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15話
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風の気持ちいい平日の昼下がり。
昼食も終え、1日の中で一番眠くなる時間であると提唱しているこの真っ昼間に、いつも通り授業をサボって屋上へ来ていた。
現代の学園であればほとんどが安全性の問題から閉鎖しているあろう屋上だが、ここはファンタジー世界かつ学園物の世界にある学園。様々なフラグの塊である屋上が入れないわけもなく……
ということを知っていた俺は気持ちの良い青空の元、何をするでもなくダラダラしようと授業を抜け出し、見つからないようにここまで辿り着いた。屋上へ繋がる扉を開くと、フェンスに囲まれた広い空間。ここだけ見ると現代学園物と何ら変わらない無骨な屋上があった。
サボるってのは何も授業を抜け出せれば良いってもんじゃないんだ。誰にも見つからないであろうという自信に、仮に見つかった際の言い訳、そして普段と違うことをしているという快楽……これらを忘れては怯えるだけで、結局休まらない。授業を受けるのと何ら変わらない疲労感になってしまうだろう。
つまりまずは見つからないであろうポジション。これは扉から見て死角になる位置、扉の上。天井に当たる部分だ。ここは屋上側からは丸見えだが、下からも見えない完璧な位置。
「ふっ」と短い呼気音。鋭く吐いた息に合わせて曲げていた膝を伸ばし、地を蹴る。身体は宙へと身を運び、完璧と評した位置へ押し上げる。
「やっ」
「……どうも」
どうやら今回に限り完璧ではなかったらしい。今までの自分に驕っていた。扉から死角、ということは自分さえ最初は扉の上を見れないということ、そして現在学園内に唯一、俺の魔力感知に引っかからない人間……!
「イラハ副会長……!」
「そんな宿敵に出会ったみたいな言い方しないで欲しいなぁ」
だって今明らかに待ち伏せしてましたよね、なんてことは言えずにとりあえず腰を下ろす。イラハ副会長も座った俺に何を言うでもなく、隣に腰掛けた。
「………………」
「ルートルー君、こういう時は男性が会話をリードするべきではないかな」
生憎前世が引きこもりで今生も前半は病弱だったもので……
「えー、じゃあ。今日天気いいですね」
「定番だね。ただ定番の質問であると同時に今ボクたちのいる場所が屋上である、という事を加味すると空が近いことを感じられるようで悪くない話題提供だ。ああ、いや、今日がいい天気だという話だったね。それはもちろん同意するとも、青広がる空とは」
「長いです、そこまで広がる話題じゃないですこれ」
この人怖ぇよ。ていうかほぼ一人で喋ってるじゃないか。俺が話を遮ると不満そうに頬を膨らませていた。意外だ、原作内でも入学した印象でもクールな完全無欠キャラを想像していたが、なんというか、あざといキャラをしている。
「で、結局何が目的なんですか」
「ん?何が、とは何だ?」
「わざわざ魔力を固めて待っていたのにこの人は何を……」
俺の【確固不抜】は彼女の手に渡っていたようだ。まぁおそらく時間の問題だったというか、図書館で会うまでもなく彼女の1学年下というだけで能力適用内なのだが。
「いやぁ、あの後家に帰ってから柄にもなく物語において最終討伐目標である敵の首魁みたいなムーブを一人でしてしまってね。ふと起きたら恥ずかしくなって会いに来たんだ」
ラスボスみたいな能力してるんでそのムーブたぶんあってますよ……なんて言えない。それにしてもあの後部屋でラスボス的言動をして、俺に会いに来たって?つまり何かしら俺のことを利用する、みたいなニュアンスのことだろうか。
それにしても思い当たることはない。サイドクエストやキャラ設定を思い出してもイラハ副会長が俺を必要とするものなんてあったか?
俺が不思議そうな顔をしていたのを察したのだろう。言いづらそうにしつつも意を決したように口を開いた。
「君の固有《ユニーク》スキル……魔力封じのスキルのことだが」
「正確には封じるってか固めてるだけなんですけど」
「なるほど、やはりボクでは扱いきれてないみたいだね。そもそも君のスキルを操るのもボクのスキルだ。魔力の回路が複雑になってしまうのだろう」
「そこら辺は俺にはわからないですけど……それで、その俺のスキルが何か」
「その能力は他人、それも現在発生している事象すら止めることはできるかい?」
恐らくはスキルが発現しているなら、それを後から発動して差し込みで止められるか、ということだろうか。意外と難しい質問だ。一応できるとは思うが、種類によるとしか言えない。この前の二頭の蛇が使った毒のようなものは体に入ってしまうと取り出すのが難しい。体の魔力と結合して毒の効果を表すタイプだからだ。体内で毒の魔力を固めても排出する手段がない。恐らく俺がスキルにもっと慣れればそれもできるかもしれないが、少なくともここ数年の修行ではそこまでは至らなかった。
「うーん、まぁ物次第、って感じですね」
正直言うと俺がイラハ副会長が次期生徒会長であり、主人公や国のために戦う味方側であることを知っているからここまで話しているが、未だに彼女の目的があまり見えてこない。それほどに言いづらそうに、そして縋るような眼をしているのだ。
訝しそうに彼女を見ていると突然立ち上がり、俺に向け頭を下げた。驚いていると言葉を紡ぎ始める。
「わかっている、不義理なことであることは。まだ何も知らない女の頼みなんて君に聞く義理がないことも……ただ、願いが聞き届けられるなら、ボクにできることはなんだってする……だから何も言わずに、ボクについてきてくれないか」
◇◆◇
「ボクが言うのもなんだが……本当に何も言わずについてきてくれるとは」
「俺の目下の悩みは学園を抜け出して平気なのかってところだけですね」
「そこは心配しないでくれ。担当教諭にはボクから伝えておいてある」
「断られた場合はどうするつもりだったんですか……」
「その場合こちらから気にしないでくれと伝えるだけだよ」
今学園を後にし、学園前街を歩いている。随分真剣な物言いだったので焦っているのかと思ったが、歩くペースはゆっくりだ。昼下がりの街はこの前来た時と違い、学生もおらずやや落ち着いているように思えた。だからと言って閑散としているというわけではなく、落ち着く雰囲気があった。そんな中を美少女と歩いているのだからテンションが上がる……ということもなく、いつにないシリアスな雰囲気に当てられ少し緊張しながら歩いていた。
「ところで、そろそろ目的を聞かせてもらえたりしませんか?目的地だけでもいいんですけど」
「目的は……ここでも少し話しづらいかな。目的地は言えるしもうそろそろ見えてくるころだよ。ボクの家だ」
「副会長、家近かったんですね」
「何、他の貴族と同じさ。別荘を借りているだけだよ」
かつ、かつ、かつと足音があたりに響く。いつの間にか周辺には商人や町民の姿もなく先ほどとは変わり、本当に寂しく閑散とした雰囲気になってきた。前を歩くイラハ副会長の背中からは何の感情も読み取れない。
しばらく無言で二人歩いていると、ある家の前でイラハ副会長の足が止まる。目的地であるイラハ副会長の家に着いたのだろう。ただなんというか、貴族であり学園を導く副会長にしてはやや質素な家だ。前世がある俺からしたら確かに豪邸ではあるのだが。
「さあさ、入ってくれたまえ」
「冷静に考えると学校サボって女子の家に招かれてるんですね俺」
「おや、君はボクを女の子扱いしてくれるんだね。最早ほとんどの子たちに何だか教師の様な扱いを受けていたのだけれどね」
たぶんだけど高嶺の花に思われすぎているんじゃないですかね。そんなことを思いつつ、少し誤魔化されたことには触れずに家の中に案内される。使用人などの出迎えもなく、静かな館の中、客室と思われる場所へ通された。
「……すまないね。ここでならやっと落ち着いて話せるよ」
「聞かれたくない話だったんですね。にしても徹底しすぎている気がしますが」
「副会長として上に立つ立場だと色々隠し事もあってね……それじゃあ、何で君を連れてきたか話すとしようか……ボクの妹のことを」
妹?イラハに妹がいたなんて話、原作でも聞いたことがないぞ。
昼食も終え、1日の中で一番眠くなる時間であると提唱しているこの真っ昼間に、いつも通り授業をサボって屋上へ来ていた。
現代の学園であればほとんどが安全性の問題から閉鎖しているあろう屋上だが、ここはファンタジー世界かつ学園物の世界にある学園。様々なフラグの塊である屋上が入れないわけもなく……
ということを知っていた俺は気持ちの良い青空の元、何をするでもなくダラダラしようと授業を抜け出し、見つからないようにここまで辿り着いた。屋上へ繋がる扉を開くと、フェンスに囲まれた広い空間。ここだけ見ると現代学園物と何ら変わらない無骨な屋上があった。
サボるってのは何も授業を抜け出せれば良いってもんじゃないんだ。誰にも見つからないであろうという自信に、仮に見つかった際の言い訳、そして普段と違うことをしているという快楽……これらを忘れては怯えるだけで、結局休まらない。授業を受けるのと何ら変わらない疲労感になってしまうだろう。
つまりまずは見つからないであろうポジション。これは扉から見て死角になる位置、扉の上。天井に当たる部分だ。ここは屋上側からは丸見えだが、下からも見えない完璧な位置。
「ふっ」と短い呼気音。鋭く吐いた息に合わせて曲げていた膝を伸ばし、地を蹴る。身体は宙へと身を運び、完璧と評した位置へ押し上げる。
「やっ」
「……どうも」
どうやら今回に限り完璧ではなかったらしい。今までの自分に驕っていた。扉から死角、ということは自分さえ最初は扉の上を見れないということ、そして現在学園内に唯一、俺の魔力感知に引っかからない人間……!
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だって今明らかに待ち伏せしてましたよね、なんてことは言えずにとりあえず腰を下ろす。イラハ副会長も座った俺に何を言うでもなく、隣に腰掛けた。
「………………」
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生憎前世が引きこもりで今生も前半は病弱だったもので……
「えー、じゃあ。今日天気いいですね」
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「長いです、そこまで広がる話題じゃないですこれ」
この人怖ぇよ。ていうかほぼ一人で喋ってるじゃないか。俺が話を遮ると不満そうに頬を膨らませていた。意外だ、原作内でも入学した印象でもクールな完全無欠キャラを想像していたが、なんというか、あざといキャラをしている。
「で、結局何が目的なんですか」
「ん?何が、とは何だ?」
「わざわざ魔力を固めて待っていたのにこの人は何を……」
俺の【確固不抜】は彼女の手に渡っていたようだ。まぁおそらく時間の問題だったというか、図書館で会うまでもなく彼女の1学年下というだけで能力適用内なのだが。
「いやぁ、あの後家に帰ってから柄にもなく物語において最終討伐目標である敵の首魁みたいなムーブを一人でしてしまってね。ふと起きたら恥ずかしくなって会いに来たんだ」
ラスボスみたいな能力してるんでそのムーブたぶんあってますよ……なんて言えない。それにしてもあの後部屋でラスボス的言動をして、俺に会いに来たって?つまり何かしら俺のことを利用する、みたいなニュアンスのことだろうか。
それにしても思い当たることはない。サイドクエストやキャラ設定を思い出してもイラハ副会長が俺を必要とするものなんてあったか?
俺が不思議そうな顔をしていたのを察したのだろう。言いづらそうにしつつも意を決したように口を開いた。
「君の固有《ユニーク》スキル……魔力封じのスキルのことだが」
「正確には封じるってか固めてるだけなんですけど」
「なるほど、やはりボクでは扱いきれてないみたいだね。そもそも君のスキルを操るのもボクのスキルだ。魔力の回路が複雑になってしまうのだろう」
「そこら辺は俺にはわからないですけど……それで、その俺のスキルが何か」
「その能力は他人、それも現在発生している事象すら止めることはできるかい?」
恐らくはスキルが発現しているなら、それを後から発動して差し込みで止められるか、ということだろうか。意外と難しい質問だ。一応できるとは思うが、種類によるとしか言えない。この前の二頭の蛇が使った毒のようなものは体に入ってしまうと取り出すのが難しい。体の魔力と結合して毒の効果を表すタイプだからだ。体内で毒の魔力を固めても排出する手段がない。恐らく俺がスキルにもっと慣れればそれもできるかもしれないが、少なくともここ数年の修行ではそこまでは至らなかった。
「うーん、まぁ物次第、って感じですね」
正直言うと俺がイラハ副会長が次期生徒会長であり、主人公や国のために戦う味方側であることを知っているからここまで話しているが、未だに彼女の目的があまり見えてこない。それほどに言いづらそうに、そして縋るような眼をしているのだ。
訝しそうに彼女を見ていると突然立ち上がり、俺に向け頭を下げた。驚いていると言葉を紡ぎ始める。
「わかっている、不義理なことであることは。まだ何も知らない女の頼みなんて君に聞く義理がないことも……ただ、願いが聞き届けられるなら、ボクにできることはなんだってする……だから何も言わずに、ボクについてきてくれないか」
◇◆◇
「ボクが言うのもなんだが……本当に何も言わずについてきてくれるとは」
「俺の目下の悩みは学園を抜け出して平気なのかってところだけですね」
「そこは心配しないでくれ。担当教諭にはボクから伝えておいてある」
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今学園を後にし、学園前街を歩いている。随分真剣な物言いだったので焦っているのかと思ったが、歩くペースはゆっくりだ。昼下がりの街はこの前来た時と違い、学生もおらずやや落ち着いているように思えた。だからと言って閑散としているというわけではなく、落ち着く雰囲気があった。そんな中を美少女と歩いているのだからテンションが上がる……ということもなく、いつにないシリアスな雰囲気に当てられ少し緊張しながら歩いていた。
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