黄昏の国家

旅里 茂

文字の大きさ
1 / 48
準政府組織-始まり

黄昏の国家01

しおりを挟む
 リニアモーターカーが日本全国に網羅されてから、十数年が経過した。
様々な問題を抱えていた事案も大幅に解決策を見出すことに成功し始めた、西暦2057年の事である。
しかし幾度もの内閣編成による矛盾した政府の方針に、デモを殆どしない日本国民も不満要素が溜まり続けていた。
そんな情勢を見ていた自政党の幹事長、角安敬はある思いを秘めていた。
それは、現政府組織をサポートし、更には重要事項に介入出来る組織。
準日本政府組織の内幕であった。
まず、角安はパイプのある超党派の議員に表向きの話を展開し根回しをした。
その間、密かに集めていた人材を展開して、下地を作っていたのだ。
そして、世界で初となる準政府組織を誕生させた。
一部、それらに対する批判・反芻が起きたが、それらは力で抑えた。
角安は、腹心である高沢健司に、中央司令部となる場所を得る様に命令を下した。
高沢はまず、関西方面に大型のフロート、ビックワンを建造することを提案した。
大手ゼネコン数社にそれぞれ担当を配置し、極めて生産的な処理を行う事に成功した。
まず、神戸空港沖合50Kmに全長50Km、幅7Kmの広大なフロート・ビッグワンの建造に取り掛かる。
当初、地元にこの話が出た際に、説明会を行ったが殆どの人は反対の立場を取った。
まず一番の理由は、漁業範囲の萎縮がもたらすのが許容出来ないとの事だったが、フロートには階層が何層にもなり、自然に近い養殖体制を取る、その取り分を毎年漁業組合を通して、漁師の取り分として支払いを行うという。
この話をまともに聞くものは少なかったが、初期の段階で完成するまでの間、年間の支払いは保証するとの事で折り合いが何とかついたのである。
二つ目に問題提起した組合会長の意見として、海洋汚染が起きるのではないか、という事だった。
これにおいても、高沢本人が説明に当たって、見事に収めて見せた。
但し、資本が何処から出るのか?それはある特殊な方法にて、海水から石油成分と殆ど変わらない物資を取り出す事に成功していた事実に元ずく。
最初の一年間は、騒ぎが大きくならないよう日本政府にも箝口令を敷いて貰っていた。
角安は理工学や化学分野に堪能な人材を議員になってから、高沢たちに指示し召集させていた。
議員報酬とは別に、船舶事業を展開している叔父から、融資を受けていた。
そして時を見計らって、海水製油式をTVで大いに宣伝したのだった。
これには、中東の石油国から可成りの嫌がらせがあったが、角安は動じなかった。
一刻も早くビッグ・ワンの取り組みに掛かりたかったのだ。
状況としては、角安に追い風が吹いた。
自政党党首である、中越勇作が全面的に応援する旨を伝えてきた。
それには、やはり製油における利権を求めての事である。
これは表向きには絶対に隠し通さなければならない。
高沢は次の段階に入る事を、角安に通達した。
海は限りない資源である。
そこで塩水である海水から小型プラントによる、純水を取り出す方法も確立した。
これを元にアフリカ諸国や中東国家に割安で貸し出す事業も手掛けた。
アメリカがこの事業に際し、国際的に展開するべきだという横やりが入った。
要は、自国も手伝うので利権とそのシステムの仕組みを出せとの事だ。
だが、高沢率いるブレーンは、巧にそれらを拒否する方針を打ち立てた。
アメリカとしては面白くなく、関税を強化する旨を中越総理に直接迫ったが、あくまでも強固に立つ日本政府に腰をおったのである。
その内訳として、アメリカが開発した最新鋭戦闘機、F-37ステルスを大量に購入する事で手打ちにしたのだった。
現に2027年に日本政府は、念願の純国産のF-3を完成させていた。
当初は幾つかの不具合が見つかったが、ラプターにも勝る性能を発揮した。
そこへアメリカの最新鋭を200機購入という事態に、一斉に野党が反発した。
野党だけでなく、中越総理と角安の内情を知らぬ与党の一部も反発した。
しかし、これは計算のうちで痛くも痒くもなく、強制的にそれを押し通した。
やがて神戸空港沖に建造されている大型フロートビッグ・ワンに許可を得たドローンで撮影を行う報道機関が一面トップで伝えた。
アメリカは戦闘機の購入というビッグイベントを受けた事で、これには目を瞑る形となった。
騒いだのは日本周辺国であった。
まずは中華人民共和国である。兵器工場ではないかとの疑念を持ったが、実際にはそうであるのだが、まだ披露するわけにはいかない。
また大韓民国も軍国主義の復活の象徴と騒ぎ立てた。
但し、かつての政府ではなく、それらを全て内政干渉であると突っぱねた。
角安の見据える計略は、ビッグ・ワンだけで終わらすわけではない。
日本列島のシーレーンの形に添って、これらを大型フロートを幾つも建造することにあった。今はその第一段階なのである。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...