黄昏の国家

旅里 茂

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騒がしい夜に

黄昏の国家03

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その年の冬、CO2発電機が駆動に成功した。
夢の電気半永久機関の誕生である。
嘗て産業革命が興った時代から、見事に新たなる革命を果たしたのだ。
しかし、手放しで喜々としている事も出来ない。
各方面の電気会社から日本政府を通じて猛烈な反発があったのだ。
それもそうだろう。このシステムによって各家庭にレンタル、或いは販売したとして電気会社には莫大な損失を受けることとなる。
何としてでも、この流れを潰したいと考えるのは自然な流れだろう。
中越総理、副次官四人のうちの一人である、川崎達也副次官にパイプを持つ、関東電力の社長、複式重樹が是が非でも此の計画を潰して欲しいと参上した。
東京のとある、料亭で落ち合った彼らの会話は以下の通り。
「私ども電気事業に携わる者、このようなふざけたシステムを作られては死活問題です。どうか先生のお力で!」
川崎副次官は静かに聞いていたが、おもむろに語り始めた。
「複式君、我々政府としては、第一の利益を得るのが一番と考える。時に『オーイックス』の角安君と総理とは蜜月でな…」言い終わるまでもなく複式が話を遮った。
「川崎副次官!あなたは総理の椅子をいつでも狙っておられる。くしくも出身は私どものお膝元。この意味をお分かり頂けますでしょうか?」
しばしの沈黙の後、川崎はこう話した。
「複式君、人の話は最後まで聞くものだよ。私は角安と総理の関係がどうであれ、そもそも『準日本政府組織』なる物を必要としない。歴史もない成り上がりの角安が超党派議員を買収してのお遊びだ。どんな優秀なシステムをこしらえても、時代が必要としなければ潰すまでだ」
そう言って手持ちの御猪口を扇子の持ち手で叩き割った。
その話を聞いて硬直していた複式が満面の笑みを浮かべた。
「流石先生!分かってらっしゃる。して、幾らほどで?」
川崎もにや突き、手のひらを一つ広げて見せた。
「お安い御用です。未来の総理大臣殿」

フロートマネージャー杉本は時間が空いた時刻、神戸三宮のショットバーで今後の展開を巡らしながらベルモットを飲んでいた。
このバーでは電脳ミュージックが導入されており、脳内再生で音楽を聴くことが出来る。
三杯までの料金で音楽一曲につき、無料だそうだ。
既に五杯以上飲んではいるが、杉本は酒に強い。そう自分でも自覚している。
いつかは高沢と椅子を並べて飲みたいと考えている。
時間は既に深夜の一時を回っており、カップルやら同僚同士と思われる客が集まり始めた。
今宵はウィスキーも含めて、もう少し楽しみたい、そう思っている。
左後ろのドアが、また開いた。今日は客が多い。
その瞬間、左腰に鈍く其れでいて激烈な痛みが走った。
振り返る間もなく、一つ席を挟んで座っていたカップルの女が杉本の眉間を打ち抜いた。
状況を得る間もなく、その一撃が即死を誘った。
何故か他の客も、バーテンダーも無言だった。
只、硝煙の匂いと煙が漂っていた。
ビッグ・ワン居住区エリア第三ゲートに宿泊している高沢に第一報が届いたのは、事件後三十分という速さだった。
中央指令室からビジョノートの緊急アラートがけたたましく鳴ったのだ。
情報は高沢の脳内ビジョンに表れ、その瞬間飛び起きた。
ジャンバーを着込み、車をとばす。
信じれない状況に高沢にしては、動揺があった。
フロートマネージャーとして優秀だった杉本。彼が射殺体で発見されたと何度も脳内で再生されている。
何かの間違いであって欲しい、そう繰り返し心の中で呟いていた。
中央指令室に到着後、一同が一斉に振り向き一人が状況を説明しだした。
神戸港第三突堤の足場に、遺体があったと警察からの連絡が有ったこと。
周辺での聞き込みで騒ぎや銃声が一切なかったこと、目撃者もいないことが挙げられた。
高沢は直ぐに裏があると感じ取った。「私はこれから角安氏に会いに行く。フロートの権限は第二部、加賀市勇樹に任す。何かが動いている、全員、最大限の注意を以て行動するように!」
「はい!」全員が気を引き締めた。
これは政治的な判断が動いている、そう確信した。
同時期、東京、永田町にある角安の事務所に脅迫文が届いていた。
それは杉本暗殺に関することと、準日本政府組織を即座に解散することが記載されていた。
高沢がリニアに乗ってすぐの事だった。角安からビジョノートに連絡が入る。
これで政府組織内の反発勢力が動いているのは明らかだった。
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