黄昏の国家

旅里 茂

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共産圏の生贄

黄昏の国家18

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その情報検索で出てきたのは、KIMOTOとあった。
木本!まさかと吉江は感潜った。
彼女の実績は知れ渡っている。その為、将来を岩盤な地位に就くことも約束されたようなものだ。
では、別の人物なのか。しかし、ビッグ・フロートの職員に木本は一人しかいない。
戸惑いながらも吉江はリュクスタに途中報告を上げた。
その内容に驚愕したのは間違いない。
木本が?そんな事がありうるのか?
いや、予め誰かが木本を貶める為に仕組んだものかもしれない。
不信感が不審を呼ぶ。これは更に調べる必要があると、高沢は感じた。
吉江に指示し、更なる電脳階層を調べる指示を出した。
ビック・フロートの電脳階層は可なりの深さがあり、情報確認を取るまでに日数がかかる。
状況は中国とロシアに漏れた情報の確認も、性急だ。
オーイックス内部では、公安隊が事実関係の処理に動き出していた。
高沢は、木本に直接問い質す事も考えたが、もし事実誤認なら不安要素を増すことになりかねない。
韮崎はある一点に気付いた。重要なデータ構築のソースコードに紐付けされたウィルスを発見したのだ。「これは!」
情報監視部で、即解読に入った。
高沢にも伝達され、その成り行きを見守っていた。
それから少しして、ビッグ・ワンの管制塔管理システムの部位に小規模な爆発が起きた。
どうやら怪我人が数人出ているとの情報だ。
消防班と救急班が現場に急行する。
爆発は管制塔管理システムのメインコンピューターが設置されている場所で、そこに甚大な被害が出ているとの情報が入った。
「優先するのは怪我人の搬送だ!あと消化を徹底して、原因を探れ!」高沢が先頭に立って指示する。
トリアージを付けて、救命処置と搬送を手分けして、救急班が懸命に動く。
また、消防班は火災が起きている場所を、スマイサーという特殊な消火剤にて鎮火を目指す。
焼け出されたコンピューター類が三台、これは一般に使用しているものだったので、常時、リカバリソフトが動作していて、データは幸いにも無事だった。
問題は計器類の損傷だった。管制用のシステムが全て被害を受けた為に、他のビッグ・フロートとの連絡を取りずらくなっていた。
しかし、別働に動いているシステムで、何とか応答の有無を行う事は可能であった。
なんにしろ、臨時のシステムを構築しておくことの重大性を改めて認識した。
その同時期、情報監視部が電脳階層の中で不審な動きをしている小さなプログラムを発見した。
韮崎は確信した。「これは!やはりウィルスだ」
二重にウィルスが機能していたのだ。
ここにいる全員が不審に陥った。「おかしい、セキュリティプログラムが同時に走っている筈だ。なんで発見出来なかった?」
オーイックスで設計された抗ウィルスシステムは一般に出回っている物とは違い、AIサーボという多角的ワクチンである。絶えず変化して新型のウィルスに対しても直ぐに適応する能力を持っている。
そのウィルスをコピーして取り出しスタンドアローンのPCで解析が始まった。
すると、今までとは全く違ったロジックの変数パターンを持った特異点である事が判明した。
分析を進めるにつれ、コードに多くの中国語が含まれている。
その頃、公安隊が木本を重要参考人として、招致した。
データベースに残っていた、”KIMOTO”の文字に対して、関連性があるのではないかと、詰め寄った。
はじめは頑なに否定したが、時間が及ぶにつれ中国共産党への賛美を口にし始めた。
これを聞いていた高沢は、ショックを受けずにはいられなかった。
その瞬間、「中国共産党万歳!」と立ち上がると同時に、奥歯を二回カチカチ云わした途端、木本の顔が膨張し、爆発した。
飛び散る肉片と血玉。取調室はパニックとなった。
高沢は、その光景を愕然と見ていたのだ。
すぐに救急班が駆け付け、遺体を集めて回収した。
木本の壮絶な自害から真相を聞き出すことは出来なかったが、やはり中国共産党との繋がりがあった。
この事実を元に高沢は、角安が言っていた内容をようやく理解した。
しかしここまで深入りしているとは、人選の対応をもっと厳格に行わなければならないと動揺は隠しきれなかった。
その晩、角安への連絡を取った高沢は、事の次第を全て伝えた。
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