黄昏の国家

旅里 茂

文字の大きさ
17 / 48
懐疑の華

黄昏の国家17

しおりを挟む
地道な作業こそ、大成を成就する。
「これで更なるフロートの進捗が賄える」
高沢はそう確信しながら、スタッフを称えた。
ビッグ・フロートは最終的に25まで製造される。
将来的にはCO2光合成エンジンを積んだ、ロケットの開発も視野に入れている。
現在、アメリカが既に月面基地を構築しており、そこには欧州と日本のJAXAも参賀しており、順調に事は進んでいる。
オーイックスも資金的に参加しており、今後の宇宙開拓においても率先して日本政府に様々な要素を提供して行く事を約束している。

原子衛星の事件から一年が過ぎようとしている。
中国共産党は、かつて新彊ウイグル自治区やチベット自治区など非人道的な支配をしていたが、中国民主改革党の反共産党を謳い、蜂起した。
これにより大混乱が生じて約一年半に渡り、民主改革党が一応の勝利を収めた。
しかし、根深く浸透していた共産党も直ぐに崩壊した訳ではなかった。
先の事件の通り、まだ勢力は温存している。
2032年、台湾進攻を実行した中国共産党は、日米英仏連合により挫かれ止む無く撤退した事案があった。
その時、日本も痛手を受けたが、尖閣諸島を防衛する為に当時の内閣が軍事増強を唱え、GDPの10%を超える防衛費を当てていたことが功を奏した。
野党を始め、国内のあらゆる勢力が反対と糾弾を唱えたが、現状は先の通りである。
現在の防衛費は、その流れを受けて10%をキープしている。
また、オーイックスが軍事確定委員会の策定基準が、日本政府よりも遥に多い二十兆円以上の算出しているのも大きい。
時は着々と次のステップに迎えつつある。
高沢は角安から提供された、Fー3戦闘機の後継であるFーX2の参賀を受けて、モックアップを既に完成させていた。
第8世代と言われる戦闘機の開発を事実上、任された形である。
現在、主流となっているレーザー兵器において、ステルスを超える認識阻害システムを搭載する計画である。
これが実現すれば、敵からはレーダーや目視でも確認を取る事が出来なくなる。そんな思いを抱きながら、酒を飲んでいると、木本が傍に寄り添いある提言をしてきたのである。
「リュクスタ、この度の件で素晴らしい業績、おめでとう御座います」
改めてその問いに少しの戸惑いを感じながらも、高沢は彼女なりの慰労の言葉と受け止めた。
「ありがとう、君の手腕も大したものだ」
確かに彼女の今までの行動力と判断力は、特筆するものがある。
実際に厳しかった漁業組合への懸念も払拭した。
これから更に続くであろう、ビッグ・フロート建設においては可成り心強い。
空席になっていた、フロートマネージャーの地位に、木本を置くことも考えている。
杉本が暗殺された痛手は未だに尾を引いているが、これから先を見据えなければならない。
次回の定例協議会で、高沢は木本を推す方向で考えている。
そういった高沢の思惑とは別に、情報監視部の幹部、韮崎健斗が奇妙なデータ信号のやり取りを確認していた。
8Gのレーザー回線でDF圧縮をかけた信号が周期的に、中国とロシアに渡っていることを突き止めたのだ。
只、広範囲で何重ものダミー回線を構築している為、解読が困難であった。
このことに対して速やかに韮崎は高沢の側近、吉江辰美に報告を上げた。
吉江は直ぐに更なるデータの解析を指示した。
もし、ビッグ・フロート計画の内容が漏洩されることがあれば、死活問題となる。
出先の機関が中国とロシアというのも最大限に警戒する国だ。問題が拗れれば事態は日本政府にも直結する。
サイバー部隊としての別称を持つ情報監視部のエリート部隊が、それに当たった。
すると、ビッグ・フロート1にある、索敵システムの一部に、妙なソースコードがある事に気付いた。
ビッグ・フロートの開発手順と今後の計画書が今まさに、送信される手前であった。
直ぐにデータ回線を落として食い止めることに成功した。が、システムダウンと同様の事案に一斉に緊急レベルが上がったのだ。
高沢に吉江が伝えていた事案であったが、これは由々しき問題である。
データの断片にビッグ・フロートの職員が持つIDの切れ端のような内容が付いていた。
すぐさまでーた照会を作動させて、緊急プログラムが作動した。
神戸のデータが既に2TBの情報が漏洩している事が判明して、これが中国共産党のシステムに流れていることも判明した。
そのデータを扱っていた人物は、極僅かである。更に絞りをつける。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...