人口コントロール

旅里 茂

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怒り

人口コントロール04

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1日が経った。TVを点けると関高電子産業株式会社の件をニュースキャスターが、爆発事故として読み上げている。これはネットビジョンで見た通りのことだ。
爆発は生産ラインの水素充填管理室で発生し、其の直撃が専務室を襲った。
滝沢が巻き込まれた他、社員数人が死亡、或いは重体と成っている。
倉城が関与した事は微塵も報道されていない。操作されたなと、思った。
TVを消し、ベッドに倒れ込む。
自分に課さられたのはあくまで、ミッションをクリアする為のカード。
今度の件で利用されている事実を痛感している。人質ともいえる幸江の命を守る事だけに専念した。しかし、沢渡を始め上層幹部は人の命など何とも思っていないのもまた事実だ。
電子メモにコールが入った。開治少尉からだ。
脳内での再生を推奨とされている。再生を行う。「男性アンドロイドの駆除」とある。
関高電子産業株式会社の製品だろう。まだ残っているのは生産が今も行われている筈である。表向きには一切出て来ないのは、上層部が逆に利用している可能性もある。最早信じられる人物など居ない。
そういえば、戦闘用と思われる四足歩行ロボットが襲った。あれも製造している所を見ると、神崎が一枚噛んでいる気配だ。
防衛省は防衛陸軍への機械化部隊を望んでいると、批判されていた事があった。
関連は充分に考えられる。
中国共産残党と手を結んでいた滝沢を始末し、其の版権を手に入れる。
その部署にテストとして投入されたのが、倉城だ。
戦闘用ロボットと生身の人間が、何処まで対応出来るか。
ファルコンからグレネード弾を受領してなければ、殺されていただろう。
男性アンドロイドは関高電子産業株式会社の湾岸第二倉庫に保管とある。
それらを3日以内に全て破壊する事と有った。
超望遠で捉えた入り口には、監視カメラが最低5台、警備員は2人が映っている。
もっとも軍事用に構成されたものだから、簡単に破壊は出来ないだろう。
しかし、前回の件で、頭部に銃弾を受けただけで機能を停止した。
案外楽かも知れないが、どうも釈然としない。
行動は開治少尉とともに動けとのことだ。
情報では男性仕様のアンドロイドは約100体。警備ロボットは5台とある。
受胎用アンドロイドはどうなったのか。
隠蔽されている項目が多過ぎる。第五哨戒部隊に戻り、必要な武器を調達する手筈。
倉城は車を出し、古巣に向かう。ネットビジョンを点けると芸能ニュースをやっており、若い芸能人夫婦がセックスレスという見出しが付いている。
最早この国に課せられた現状は危機に瀕していると言っても過言ではない。
去年の出生率が1人辺り0.75人というから、現職の社会人の介護医療費の負担が10年前と比べて20%近く上がっている。
あちらこちらから悲鳴が上がっており、自殺率も大きな問題として取り上げられている。
そういう状況だから、女性型アンドロイドで子供を生ませることが、可能な倫理に取り付けようとしている政府の考えは判らないでもない。
実際にアメリカ合衆国の、人類心理学博士「マストレ・エアー」が提唱しているのは正しいのかも知れない。
第五哨戒部隊に作戦実行日まで2日間篭り、念頭な計画を立てる。
開治少尉を始め、一井軍曹、斉藤伍長と倉城を含め計4名の部隊。
結婚している、或いは偽装をしているのが開治と斉藤だ。一井は独身を貫き通している。
テーブルモニターに立体画像が映し出され、進入経路を確認する。
監視カメラにはネットワークから進入し、阻害させる。
電磁警棒を用意し、警備員との応戦にはこれを使用する。
アンドロイドや戦闘ロボットには、躊躇いなくグラネード弾を使用する。
其の間、湾岸第二倉庫周囲3Kmは情報封鎖させる。これは立花が手配するとのことだ。
「メディアは情報を操作し、一般市民にはそんな事かと思わせる」というのが持論だ。酷い話だが、今までもそうして来た。
作戦開始日の前夜、一井がウィスキーを持って来て作戦成功を祈願するという。
只単に飲みたいだけだろうが、明日の作戦に支障が出ると倉城が諭す。
しかし、命を懸けて死んだらゴミのように扱われるんだと説得のある話だったので、全員で飲み干した。
作戦開始日、AM4時半。湾岸第二倉庫に集結。
監視カメラのセキュリティに進入し、ネットワークから切り離して一井がジャミングを掛ける。モニターには穏やかなまだ薄暗い風景が映し出されている。
全てのモニターに行い、いよいよ進入する。
厳重な建物で、入り口と大型シャッターが一つずつ。
どうしても正面突破しかない。開治がまず先手を取る。其処へ残りの3人が陣を引き突入する。
倉城が「いくぞ」と合図を発し、開治が裏手から警備室の入り口から、警備員に対して電磁警棒で接触させる。其の途端、痙攣を起こして倒れこんだ。
もう一人の警備員は緊急ボタンを押そうとした処を、一井が蹴りを入れる。
警備員は卒倒した。
倉庫内に倉城、開治、一井が専攻して男性型アンドロイドの確認をする、が、その数は半端ではなかった。
ざっと見積もっただけでも500体はある。其の多端、戦闘四速歩行のロボットが銃撃してきた。「AI仕様か」倉城が発した。
散開し、グラネード弾を其々発射した。命中し爆発する。倒れた。と思ったが表面の塗装が剥がれ、装甲の一部が凹んだだけで、殆ど効いていない。
情報が違う。関高電子産業株式会社の本社にいたロボットと同型だが、装甲が全く違った。
開治が「こいつは…。ヤバい!」持ち合わせは他には、9mm弾の拳銃しか携帯していない。
また、嵌められたのか。怒りが込み上げてくるが、相手のロボットは躊躇しない。
バルカン砲の閃光が走り、一井が頭に直撃を受けた。
頭は吹き飛び、血飛沫が舞った。「一井軍曹ー!」開治が「大尉、撤退だ。部が悪すぎる、俺たちが叶う状況ではない」
斉藤が其処へ入り込み、「大尉、少尉!こっちだ!」伍長が叫ぶ。
「一井の遺体を回収しないと…」それを遮ったのは開治だった。
「無理だ!大尉。我々は作戦に失敗した!今はこの場を離脱することを考える」
なんて事だ。またいい加減な情報で貴重な人材を失った。
もう、許す事など出来ない。
保々の態でその場を脱出した3人。一人の殉職を出した。
「くそったれ!」倉城は上層幹部どもの顔を思い浮かべ、怒りを露にした。
今回の作戦が生身の人間に対応した物ではない事は、事前に判っている筈だ。
それを、第五哨戒部隊に掃討させようとしたのは、ひょっとして全滅を計ったのではないか。
今回ばかりは開治も顔の引き攣りを覚えた。
其の時、ネットビジョンに神崎が映った。
「あの状況でよく3人脱出出来たものだな。合格だ」
「ふざけるな!此方は1人、頭を吹き飛ばされたんだぞ!貴様ら全員葬ってやる」
神崎は動揺することなく「それは楽しみだ。だが、任務は始まったばかりだ、君達の戦闘意識と怒りをもっと極限状態にしなくてはな」
どうしようもない感情が爆発し、叫ぶしかなかった。
開治をはじめ、斉藤も同様の気持ちだ。一井は無口な男だったが、冗談の言える数少ない同志だった。
何時までこのような事をしなければいけないのか。
人口コントロールの件など、もうどうでも良かった。
幸江を助ける事と、一井の仇を取ることだけが、今後の目標となった。
それは上層幹部も含まれていることを倉城は心の中で誓った。
夜が明けてくる車内の重苦しい空気の中、無言で古巣に戻る。
仇といっても重装備が必要だ。
倉城はファルコンにコンタクトを取る事を開治、斉藤に伝えた。2人は了承した。
今後は自分達で動く事を誓い合った。
弔い合戦だ。しかし、倉城達の思惑とは別に事態は意外な方向へと進んでいた。
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