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12話

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 突然のトラブルイベント発生に何故か心のどこかでワクワクしている自分がいることにびっくりしつつも、一応危険がないことだけを確認する。俺は勝てない喧嘩はしないタイプなのだ。そしてこの喧嘩はしてもいい、つまるところやれば絶対勝てる……が、今回は隣にタリヤ嬢がいる。

「タリヤ嬢、どうする?やろうと思えばまだ引き返せるが」
「エインツ様には申し訳ありませんが、用があるのがこの先でして……回り道することはできるのですが、少し時間が……」

 そういって懐中時計を取り出すと、時間を確認し、前方の角を見て、ため息をついた。確かに日は少し傾き始め、そろそろ暗くなってくるころだ。女性二人を遅くに帰らせる、というのもな。アズライト家の現当主は剣聖と言われるほどの腕前の持ち主なのだ、怒らせたくない。ミリアデラは自業自得だが。俺たちが離れる際に声をかけたがちゃんと聞いていたのだろうか。

 まぁ子供じゃあるまいし一人で帰れるだろう。……よく考えたらまだまだ子供、と言っても差し支えないくらいか。一人で帰れるかな。いや帰られたら困るんだった、スザク返してもらってない。

 ならばさっさと片付けて、中央へ戻るのが先決だ。

「まぁチャチャっと片付けて先行くか。向こうもそろそろ焦れてきたみたいだし」

 俺がそう言い切ったのと同時にナイフペロペロ舐めてそうな不良が二名、角から出てくる。本当は不意打ち気味に接近したかったのだろうが、俺たちが訝しんで逃げる前に姿を見せることにしたらしい。

「お、カップルさんがこんなところに何の用だぁ?」
「さも今絡みに来たみたいな雰囲気出してるけど、そこで待ってたのわかってるぞ」
「ぐっ…」
「エインツ様の挑発、お嬢様に対してだけかと思っていたのですが、結構誰にでも行っていたのですね」

 根が引きこもりだからよ、世界の大半舐め腐ってんだ。

「それで、だいたい要件はわかってるけど、何の用だ?」
「わかってるなら話は早いな……ここら辺は俺らの縄張りでよ、交通料ってのが必要なんだよ」
「よしわかった、じゃあこいつで手打ちとしよう」
「なんだよ、話がわかんじゃね……って舐めてんのか!」

 懐からスザクの抜けた羽を取り出して乗せてみたが手を払い除けられ、羽がフワフワと宙を舞う。いやノリツッコミしてくれるんだなこのチンピラ。今急に愛着湧いてきたわお前らに。

「ちっ、ちょっとは痛い目見なきゃわからねぇみたいだな」
「兄貴、こいつらやっちゃいましょうぜ」

 お、喋らなかったもう一人のやつ、弟分だったんだな。そう考えるとゲーム内では襲ってくる側と会話なんてできなかったし、ある意味こいつらも設定が掘り下げられることがないやつらなんだよな……普通にプレイしていて、イベント以外で街の中で見ないということは、恐らくはトラブルイベントのたびにポップしているのだろうが、この世界ではどうなるのだろうか。少し彼らに興味がわいてきた。今度探そう。

「タリヤ嬢は……」
「私は使用人でして、戦闘力の方は……」

 悲しそうな顔でこちらを見つめているけど学園に入学している時点で一定の戦闘力を認められているの、わかってて言って……るな!うん。

「へへ、ナイト気取りか?見たところ武器もなんも持ってねぇみたいだな……怪我したくなかったら大人しく渡しておくべきだったな」
「お前すごいな、そこまでよくあるセリフ言われたら恐怖を通り越して関心しか出ねぇよ」
「ぐっ……行くぞモルブ!」

 狭い通路に正面から二人で迫ってくる。一人は左、もう一人は右から、俺の背後には当然タリヤ嬢。相手は一人が木刀のような武器に、もう一人は小さなナイフ。さて、どうしようか。

 このどうしようかというのは何もこいつらチンピラの対処に困っているわけではない。困るくらいの実力者ならすでに逃げているからな。じゃあ何に困っているかというと、手加減だ。

 実家での戦闘は基本的に格上が相手か、魔物が相手だった。どちらも手加減なんて必要ないし、ユニークスキルを抜きにすれば俺が挑む側だった。そして学園に来てから模擬戦はミリアデラの相手をした。ミリアデラは威嚇に怯んでくれる……逆に言うと実力差に気付いてくれるほどの実力であったと言えるが、こういう類は……示威行為が難しいのだ。

 じゃあ挑発するなって?そりゃそうだわ。

 というわけでまずは相手の武器を奪いとることが一番楽だ。まずは木刀、こちらは楽だ。勢いのある木刀というものは木とはいえ威力が乗っていて、人の頭に直撃でもすれば十分致命傷足りえる。いくらチンピラの腰が入っていない剣術であろうと、ダメージはあるだろう。

 というわけで勢いを利用し、木刀を拳で迎え撃つ。魔力の塊を腕に纏い、破壊力を相殺する。そのままこちらは拳を振り抜けば、相手の木刀を先端からへし折ることができるというわけだ。

 木刀が折れて唖然とした顔をするチンピラA君を横目に、俺がAに向けて殴りかかったのをチャンスとだとでも思っているB君がナイフで浅く俺の足を切り裂こうとしている。しかし動きが遅い、右足を引くだけであっさりとナイフは空を切った。前のめりになったBの銅を、引いたゆえに振りかぶることができた右足で蹴りぬいて見せれば、あっさりとその身が宙へ……っと、強く蹴り過ぎた。振り抜く右足に硬い物が鈍く折れる音が響いてくる。やり過ぎたなぁと思いつつもうずくまるBからナイフを取り上げて、そのナイフで頬をぺちぺちと叩く。

「お、元木刀を持っていたそこの君、兄貴分たる彼にこの手が滑ってほしくなかったら、どうすればいいかわかってるよなぁ?」
「エインツ様……」

 何怯えた目をしてるんだよA君、ああ、モルブって言うんだっけ?ははは、震えてらぁ。今俺はしゃがみこんでんだが、頭が高いじゃねぇか?兄貴分はこうして頭下げてるぞ?

 ◆◇◆

「いやー、親切な人たちで助かったな」
「少しあちら側に同情してしまいましたが」

 殺さなければほどほどにボコボコにするのがトラブルイベントだよなぁ。モルブ君もその兄貴分のアルブ君もそういってたぜ。あの後何話しかけても「はい」としか答えてくれなかったけど。

 アルモルコンビは本当にあそこら辺の路地裏で幅利かせていたらしく、俺があそこら辺を通るときはトラブルがないようにすると言い聞かせてくれるらしい。今度遊びに行くね、というと笑みがとんでもない引きつり方をしていたから、油断した辺りで遊びに行こうと思う。

「しかし、エインツ様のおかげで無事にこれら素材を買いそろえることができました、ありがとうございます」
「いや、チンピラ倒して荷物持ちしたくらいだから大したことしてないんだけどな」

 他には他愛もない会話をしているくらいだったし。学生らしい会話だったな、好きな人はいないのかとか、苦手な武器とか、苦手な魔術属性とか、苦手なスキルとか苦手な物など聞かれた。正直に全部特筆するようなことはないと答えてしまったがよく考えたら……こいつ会話のし甲斐ねぇと思われたな。

「お嬢様、お嬢様。もうお帰りの時間でございます」
「こいつ半日スザクと戯れてたのか」

 中央の噴水広場に戻ると放っておいたままのミリアデラはまだそこにいた。良かった、最悪スザクを連れ帰られるかと心配していたのだが、杞憂だったようだ。それほど知能が回っていないらしかった。

「スザク、帰るぞ」
「きゅー!」

 右手を出して呼びかけてやれば、スザクは呼ばれていると理解して戻ってくる。そしてミリアデラはそんなスザクに捨てられたかのような顔をするが、俺とタリヤ嬢の前だと気付いて、今更取り繕った態度を取る。

「ふ、ふん。もう帰るのね。スザクちゃんと遊ばせてくれたこと、感謝してあげるわ」
「うっす」

 なんていうのが正解なんだよこれ。選択肢くれ。

「ではエインツ様、本日は誠にありがとうございました」
「さっきも言ったけど大したことしてないから、気にしないでくれ」
「いえいえ。大変助かりました。……今度もまた二人きりで、お買い物でもどうですか?」
「タリヤ?なんかあなた急に距離詰めてないかしら」

 俺もそう思う。なんだろう、何か琴線に触れたのか、それとも何らかの目的があるのか。まったくわからないが明らかに間合いが近い。しかしそのことを指摘することもできず、微妙にひきつった笑顔で曖昧な返事をしながらその場を後にするしかできなかった。

 休日、特に何かをするわけでもなかったがスザクを外に連れ出し、買い物に連れ添い、アルモルコンビという新しい友人とも会えた。部屋に戻りイスに腰掛ける。幾らか朝より羽艶が良くなった気がするスザクに餌をやりつつ、日記を綴る。

 とりあえず最大の成果はタリヤ嬢と、仲良くなった……でいいのかな。
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