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第三章:鬼の貌(かんばせ)、人の心
第四十九話:蝕組の罠
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蝕組の襲撃が始まって以来、鬼灯横丁の診療所は、以前にも増して警戒を強めていた。
昼間は訪れる患者で賑わうが、夜になると、不穏な空気が漂い始める。玄庵は、警戒を怠らず、古尾もまた、江戸の妖怪たちから情報を集めていた。
ある日の夕刻、古尾が慌ただしく診療所に戻ってきた。その顔は、いつになく真剣な色を帯びている。
「先生、おみつ嬢ちゃん! とんでもねえ情報が入りましたぜ!」
古尾は、息を弾ませながら言った。
「蝕組のやつらが、先生をおびき出すために、とんでもねえ罠を仕掛けやがりました」
古尾の言葉に、おみつは思わず玄庵の顔を見た。玄庵は、静かに古尾の言葉の続きを促した。
「なんでも、江戸の町で、また奇妙な病が流行り始めたって話ですぜ。しかも、今回は高熱どころじゃねえ。人が石のように固まっていくってんで、町は大騒ぎになってるそうだ」
古尾の説明に、おみつはゾッとした。
人が石のように固まる病。それは、以前の「穢れの熱」とは異なる、さらに恐ろしい症状だ。
「その病は、人が大勢集まる場所に集中してるって話で、特に浅草寺(せんそうじ)の周辺がひどいらしい。しかも、妙なことに、病にかかるのは決まって穢れを多く抱える人間ばかりだってんで、怪しいもんですぜ」
古尾は、そう言って、玄庵の顔を伺った。
穢れを多く抱える人間、そして人が集まる場所。それは、まさに蝕組が穢れを増幅させるために狙う場所ではないか。
玄庵は、腕を組み、静かに瞑目した。彼の頭の中では、古尾の情報が瞬時に整理されていく。
「それは、穢れを特定の場所に集中させ、増幅させるための罠か……」
玄庵が呟くと、古尾は頷いた。
「へっへっへ、さすが先生は話が早え。蝕組のやつらは、先生が穢れを放っておけねえってことを知ってやがる。だから、わざと人が大勢集まる場所に穢れを撒き散らし、先生をおびき出そうって魂胆ですぜ」
古尾の情報は、蝕組の巧妙な策略を物語っていた。
彼らは、玄庵の正義感と、人々を救おうとする彼の信念を逆手に取ろうとしているのだ。
おみつは、不安そうに玄庵を見上げた。
「先生、もしそれが罠なら……行かない方がいいんじゃありませんか?」
おみつの言葉は、もっともだった。罠だと分かっている場所に、わざわざ飛び込む必要はない。
しかし、玄庵は静かに首を振った。彼の瞳には、迷いの色はない。
「行かぬわけにはいかぬ。人々が苦しんでいる以上、私には彼らを救う責務がある。それに……この穢れを放置すれば、いずれ江戸全体を覆い尽くすだろう」
玄庵の言葉に、おみつは息を呑んだ。
彼は、自身の危険を顧みず、人々を救うことを選んだのだ。それは、彼の「鬼」の力と、人間としての信念がぶつかり合う、彼の生き様そのものだった。
「それに、この穢れを止めねば、蝕組の企みを止めることはできぬ。彼らの本拠地を探るためにも、この罠に乗る必要がある」
玄庵は、そう言って、静かに立ち上がった。彼の顔には、覚悟の表情が浮かんでいる。
古尾は、呆れたようにため息をついたが、玄庵の決意の固さを知っているため、それ以上は何も言わなかった。
むしろ、彼の顔には、玄庵と共に戦うことを決めた者の、秘めたる決意が宿っているようにも見えた。
「先生、私も行きます!」
おみつは、玄庵の前に立ちはだかり、強い眼差しで言った。
玄庵は、一瞬戸惑ったように見えたが、おみつの決意の固さを感じ取ると、静かに頷いた。
昼間は訪れる患者で賑わうが、夜になると、不穏な空気が漂い始める。玄庵は、警戒を怠らず、古尾もまた、江戸の妖怪たちから情報を集めていた。
ある日の夕刻、古尾が慌ただしく診療所に戻ってきた。その顔は、いつになく真剣な色を帯びている。
「先生、おみつ嬢ちゃん! とんでもねえ情報が入りましたぜ!」
古尾は、息を弾ませながら言った。
「蝕組のやつらが、先生をおびき出すために、とんでもねえ罠を仕掛けやがりました」
古尾の言葉に、おみつは思わず玄庵の顔を見た。玄庵は、静かに古尾の言葉の続きを促した。
「なんでも、江戸の町で、また奇妙な病が流行り始めたって話ですぜ。しかも、今回は高熱どころじゃねえ。人が石のように固まっていくってんで、町は大騒ぎになってるそうだ」
古尾の説明に、おみつはゾッとした。
人が石のように固まる病。それは、以前の「穢れの熱」とは異なる、さらに恐ろしい症状だ。
「その病は、人が大勢集まる場所に集中してるって話で、特に浅草寺(せんそうじ)の周辺がひどいらしい。しかも、妙なことに、病にかかるのは決まって穢れを多く抱える人間ばかりだってんで、怪しいもんですぜ」
古尾は、そう言って、玄庵の顔を伺った。
穢れを多く抱える人間、そして人が集まる場所。それは、まさに蝕組が穢れを増幅させるために狙う場所ではないか。
玄庵は、腕を組み、静かに瞑目した。彼の頭の中では、古尾の情報が瞬時に整理されていく。
「それは、穢れを特定の場所に集中させ、増幅させるための罠か……」
玄庵が呟くと、古尾は頷いた。
「へっへっへ、さすが先生は話が早え。蝕組のやつらは、先生が穢れを放っておけねえってことを知ってやがる。だから、わざと人が大勢集まる場所に穢れを撒き散らし、先生をおびき出そうって魂胆ですぜ」
古尾の情報は、蝕組の巧妙な策略を物語っていた。
彼らは、玄庵の正義感と、人々を救おうとする彼の信念を逆手に取ろうとしているのだ。
おみつは、不安そうに玄庵を見上げた。
「先生、もしそれが罠なら……行かない方がいいんじゃありませんか?」
おみつの言葉は、もっともだった。罠だと分かっている場所に、わざわざ飛び込む必要はない。
しかし、玄庵は静かに首を振った。彼の瞳には、迷いの色はない。
「行かぬわけにはいかぬ。人々が苦しんでいる以上、私には彼らを救う責務がある。それに……この穢れを放置すれば、いずれ江戸全体を覆い尽くすだろう」
玄庵の言葉に、おみつは息を呑んだ。
彼は、自身の危険を顧みず、人々を救うことを選んだのだ。それは、彼の「鬼」の力と、人間としての信念がぶつかり合う、彼の生き様そのものだった。
「それに、この穢れを止めねば、蝕組の企みを止めることはできぬ。彼らの本拠地を探るためにも、この罠に乗る必要がある」
玄庵は、そう言って、静かに立ち上がった。彼の顔には、覚悟の表情が浮かんでいる。
古尾は、呆れたようにため息をついたが、玄庵の決意の固さを知っているため、それ以上は何も言わなかった。
むしろ、彼の顔には、玄庵と共に戦うことを決めた者の、秘めたる決意が宿っているようにも見えた。
「先生、私も行きます!」
おみつは、玄庵の前に立ちはだかり、強い眼差しで言った。
玄庵は、一瞬戸惑ったように見えたが、おみつの決意の固さを感じ取ると、静かに頷いた。
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