黄昏の国家

旅里 茂

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F-7飛ぶ

黄昏の国家34

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劇的な速度で、Fー7のプロトタイプが既に完成していた。
量子コンピューターと走査AIにて設計を持たせ、Co2光合成エンジンの実証実験は既に完成しており、あとは組み込むだけとなっていた。
高沢はその実物の戦闘機を眺めていた。
勿論、防衛省の計らいがあったからではあるが、実証にエンジンを提供した実績を評価された部分が大きかっただろう。
独特のフォルム・ニューベクスターCo2光合成エンジン・マルチ構造レーダー・火器管制レジューム・ハイパーレザー砲・認識阻害システム・超小型ミサイルシステムなど、最先端の技術が搭載される予定である。
「…これが、今後の日本の空を守護する戦闘機か」
高沢は感極まる気持ちで見上げていた。
其処へ一人の男が姿を現した。
がっちりとした体躯に鋭い目つきをした、航空自衛軍第三団参謀司令官、加川重行だ。
「どうですか?高沢先生。戦後Fー1に次ぐ純国産戦闘機Fー7は」
軍関係、それも上層の高官が高沢の横で、そう呟く。
感動的ではあるが英国との関係性はどうなったのか。気になる処である。
「なに、向こうも左程気にすることはないようです。事実、二世代前のエンジンの提供を申し出てましたので」
そうなのか。荒木が担がれた可能性がある。英国も最新のエンジンを提供する気が無かったという事なのか。
「高沢先生。先生のラボが開発したエンジン、いや最早それを凌駕するものが、Co2を使用したものであることに、我々は驚きと感動を受けております」
それはそうだろう。温暖化を招く直接の脅威である二酸化炭素を逆に利用する、それを開発したのは、オーイックスの研究者たちだ。
堂々と胸を張れる。
そこで加川は初フライトの日時を伝え、電動スタージェットで国防省へと帰途に就いた。
ビッグ・フロート1には、Fー7プロトタイプが鎮座している。高沢は二年前の事を心に巡らせていた。
事件性も含めて、多過ぎる出来事が走馬灯のように駆け巡る。
部下も何人か失った。裏切りもあった。組織が大きければ大きい程、歪(ひずみ)が生じてくる。
判ったつもりでいた当時の自分が恥ずかしい。そう感じている高沢であった。
もう一度、Fー7数秒見上げてから、指令室に戻った。
それから間もなくして、Fー7プロトタイプを実証試験として飛行させる日が来た。
航空自衛軍より派遣されたのは、古くからある奈良基地所属の熟練パイロット、佐井和正少佐である。
現場は之とない程の場所である。要はビッグ・フロート1である。
こちらの滑走路ではレーザー式誘導光という安全に着陸出来るシステムを装備しており、不測の事態に大いに役に立つ。
まずは政府関係者が前面の席に座る。まず中越総理、川崎副総理とそこには返り咲いた沖田外務大臣、佐名木国防大臣が座っている。
現在、日本政府は第三次中越内閣を形成しており、大臣職には当時の殆どがその職に就いていた。
軍からは航空自衛軍第三団参謀司令官、加川重行と空自のトップである市川修三参謀総長が、その他、航空自衛軍の高官たちが招待された。
それとFー7のボディなどの特殊素材を提供した、栄重工の重鎮たちだ。
オーイックス側からは、高沢を始め、多田、沢田が出席した。
本当なら出席の場に居る筈の人物がいない事に、不審に思う多田と沢田であったが、それを口にすることはなかった。
いよいよ初フライトという事で、緊張感が高まった。
佐井少佐が乗り込む。この日の為にシュミレーションを繰り返していた。
エンジンをかけるが、殆ど音がしない。これもCo2光合成エンジンの特徴である。
モニターには急かしく、デジタル情報が表示される。
火器管制コントロール、現在位置情報、パイロット安全システムなど、認識阻害システムにより肉眼でも確認が困難な為、ステルス性を必要としない。
スロットルを徐々に上げていく。
滑走路を軽快に走行する。「おっ」と思った瞬間、大空に舞い上がる。
エンジンに当たる場所からは青い光が輝いている。
轟音は全くなく静かなフライトで、オーイックスと栄工業以外の人物は大いに驚いた。
正に日本の航空史に名を残す名機であると、中越総理は感動で打ち震えていた。
まずは模擬弾を発射するが、あまりの小ささで火の玉が飛んでいるように見える。
ミニマム弾と呼ばれており、熱源追尾も装備している。
それが移動空中的に見事に連続して着弾する。
実際、500mlのペットボトル程の大きさしかあらず、迎撃するのは極めて困難である。
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