魔法使いの写真屋さん

旅里 茂

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魔法使いの写真屋さん08

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ユイリィがリュウイにお礼を言うと、無言で頭を撫でた。
カイの心配もユイリィは良く判っていたから、改めてお礼を述べた。
勇気は約束事だった鰹節と味噌をユイリィに持たせた。
外は風が幾分荒れてきて、窓ガラスを叩いて、その主張をしている。
魔法陣を描き、カイが持参したタンバリンを奏でながらユイリィが踊り出した。
リュウイが何やら呪文らしき文字を描いた葉を5枚取り出して、魔法陣に吹きかけた。
すると勇気を除いた3人と2匹は青白い光に包まれて、その姿が薄くなってくる。
ユイリィを始め、リュウイとカイもお礼を述べて、魔法陣から縦に光が流れながら、姿が消えていく。
その光が収まると、何事も無かったかのように勇気だけが残った。
夢のような出来事だったが、彼らは確かに存在した。

長老の木の根元に光の輪が差し、全員がジャンプに成功した。
リュウイが周りを見渡し、自分たちの世界に戻れたことを確信した。
「みんな!やったぞ、元の世界に帰れた」
ユイリィが畏まって皆にお礼を言った。
「心配かけて御免なさい」
「いいよ、ユイリィが無事に戻ってくれて…」カイが感慨深くそう言った。
「でも、これって勇気ってやつの住む異世界に、何時でも行けるってことじゃないのかい?」カラスのダイスがそう語る。
確かに、段取りと魔法陣の種類、タンバリンで長老の木元からジャンプ出来そうだ。
其れを改めて感じた皆が、其々の思いを巡らした。
取り残った勇気一人の部屋にまた戻る。
不思議な数日だった。
異世界とは本当に存在するのだと、実感していた。
これをネタに小説を書こうか。
異世界を舞台にした、平凡な大学生の冒険譚…。
もう少しひねった方が良いかも知れない。
散らかった部屋を片付け始めた。
すると、玄関のチャイムが鳴った。
勇気の処に尋ねてくるのは、小説の担当者か、お節介なお隣さんだ。
多分、後者だろうと思って「はいはいー」と玄関を開ける。
すると見覚えのない草臥れたニット帽に、顎鬚を伸ばした50代の男性が立っていた。
「突然の訪問、すいません」
大胆満面、不敵な笑みが、勇気に緊張感を走らせた。
それを悟ったのか「いやいや、怪しい者ではありませんよ、ちょっと異世界の事について話がしたいんですよ」
異世界、ユイリィたちの事を知っているのか。
一瞬身構えたが、話さなければ良いだけである。
論理武装を構えて、「どういったご用件でしょうか?」
出来る限り突っぱねた態度に出る。
「はっはっは。そう怖い顔をされても。ワシは『世話師』と呼ばれておりましてな、いやなに。ワシの処に異世界の人と動物が来ておってな…」
話はまだ続くが、どうやら懐中を割って話せる人物らしい。
「失礼。てっきり異世界の人達の事を…」言い始めて言葉を遮られた。
「もしかして警察関係と思われましたかな?」
「しかし、凄いですね。こちらの考えが筒抜けの様ですよ」
世話師は作り笑いをして、こう話を続けた。
「リュウイさんという方とその連れさんが、追われるようにうちの玄関に来ましてな」
勇気はこの人に喋っても問題はないと判断し会話を取り付けた。
「あなたは異世界の人の事を、何故驚きもせず受け入れられたんですか?」
世話師の次の言葉を待っていたが、それは意外な事だった。
「いやー古い話になるんですが、私も彼らの住んでいた此処でいう、異世界の住人だったんですよ」
この発言には正直驚く、勇気。
すると世話師はこの世界に何らかの方法で紛れ込み、この世界に適応したというのか。
俄かには信じ難かったが、リュウイの事も知っている。まず、間違いないだろう。
「判りました。でも、何故俺の処にユイリィが居た事や、皆が泊まった事まで知っているんですか?」
「魔法をまだ、使えるのでね」
この世界に魔法を使う人間が居たとは…。
いや、結構な数の異世界の人物が紛れ込んでいても不思議ではない。
それらの人達や動物達は、極当たり前のように生活をしているのだ。
感心にも似た感情が込み上げてくる。もしかしたら逆の立場の人間もいるかも知れない。
「そうそう、肝心な用事でしたが、私の仲間を大事に留めて頂いたお礼に、ワシが元居た異世界にご案内差し上げようと思いましてな」
もう一度、ユイリィ達に会える。
高揚する気分に、冷静な風を心に一旦吹き入れて、深呼吸をし言葉を選んだ。
「それは…。興味がない訳ではありませんが、少し考えさせて下さい」
「戻って来れるかどうか不安ですかな?」
「勿論、その心配もあります。あ、でも貴方を疑っている訳でなく…」
世話師は一旦下を向き、再び顔を上げて「大丈夫!ワシはこう見えても善人です」

ユイリィ達が自分たちの世界に戻れたことは、奇跡と思っていたが、実は世話師の法則に乗っ取って、極自然に戻れたことに気付いてはいなかった。
「さて、ユイリィ。もう二度と一人で行っちゃいけないぞ、判ったか?」
ユイリィは下を向き「ごめんなさい」と素直に謝った。
カイはユイリィの事が心配で堪らなかったのか、今になって涙を流した。
「しっかし、すげーよな、あの異世界!なんか、もう興奮したぜ」ダイスがそう言うのも無理はない。
全く異質の発展を遂げた、其々の世界観だ。
当然、違う世界の者がいけば、それは大変な価値観の違いだ。
兎も角、ユイリィ達が土産に貰った味噌や鰹節、それにデジタルカメラのカタログ。
早速、味噌汁を作ると言い出したユイリィが、家に戻り、皆の前で勇気に書いて貰ったレシピを見ながら、器に水を張り、呪文を述べて火を起こす。
手順は単純だが極端に緊張した為か、少し鰹節を入れ過ぎてしまった。
カイが「俺も手伝うよ」と言ってくれたので、ユイリィは味噌を適量取り出し、カイに湯鍋に溶かして欲しいと述べる。
初めての味噌にカイは不安げに思えたが、ユイリィが絶賛していた飲み物なので、わくわく感もあった。
具を入れなくてはと、太刀の実を入れてコトコト煮込んだ。
全員分の器に注いで、いざ試食。
リュウイとカイが一口含むと、それは今までに味わった事のない旨みに舌が痺れた。
「なんだ、この旨さは!あの世界では毎日、こんな美味しいものを飲んでいるのか?」
太刀の実を食べると、偶然にも味噌に合っていたのだろう。
絶妙な味わいであった。
黙して味噌汁を飲む面々は、それに夢中だった。
そして飲み干した後の余韻。
カイが「おいしい~」と呆けている。
初めて作ったにしては上出来だと、ユイリィは自分にガッツポーズを心の中でした。
リュウイも「これは凄い!何とか作れないものだろうか?」
「分割の魔法で試してみたらどうでしょう?」カイが提案をした。
「成程!その方法で試してみるか」
ユイリィも今後、食すには単純に増やすことが必要だ。
味噌と鰹節を魔法陣の円に置き、リュウイとカイが分割芳醇の呪文を唱える。
魔法陣から青白い光が漏れ出し、シュワワワという擬音が周りに響いた。
ダイスと大将が叫んだ。「この匂い、味噌だー!」
すると天井にまで届く勢いで物品が盛り上がった。
光が収まり、ユイリィが近付いて確認する。
すると破った封の味噌が沢山出来上がっていた。
鰹節も出来ている。
「成功ー!」歓喜の声が轟く。
これで毎日、美味しい味噌汁が飲める。
近所の人達を呼んで振る舞おうと提案した。
ユイリィはカイに抱き付いて、「あの世界にもう一度行けるのなら、もっと写真の技術を身に着けたい!」
写真のいろはも一応教えて貰っているので、今後のユイリィの店も新しい商品を出すことが出来る。
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