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第八章:新たな依頼、新たな闇
第三十話:紅屋の蔵
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依頼を受けた龍吉は、数日後、紅屋の蔵へと向かった。
北町界隈は、武家屋敷が立ち並ぶ重厚な雰囲気に包まれている。駿河屋があった場所とは趣が異なるが、どこか張り詰めた空気が漂っていた。紅屋の主人、吉右衛門は、龍吉を蔵へと案内した。彼の顔には、前回同様、隠し切れない不安の色が浮かんでいる。
「こちらが、お頼み申し上げた蔵でございます。」
吉右衛門は、重厚な扉の鍵を開け、龍吉を蔵の中へと促した。蔵の中は薄暗く、埃っぽい。だが、その古さの中に、ただならぬ雰囲気があった。龍吉はまず、蔵全体を見回した。年代はかなり古い。使われている木材や土壁の素材は、当時の上質なものだろう。しかし、ところどころに不自然な修復跡が見受けられた。
龍吉は、左官の視点から、蔵の壁に触れ、叩き、耳を澄ませた。指先で壁の表面をなぞり、そのわずかな凹凸から、過去の塗り直しや補修の履歴を読み取る。叩き鏝で壁を軽く叩くと、その音の響きで壁の厚みや内部の構造を推測する。
「ほう…」
龍吉は、壁の特定の場所で叩き鏝を止めた。他の場所とは明らかに異なる、不自然な響きだ。それは、壁の内部に空洞があるか、あるいは通常の土壁とは異なる素材が使われていることを示唆していた。彼はさらに注意深くその場所を調べた。壁の表面には、微かにだが、肉眼ではほとんど見えないほどの継ぎ目がある。それは、まるで壁の一部が、後から嵌め込まれたかのような痕跡だった。
「吉右衛門様、この壁は、以前にも手が入っておりますな?」
龍吉が尋ねると、吉右衛門はびくりと肩を震わせた。
「は、はあ…随分昔に、一度…大きな普請がございましたが…」
明らかに動揺している。彼の隠していることが、この壁にあるのだと龍吉は確信した。
龍吉は、壁の隅々まで五感を研ぎ澄ませて調査を続けた。壁から伝わる空気の僅かな流れ、土壁から微かに漂う匂い。そして、耳を凝らすと、壁の奥から微かな、そして不自然な音が聞こえるような気がした。それは、壁の向こうに、何か生き物、あるいは何らかの仕掛けがあるかのような錯覚を覚える音だった。
さらに蔵の床を調べると、地下への通路を思わせる、かすかな痕跡が見つかる。土間の隅に、不自然に固められた土の層。その下には、何らかの空間が隠されている可能性があった。
堀田屋敷の蔵、駿河屋の蔵、そしてこの紅屋の蔵。三つの蔵には、共通する「影」の痕跡があった。堅牢さへの異常なこだわり、隠された仕掛け、そして、壁の奥に潜む秘密。龍吉は、この蔵にも、将軍家に関わる、あるいは「影法師」の目的と深く繋がる、何らかの秘密が隠されていることを確信する。
「土の記憶」を読み解く。壁の表面だけでなく、その内側に隠された歴史、この蔵を普請した職人たちの思い、そして、「影」が残していった痕跡。それらすべてが、紅屋の蔵に隠された真実へと繋がっているはずだ。
蔵の調査を続けるうちに、龍吉は、微かな視線を感じた。それは、蔵の外から見られているかのような、かすかな気配。龍吉は、扉の隙間から外を窺うが、人影はない。だが、その気配は確かに存在した。「影法師」が既に、この蔵の動き、そして龍吉の存在を察知している。
紅屋の蔵の改修は、単なる普請ではない。それは、「影」との新たな戦いの舞台となることを、龍吉は改めて認識した。そして、その戦いは、これまで以上に深く、複雑なものになるだろう。
龍吉は、決意を新たに、紅屋の蔵の壁を見つめた。
北町界隈は、武家屋敷が立ち並ぶ重厚な雰囲気に包まれている。駿河屋があった場所とは趣が異なるが、どこか張り詰めた空気が漂っていた。紅屋の主人、吉右衛門は、龍吉を蔵へと案内した。彼の顔には、前回同様、隠し切れない不安の色が浮かんでいる。
「こちらが、お頼み申し上げた蔵でございます。」
吉右衛門は、重厚な扉の鍵を開け、龍吉を蔵の中へと促した。蔵の中は薄暗く、埃っぽい。だが、その古さの中に、ただならぬ雰囲気があった。龍吉はまず、蔵全体を見回した。年代はかなり古い。使われている木材や土壁の素材は、当時の上質なものだろう。しかし、ところどころに不自然な修復跡が見受けられた。
龍吉は、左官の視点から、蔵の壁に触れ、叩き、耳を澄ませた。指先で壁の表面をなぞり、そのわずかな凹凸から、過去の塗り直しや補修の履歴を読み取る。叩き鏝で壁を軽く叩くと、その音の響きで壁の厚みや内部の構造を推測する。
「ほう…」
龍吉は、壁の特定の場所で叩き鏝を止めた。他の場所とは明らかに異なる、不自然な響きだ。それは、壁の内部に空洞があるか、あるいは通常の土壁とは異なる素材が使われていることを示唆していた。彼はさらに注意深くその場所を調べた。壁の表面には、微かにだが、肉眼ではほとんど見えないほどの継ぎ目がある。それは、まるで壁の一部が、後から嵌め込まれたかのような痕跡だった。
「吉右衛門様、この壁は、以前にも手が入っておりますな?」
龍吉が尋ねると、吉右衛門はびくりと肩を震わせた。
「は、はあ…随分昔に、一度…大きな普請がございましたが…」
明らかに動揺している。彼の隠していることが、この壁にあるのだと龍吉は確信した。
龍吉は、壁の隅々まで五感を研ぎ澄ませて調査を続けた。壁から伝わる空気の僅かな流れ、土壁から微かに漂う匂い。そして、耳を凝らすと、壁の奥から微かな、そして不自然な音が聞こえるような気がした。それは、壁の向こうに、何か生き物、あるいは何らかの仕掛けがあるかのような錯覚を覚える音だった。
さらに蔵の床を調べると、地下への通路を思わせる、かすかな痕跡が見つかる。土間の隅に、不自然に固められた土の層。その下には、何らかの空間が隠されている可能性があった。
堀田屋敷の蔵、駿河屋の蔵、そしてこの紅屋の蔵。三つの蔵には、共通する「影」の痕跡があった。堅牢さへの異常なこだわり、隠された仕掛け、そして、壁の奥に潜む秘密。龍吉は、この蔵にも、将軍家に関わる、あるいは「影法師」の目的と深く繋がる、何らかの秘密が隠されていることを確信する。
「土の記憶」を読み解く。壁の表面だけでなく、その内側に隠された歴史、この蔵を普請した職人たちの思い、そして、「影」が残していった痕跡。それらすべてが、紅屋の蔵に隠された真実へと繋がっているはずだ。
蔵の調査を続けるうちに、龍吉は、微かな視線を感じた。それは、蔵の外から見られているかのような、かすかな気配。龍吉は、扉の隙間から外を窺うが、人影はない。だが、その気配は確かに存在した。「影法師」が既に、この蔵の動き、そして龍吉の存在を察知している。
紅屋の蔵の改修は、単なる普請ではない。それは、「影」との新たな戦いの舞台となることを、龍吉は改めて認識した。そして、その戦いは、これまで以上に深く、複雑なものになるだろう。
龍吉は、決意を新たに、紅屋の蔵の壁を見つめた。
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