黄昏の国家

旅里 茂

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懸案に立つ

黄昏の国家04

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フロートマネージャーはビッグ・ワン、そして更には増設するフロートのコントロールを高沢の指示のもと、セッティングする重要なポストだ。その杉本を暗殺し関わった人物を許す訳にはいかなかった。
翌朝一番のリニアに乗り、東京に着いたのは八時過ぎであった。
タクシーを拾い、角安幹事長の事務所に向かう。既に脅迫文が届いている旨を聞いており警察が動いている事。
事務所に着き、受付嬢に角安に会う約束をしているので其の旨を話し通してもらう。
「角安先生、状況はどうですか?こちらは大変です!」高沢にしては冷静さを失っていた。今回の件では、多分政治的裏があると踏んでいる。それならば何故、杉本が狙われたのか?狙うとするならばトップである、高沢を狙うはずであると。
「おお、高沢、大変だったな。いや、こちらも妙な脅迫文が届いている」
高沢は脅迫文の内容を見せて欲しいと角安に勅願した。
「うむ、本物は警察に渡しているので、コピーを取っておいた。今時紙にペン書きだ。警察も察しがついているようで、多分、アンドロイドの筆跡らしい」
今の時代、アンドロイドもそうだが、電子ペーパーが普及しており通常の紙で字を書くことは殆どない。
角安は今頃、欧州を回っている処だが、不意に側近に急遽、日本に戻るよう即された。
杉本が眉間に撃ち込まれた銃弾を検視で確認した処、オーストリア製の銃、グロッグSEーMという最新モデルだそうだ。
それらを推察するに、やはりビッグ・ワンではなく、他に目的があるのではと高沢は角安に伝えた。
角安はそれを聞いて直ぐに、市来満官房長官に電話連絡をした。
「官房長官、角安です。事件の真相をお伝えしたが党内で動きはありますか?」
市来はその件で不審な動きがあると明言した。
「角安幹事長、まだ表立ってはいない、党内の動きではないが関東電力の株が上がっています。多分取引開始から一挙に上昇するでしょうな」
ビジョノートでその会話を聞いていた高沢はひょっとして、CO2発電機の件が絡んでいるのではないかと、感潜った。
電話を切った角安は高沢に今の件を聞いた。
「間違いなく、それだろうな」角安も頷いた。
まず、部下を亡き者にし、脅しに掛かる手口だ。これは昔から変わらない手法だ。
「問題は政府内の誰が動いたかだ。まず当たるのは電力会社からか…」
杉本の敵討を取りたいと思う高沢に、慎重さを持てと角安がたしなめた。
高沢は角安の事務所から出て、ビジネスホテルに向かった。東京は慣れない。
そう思うには事情があった。
嘗て地方の大学を卒業して、真っ先に上京した。
初めは議員のサポートとして角安の政治塾の塾生であった、木本さえに従事していた。
やがて頭角を現した高沢に眼を付けた角安が、自分の秘書として勤める様、木本の元から引き抜いたのだった。
その時、木本は角安に対しては反発心を少なからず持っていた。
だが口に出すこともなく、作り笑いで高沢を見送った。
そんな事情を垣間見た高沢の内心は、東京を全体的に負のイメージで捉えるきっかけを作ってしまっている。
そんなことを思い出しながら、ベッドにうつ伏せに倒れこむように身体を休ませた。
少しして、ビジョノートの連絡線が開き、ビッグ・ワン総合管理室より養殖チームリーダーの和巻が急を要した連絡をしてきた。
「和巻、どうした?」
「リュクスタ、お休みの処申し訳御座いません。実は漁業組合から新たな提案と言うか、最早脅しなのですが瀬戸内海全域の組合に対し、三千億の保証を立ててくれとの通知が…。」
高沢はやれやれと思った。確かにビッグ・ワンを建造中の間は保証は手厚い程行ったが、欲が出たか。「で、その保証を伝えてきたのは、まさかこんな夜ではあるまい。通知者代表は誰だ?」
和巻はバツが悪そうだったが、「連絡は本日正午過ぎ、瀬戸内海漁業組合を統括している議員の片岡信三という男です」
片岡信三、聞いたことがある。金に物を言わせ、のし上がってきた男だ。今度は金の亡者のお出ましか。
高沢は少し考えて答えた。
「和巻、財務管理室では、どういう話になっている?」
「はい。三千億は今までの保障上、出す訳にはいかないとしています。私も反対です。この男はこれで済ます筈がありませんからね」
確かに。要求額を出してしまえば、また難癖をつけて多寡ってくる。それに実際の処、本当に漁業組合や漁師たちに分配されるか、大いに疑問だ。
「要求額は出せないと伝えろ。但し、三千億の金の代わりに養殖プランの臨時顧問としての肩書をくれてやれ」
「それで収まりますかね?もし拒否されたら…」
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