は《機構造解析》で敵の動きを捉えようとする。

 しかし、キィンキィンと鳴り響く超音波が、強力なじゃまのように俺の思考をかき乱す。

 集中できない。
この雑音の中で、不規則に飛び回る群れの動きを正確に分析することなど不可能に近い。

(くそっ、思考がまとまらない! 
設計図が描けない!)

「アルマ……!
 敵が……来ます……!」

 リリアの警告。
分析に手間取っている間に、先頭の数体が急降下し、その鋭い牙をむき出しにして襲いかかってきた。

 俺はとっさに腕を振り回し、その数体を叩き落とす。
だが、そのすきに別のやつが背後に回り込み、後頭部を強く打ってきた。

 体勢が崩れる。
そのすきを狙ってさらに別のやつが、鎧の関節を狙って牙を立ててくる。

 ゴブリン戦の悪夢の再来だ。
いや、敵が空中を自由に飛び回る分、もっと厄介だった。

(ダメだ、このままじゃ……!)

 守りに集中しようにも、超音波は鎧の内部にいるリリアを直接苦しめ続ける。
ただ耐えるだけでは、リリアの魂が先に限界を迎えてしまう。

「あ……ぅ……」

 リリアの意識が弱々しくなっているのが伝わってくる。
彼女の魂の光が、消えかけている。

(やめろ……やめてくれ……!)

 俺の魂が絶叫する。
俺のせいだ。俺が不用心にこのほらあなに足を踏み入れたから。

 まただ。
また俺は、大切なものを守れないのか。
無力感とあせりが、俺の思考を黒く塗りつぶしていく。

 父のまぼろしが頭の中でささやく。
「ほらみろ。お前には何もできない。
結局、誰一人守れないじゃないか」

(うるさい……!)

「お前は、失敗作なんだからな」

(黙れぇぇぇぇぇぇっ!!)

◇ ◇ ◇

 絶体絶命の、その瞬間。
俺の魂の中で何かが、プツリと切れた。
恐怖や絶望ではない。

 もっと熱いもの。もっと激しいもの。

(リリアを……この子だけは、絶対に……!)

 守りたい。

 ただ、その一心だけが俺の魂の全てになった。
父の声も過去の心の傷も、どうでもいい。

 どうすればリリアを守れる?
どうすればこのいまいましい音を止められる?

(……待てよ)

 思考が極限の集中の中で、一つの可能性にたどり着く。

(この超音波はただの音じゃない。
これは『振動』だ。霊素エーテルを乗せた、魂に干渉してくる特別な振動の波だ)

 そうだ。俺は整備士だ。
エンジンの変な音を聞き分けるのが、俺の仕事だったじゃないか。

 音の波形、周期、反響。
それらの情報から、見えない内部の異常を「視る」。

(それと、同じだ)

 このいまいましい超音波もただの雑音じゃない。

 敵の位置、羽ばたきの周期、鳴き声の波形。
全てがこの振動の中に「情報」として含まれているはずだ。

 この振動そのものを「視る」ことができれば……!

 俺は外への意識を完全にシャットアウトした。
五感を閉じ、ただ魂に直接響いてくるこの無数の「振動」だけに、全神経を集中させる。

 キィィィィィィィィィン……

 うるさい。
頭がどうにかなりそうだ。

 だが、その無数の雑音の激しい流れの中から、一つ一つの「波」を分けていく。

 あのコウモリが放った波。
その隣のやつが放った波。
壁に反響した波。
天井から跳ね返ってきた波。
俺の鎧にぶつかって乱れた波。

(そうだ……これだ……!)

 俺は自分のこの鉄の体そのものを、一つの巨大なセンサー……音を集める機械のように変えていくイメージをした。

 この鎧で、敵が放つ超音波の、その反響を全て拾い上げる。

「アルマ……? 
あなたの魂が……とても、静かに……」

 リリアのか細い声が俺の集中を揺さぶる。

(大丈夫だ、リリア。
もう少しだけ耐えてくれ。
すぐにこのクソみたいな演奏会を終わらせてやるから)

 俺は彼女に魂の全てでそう伝えた。
そして、さらに深く、深く振動の世界へと意識を沈めていく。

 最初はごちゃごちゃした雑音の海だった。

 だが集中を続けるうちに、その海の中にルールが見え始めてきた。

 波と波がぶつかりあって生まれる、わずかなゆがみ。
そのゆがみこそが、敵の位置を示すたった一つの道しるべ。

(聞こえる……いや、『視える』……)

 俺の魂が、これまで感じ取れなかった新しい世界をとらえ始める。

(音の……波が……。
敵の、姿を、描き出して……)

 無数の波紋が重なり合う、その中心。
そこには敵一体一体の正確な位置を示す「点」が、まるで暗闇にともる星々のように輝いて見えていた。

 俺の魂がリリアを守りたいという、ただ一つの願いに応えるように。

 全く新しい感覚……その目覚めの、まさに入り口に立っていた。
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