5 / 48
内情の駆け引き
黄昏の国家05
しおりを挟む
ああいう輩は特別な肩書に弱い。今までに見てきた結果が物語っている。
「分かりました。通達を出して交渉してみます」
「宜しく頼む」、高沢は腑に落ちない状況に、若干の苛立ちを持っていた。
ビッグ・ワンの建造の話が出て、それらを実行するプランを立てたその時点で、必ず揉め事は発生するものだと考えていた。が、人死にまで生じるのは予想外であった。
明日から、角安と共に杉本を暗殺した黒幕を絞らなければならない。
関東電力の圧力、事は大きく尻尾切りの可能性も出てくるだろう。
その時、どのような判断をすればよいのか。
翌朝七時半、ビジネスホテルをチェックアウトした高沢は、角安の事務所に向かった。
ビジョノートには連絡がない。進展はまだなのだろう。
タクシーの中で電力会社との関係を今一度、確認を取った。
データは脳内に残っている。処理を続けるうちに社長である複式がTVに出演していた。
ビッグ・ワンの否定的な言い分と、今後、更に関東電力を大きなものにするという展望を語っていた。
一番にこの人物が関与したのではないか、そう思わせるに足りる会見だが、証拠がない。
角安がどんなトラップを仕掛けるのか、いくらビッグ・ワンのブレーンリーダーである高沢でも、関東電力やましてや政界の人物に迫ることは不可能だ。
そう考えをまとめられないまま、角安の事務所に着いた。
「高沢、君も分かっていると思うが、まあ、仕掛けを作ったのは関東電力の複式社長だろうな」
同様の意見を角安が述べてくれたのは幸いである。
「私も同意です。只、バックにはもっと大物が潜んでいると確信しております」
角安は大きな窓を覗いて、一呼吸置いた。
「実は政府の中に、私の手のものを忍ばせた。いずれは何処からか綻びが出る筈だ。複式と繋がりがあるキーパーソンをな」
それはいったい誰なのか?
その頃、片岡信三議員は三千億が入る皮算用を既に周囲に吹聴していた。
「ふん、ビッグ・ワンだが何だか知らんが、新参者が堂々と表舞台に出るには金が必要という事を、分からせなければな」
片岡の秘書で橋川優斗は大きく頷いて見せた。
「全くです。先生をコケにして事を運ぶなど、片腹が痛いです」
片岡は横目で橋川を見ながら、一言呟いた。
「お前は少し、目上に対しての口の利き方を勉強した方がいいな」
蛇に睨まれたカエルのように、「はっ!申し訳御座いません」、冷や汗をかいて一瞥した。
そのやり取りの直後、事務員の女性から橋川にビジョノートにて連絡が入った。
「橋川秘書、片岡先生に只今、ビッグ・ワンの和巻様よりご連絡が入っております」
橋川から聞いた片岡は頬を緩めた。これで三千億もの金が入ると…。
しかし和巻から提示されたのは、養殖プランの臨時顧問について頂きたいとの事だった。
眉を歪め、どういうことなのか、直接、片岡が和巻に問うた。
「そんな肩書より、以前に伝えた保障はどうなっているんだ」
和巻は言葉を選びながらこう伝えた。
「片岡議員、今回のビッグ・ワン、養殖プランが完成した暁には、莫大な利益を出すことが可能です。ここで三千億を受け取るより、長きに渡り収益を得た方が良いとの、リーダー高沢のご案内であります」
今、決まった金を受け取るより長期の収益を見た方が得か。
片岡は、それも悪くはないと感じ、和巻に臨時顧問になることを伝えた。
「流石、片岡議員。眺望を持っておられます。では後日、電子書類を送らせて頂きます。何とぞ御指南の程、宜しくお願い致します」
片岡は表面上、硬くなっていたが、内容を聞いて之で莫大な金が入ることを、大いに内心喜んでいた。
「いいんですか?先生。肩書だけ…。」
「お前は其れだから駄目なんだ。交渉は二手三手先を見ることだ」
橋川は納得のいかない様子だが、その言葉に従った。
角安は高沢と昼食を取りながら、政府に放った隠密にアクセスしていた。
”特A”と呼ばれる人物で、元々は官僚の一人である。
身元も完璧に偽装しているので、まず見破られることはない。
川崎副次官の動きをトレースしているが、表向き不審な動きを見せていない。
特Aは、川崎の秘書である内村奈々に接触を試みる。
川崎を見本として啓蒙していると伝え、その極意を伺いたいと近付く。
以外にも警戒はされなかった。
内村は川崎を褒めたたえた特Aに好感を持ち、ある件を伝えた。
「分かりました。通達を出して交渉してみます」
「宜しく頼む」、高沢は腑に落ちない状況に、若干の苛立ちを持っていた。
ビッグ・ワンの建造の話が出て、それらを実行するプランを立てたその時点で、必ず揉め事は発生するものだと考えていた。が、人死にまで生じるのは予想外であった。
明日から、角安と共に杉本を暗殺した黒幕を絞らなければならない。
関東電力の圧力、事は大きく尻尾切りの可能性も出てくるだろう。
その時、どのような判断をすればよいのか。
翌朝七時半、ビジネスホテルをチェックアウトした高沢は、角安の事務所に向かった。
ビジョノートには連絡がない。進展はまだなのだろう。
タクシーの中で電力会社との関係を今一度、確認を取った。
データは脳内に残っている。処理を続けるうちに社長である複式がTVに出演していた。
ビッグ・ワンの否定的な言い分と、今後、更に関東電力を大きなものにするという展望を語っていた。
一番にこの人物が関与したのではないか、そう思わせるに足りる会見だが、証拠がない。
角安がどんなトラップを仕掛けるのか、いくらビッグ・ワンのブレーンリーダーである高沢でも、関東電力やましてや政界の人物に迫ることは不可能だ。
そう考えをまとめられないまま、角安の事務所に着いた。
「高沢、君も分かっていると思うが、まあ、仕掛けを作ったのは関東電力の複式社長だろうな」
同様の意見を角安が述べてくれたのは幸いである。
「私も同意です。只、バックにはもっと大物が潜んでいると確信しております」
角安は大きな窓を覗いて、一呼吸置いた。
「実は政府の中に、私の手のものを忍ばせた。いずれは何処からか綻びが出る筈だ。複式と繋がりがあるキーパーソンをな」
それはいったい誰なのか?
その頃、片岡信三議員は三千億が入る皮算用を既に周囲に吹聴していた。
「ふん、ビッグ・ワンだが何だか知らんが、新参者が堂々と表舞台に出るには金が必要という事を、分からせなければな」
片岡の秘書で橋川優斗は大きく頷いて見せた。
「全くです。先生をコケにして事を運ぶなど、片腹が痛いです」
片岡は横目で橋川を見ながら、一言呟いた。
「お前は少し、目上に対しての口の利き方を勉強した方がいいな」
蛇に睨まれたカエルのように、「はっ!申し訳御座いません」、冷や汗をかいて一瞥した。
そのやり取りの直後、事務員の女性から橋川にビジョノートにて連絡が入った。
「橋川秘書、片岡先生に只今、ビッグ・ワンの和巻様よりご連絡が入っております」
橋川から聞いた片岡は頬を緩めた。これで三千億もの金が入ると…。
しかし和巻から提示されたのは、養殖プランの臨時顧問について頂きたいとの事だった。
眉を歪め、どういうことなのか、直接、片岡が和巻に問うた。
「そんな肩書より、以前に伝えた保障はどうなっているんだ」
和巻は言葉を選びながらこう伝えた。
「片岡議員、今回のビッグ・ワン、養殖プランが完成した暁には、莫大な利益を出すことが可能です。ここで三千億を受け取るより、長きに渡り収益を得た方が良いとの、リーダー高沢のご案内であります」
今、決まった金を受け取るより長期の収益を見た方が得か。
片岡は、それも悪くはないと感じ、和巻に臨時顧問になることを伝えた。
「流石、片岡議員。眺望を持っておられます。では後日、電子書類を送らせて頂きます。何とぞ御指南の程、宜しくお願い致します」
片岡は表面上、硬くなっていたが、内容を聞いて之で莫大な金が入ることを、大いに内心喜んでいた。
「いいんですか?先生。肩書だけ…。」
「お前は其れだから駄目なんだ。交渉は二手三手先を見ることだ」
橋川は納得のいかない様子だが、その言葉に従った。
角安は高沢と昼食を取りながら、政府に放った隠密にアクセスしていた。
”特A”と呼ばれる人物で、元々は官僚の一人である。
身元も完璧に偽装しているので、まず見破られることはない。
川崎副次官の動きをトレースしているが、表向き不審な動きを見せていない。
特Aは、川崎の秘書である内村奈々に接触を試みる。
川崎を見本として啓蒙していると伝え、その極意を伺いたいと近付く。
以外にも警戒はされなかった。
内村は川崎を褒めたたえた特Aに好感を持ち、ある件を伝えた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語
kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。
率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。
一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。
己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。
が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。
志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。
遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。
その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。
しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる