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14話
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何故か黒髪ロング美少女が俺のことを覗き込んでくるでござる。そんな小ボケをかます暇もなく、彼女は探るようにじっと見つめる。その目は俺の瞳を越え、何かを見通しているようだった。
「ふむ、ふむふむ。難儀な宿命を抱えているね。大変扱いづらそうだ」
「えっと……」
「いや、すまないね。面識を持ったことで君の君たる所以が観測できたのだが、如何せん御し難そうだ。ボクには懐いてくれないかもしれない」
見つめたまま、形のいい唇が開いた。その口から語られる言葉は酷く抽象的な言葉だ。恐らく俺が理解できないと思って、ぼかした表現をしているのだろう。当然一般生徒で、しかも新入生であるのならば知りえないことであろう。しかしこの人の固有《ユニーク》スキルを知っていれば話は違うことだった。
「……懐かないでも副会長なら扱えるのでしょう?」
「おや、そこまで知っているのか。……ルートルー君、つばを付けておいてもいいかな」
唾?と思わず間抜けな声が漏れた。イラハ副会長のつば?ファンサイトとかで高値で販売できそうだな……ってわけではないだろう。
「来月に入る辺りから生徒会役員に立候補することができる。そして選挙というものを行い、生徒会へ加入するというわけだ」
「さすがに知っていますよ。生徒と教員による投票制ですね」
貴族政治を行っている割には学園の生徒会は選挙制だ。と言ってもこの世界の人間にはあまり馴染みのないシステムなのだろうからあまり話題に上がるものでもないが。
「そうだね。ただし生徒会会長は権限として、役員を選挙無しに指名することもできる……」
ここまで来て何を言いたいか、わからないなんてことはないだろう。これはスカウトだ。何が彼女の琴線に触れたのかわからないが、エインツ・ルートルーを欲しているらしい。
目を覗き込んでいた顔はどんどんと近づき、彼女の匂いが感じ取れるほどの距離になった。前世でも今世でも感じたことのない花のような香りがふわりと広がる。そしてほぼ触れ合うような距離感になると、鐘が鳴った。部活動などの帰宅時間を告げる最後の鐘だ。
眼前のイラハ副会長の顔が残念そうな顔になると音もなく離れていく。
「また会おうね。エインツ君。それとポケットの中の君も」
何故か怖くなるほどの綺麗な笑顔で別れを告げると、それ以降振り返ることもなく図書館から去っていった。恋愛感情や女性耐性とは別の、何か生物として、謎の恐怖を感じて早鐘を打つ鼓動を抑え、図書館を後にする。まさか俺のことを待っていないだろうと周囲を見回すも気配、魔力共に感じられない……が、俺がすでに彼女の固有《ユニーク》スキルの対象内であった場合は魔力感知も意味がないかもしれない。
最後のスザクを感知したのが彼女の固有スキル……いや、俺の固有スキルによるものであったのなら……
すっかり暗くなった辺りは、まだ春先だが十分冷たさすら感じるほどだ。もう姿を現していいと思ったのかスザクが頭の上に止まる。学園内だから見つかったら普通に怒られるんだから大人しくしててほしいが、夜にポケットにしまっておいてポケットが謎に発光する男子生徒になりたくないのでしょうがなくそのままにしておく。
……火を出すな火を。頭部が発光する男子生徒にランクアップするじゃねぇか。
スザクを持ち上げ、そのまま掌の上で弄びながら歩く。くすぐったそうに身をよじるが気にせず触り続ける。やっぱり日に日に羽の量が増えている気がする……いずれ玉になるんじゃないか、お前。
イラハ・ヤエ・ガ・ケーンヒ。原作では生徒会にて会長を務め、固有グラフィックなどがあるが仲間にならず、メインシナリオでもフォーカスされることはない。
それは恐らくエインツ同様の理由で、その元たる固有スキル【万夫不当】……原作中では戦闘がなく名前と活躍しか明かされていないイラハ副会長の固有スキル。スキルの効果はシンプルに、自分の庇護下にある全員の固有スキルを発動できるというぶっ壊れ能力である。しかもこの庇護下という制約、厳密には自分の組織、団体、雇用関係で下にいるという条件ではあるのだが、認識は本人に由来するというがばがば裁定なのだ。つまり彼女が言った
「ふむ、ふむふむ。難儀な宿命を抱えているね。大変扱いづらそうだ」
「いや、すまないね。面識を持ったことで君の君たる所以が観測できたのだが、如何せん御し難そうだ。ボクには懐いてくれないかもしれない」
というセリフは俺の固有スキルに対しての発言だったのだ。学年が下だから1年生全員庇護する対象なんだろうね。おかしいね。
まぁ一見無敵に見える能力だがシナリオ後半では固有スキルにも成長要素があったり、そもそもそんな強力な固有スキルを持っているのは俺《エインツ》含めて数人くらいしか思い至らないし。逆に言うとエインツの能力にプラスアルファで他の固有スキルを使えるだけで十分におかしいのだ。コピー能力者はだいたい物語のラスボスであるのだがこの世界ではただのイベントキャラみたいなものだ。
あるいは風子氏が最後までシナリオを書いていたならイラハたち生徒会メンバーが主人公の前に立ちはだかったりしたのだろうか。嫌だなぁ、スキル封印しながら宙に浮いて視界内を爆破するラスボス……
とりあえず目下の問題点は彼女がスザクのことに気付いたことくらいだろうか。しかし彼女は俺のことをスカウトする予定を告げ、最後にスザクの存在を仄めかし消えていった。今は目をこぼすからわかっているよな?ということだろうか。謎だ、正直彼女ほどの人ならば学園内の権限だけで俺程度生徒会に拉致することは可能だと思うのだが……
いや、今のところは無理に考えても仕方がないだろう。俺がわかるのは原作通りのことだけで、ある意味原作の外と言えるこの時間軸では無力な引きこもりなのだから。
元引きこもりが化け物会長と渡り合うなんて無理無理。帰って寝ようぜスザク。
◆◇◆
【Side:イラハ・ヤエ・ガ・ケーンヒ】
これはボクが図書館で彼と出会う、少し前の話だ。いつも通り仕事を全て片付け終え、愛すべき学園生徒たちの活動を生徒会室から眺めていた。この時計塔最上階にある生徒会室も初年は馴染めなかったが今はこうして学園の生徒たちを一望できる専用の展望台だとでも思えば悪くないと思えるようになった。
ふと校舎を眺めていると、一つの窓が目に留まった。今に思えばそれが目に留まったのは偶然だったのだろう。勢いよく黒い影が飛び出したかと思うとそれは校舎の外へ向けて走っていった。
後に疑問に思い調べてみると、今年首席で入学したエインツ・ルートルー・ガ・トリンという男子生徒の名前が浮上した。噂には聞いていた。ルートルーの麒麟児と呼ばれ、入学前後問わず目覚ましい活躍を見せている。
そんな彼を観測し、干渉しようとした結果、弾かれた。
目を見開き驚く。無意識に彼に干渉をしようとしていた自分と、そしてそれを難なく払いのけた彼に。
なぜ、どうやって、どうして。疑問が脳裏に渦巻くが、何一つ明確な解答を持ちえない。ならば直接会うしかないだろうと思ったが、それすらもなぜかうまく行えなかった。彼に会おうと行動をすると、何か、そう大きな力によって阻まれるかのように、ぬらりくらりと躱されるのだ。
どうにかして会えないものかと云々唸っている時に、ふと生徒会の用事で立ち寄った図書館で彼の姿を見た。思わず声が出そうなるのを抑え、冷静に生徒会メンバーに本日は図書館の受付を終了するよう指示を出した。そうして彼以外の人間に退出を促し、彼と二人きりになることに成功した。驚くべきことかそれともこれすら計算のうちか、今回は何かに阻まれるようなことなく彼との対談に必要な場が揃っていく。
そうして彼が本を読み終えたのを確認し声をかけた。嬉しいことに彼もボクのことを知ってくれていたようで、思わず笑みがこぼれる。
彼と話を重ねていくうちに、彼の力の根源が覗けてくる。そして力の一端が覗き込めるようになったと同時に、驚愕。そして歓喜の感情が内から湧き上がる。
彼には少し威圧的なことをしてしまったかもしれないが、それすら自覚できたのは家に帰ったあとのことだった。机の上に飾ってある写真立て、その中に映る自分と、もう一人の少女を撫でるようにそっと触れる。
「やっと見つけたんだ。もう少しだ、テロス……」
「ふむ、ふむふむ。難儀な宿命を抱えているね。大変扱いづらそうだ」
「えっと……」
「いや、すまないね。面識を持ったことで君の君たる所以が観測できたのだが、如何せん御し難そうだ。ボクには懐いてくれないかもしれない」
見つめたまま、形のいい唇が開いた。その口から語られる言葉は酷く抽象的な言葉だ。恐らく俺が理解できないと思って、ぼかした表現をしているのだろう。当然一般生徒で、しかも新入生であるのならば知りえないことであろう。しかしこの人の固有《ユニーク》スキルを知っていれば話は違うことだった。
「……懐かないでも副会長なら扱えるのでしょう?」
「おや、そこまで知っているのか。……ルートルー君、つばを付けておいてもいいかな」
唾?と思わず間抜けな声が漏れた。イラハ副会長のつば?ファンサイトとかで高値で販売できそうだな……ってわけではないだろう。
「来月に入る辺りから生徒会役員に立候補することができる。そして選挙というものを行い、生徒会へ加入するというわけだ」
「さすがに知っていますよ。生徒と教員による投票制ですね」
貴族政治を行っている割には学園の生徒会は選挙制だ。と言ってもこの世界の人間にはあまり馴染みのないシステムなのだろうからあまり話題に上がるものでもないが。
「そうだね。ただし生徒会会長は権限として、役員を選挙無しに指名することもできる……」
ここまで来て何を言いたいか、わからないなんてことはないだろう。これはスカウトだ。何が彼女の琴線に触れたのかわからないが、エインツ・ルートルーを欲しているらしい。
目を覗き込んでいた顔はどんどんと近づき、彼女の匂いが感じ取れるほどの距離になった。前世でも今世でも感じたことのない花のような香りがふわりと広がる。そしてほぼ触れ合うような距離感になると、鐘が鳴った。部活動などの帰宅時間を告げる最後の鐘だ。
眼前のイラハ副会長の顔が残念そうな顔になると音もなく離れていく。
「また会おうね。エインツ君。それとポケットの中の君も」
何故か怖くなるほどの綺麗な笑顔で別れを告げると、それ以降振り返ることもなく図書館から去っていった。恋愛感情や女性耐性とは別の、何か生物として、謎の恐怖を感じて早鐘を打つ鼓動を抑え、図書館を後にする。まさか俺のことを待っていないだろうと周囲を見回すも気配、魔力共に感じられない……が、俺がすでに彼女の固有《ユニーク》スキルの対象内であった場合は魔力感知も意味がないかもしれない。
最後のスザクを感知したのが彼女の固有スキル……いや、俺の固有スキルによるものであったのなら……
すっかり暗くなった辺りは、まだ春先だが十分冷たさすら感じるほどだ。もう姿を現していいと思ったのかスザクが頭の上に止まる。学園内だから見つかったら普通に怒られるんだから大人しくしててほしいが、夜にポケットにしまっておいてポケットが謎に発光する男子生徒になりたくないのでしょうがなくそのままにしておく。
……火を出すな火を。頭部が発光する男子生徒にランクアップするじゃねぇか。
スザクを持ち上げ、そのまま掌の上で弄びながら歩く。くすぐったそうに身をよじるが気にせず触り続ける。やっぱり日に日に羽の量が増えている気がする……いずれ玉になるんじゃないか、お前。
イラハ・ヤエ・ガ・ケーンヒ。原作では生徒会にて会長を務め、固有グラフィックなどがあるが仲間にならず、メインシナリオでもフォーカスされることはない。
それは恐らくエインツ同様の理由で、その元たる固有スキル【万夫不当】……原作中では戦闘がなく名前と活躍しか明かされていないイラハ副会長の固有スキル。スキルの効果はシンプルに、自分の庇護下にある全員の固有スキルを発動できるというぶっ壊れ能力である。しかもこの庇護下という制約、厳密には自分の組織、団体、雇用関係で下にいるという条件ではあるのだが、認識は本人に由来するというがばがば裁定なのだ。つまり彼女が言った
「ふむ、ふむふむ。難儀な宿命を抱えているね。大変扱いづらそうだ」
「いや、すまないね。面識を持ったことで君の君たる所以が観測できたのだが、如何せん御し難そうだ。ボクには懐いてくれないかもしれない」
というセリフは俺の固有スキルに対しての発言だったのだ。学年が下だから1年生全員庇護する対象なんだろうね。おかしいね。
まぁ一見無敵に見える能力だがシナリオ後半では固有スキルにも成長要素があったり、そもそもそんな強力な固有スキルを持っているのは俺《エインツ》含めて数人くらいしか思い至らないし。逆に言うとエインツの能力にプラスアルファで他の固有スキルを使えるだけで十分におかしいのだ。コピー能力者はだいたい物語のラスボスであるのだがこの世界ではただのイベントキャラみたいなものだ。
あるいは風子氏が最後までシナリオを書いていたならイラハたち生徒会メンバーが主人公の前に立ちはだかったりしたのだろうか。嫌だなぁ、スキル封印しながら宙に浮いて視界内を爆破するラスボス……
とりあえず目下の問題点は彼女がスザクのことに気付いたことくらいだろうか。しかし彼女は俺のことをスカウトする予定を告げ、最後にスザクの存在を仄めかし消えていった。今は目をこぼすからわかっているよな?ということだろうか。謎だ、正直彼女ほどの人ならば学園内の権限だけで俺程度生徒会に拉致することは可能だと思うのだが……
いや、今のところは無理に考えても仕方がないだろう。俺がわかるのは原作通りのことだけで、ある意味原作の外と言えるこの時間軸では無力な引きこもりなのだから。
元引きこもりが化け物会長と渡り合うなんて無理無理。帰って寝ようぜスザク。
◆◇◆
【Side:イラハ・ヤエ・ガ・ケーンヒ】
これはボクが図書館で彼と出会う、少し前の話だ。いつも通り仕事を全て片付け終え、愛すべき学園生徒たちの活動を生徒会室から眺めていた。この時計塔最上階にある生徒会室も初年は馴染めなかったが今はこうして学園の生徒たちを一望できる専用の展望台だとでも思えば悪くないと思えるようになった。
ふと校舎を眺めていると、一つの窓が目に留まった。今に思えばそれが目に留まったのは偶然だったのだろう。勢いよく黒い影が飛び出したかと思うとそれは校舎の外へ向けて走っていった。
後に疑問に思い調べてみると、今年首席で入学したエインツ・ルートルー・ガ・トリンという男子生徒の名前が浮上した。噂には聞いていた。ルートルーの麒麟児と呼ばれ、入学前後問わず目覚ましい活躍を見せている。
そんな彼を観測し、干渉しようとした結果、弾かれた。
目を見開き驚く。無意識に彼に干渉をしようとしていた自分と、そしてそれを難なく払いのけた彼に。
なぜ、どうやって、どうして。疑問が脳裏に渦巻くが、何一つ明確な解答を持ちえない。ならば直接会うしかないだろうと思ったが、それすらもなぜかうまく行えなかった。彼に会おうと行動をすると、何か、そう大きな力によって阻まれるかのように、ぬらりくらりと躱されるのだ。
どうにかして会えないものかと云々唸っている時に、ふと生徒会の用事で立ち寄った図書館で彼の姿を見た。思わず声が出そうなるのを抑え、冷静に生徒会メンバーに本日は図書館の受付を終了するよう指示を出した。そうして彼以外の人間に退出を促し、彼と二人きりになることに成功した。驚くべきことかそれともこれすら計算のうちか、今回は何かに阻まれるようなことなく彼との対談に必要な場が揃っていく。
そうして彼が本を読み終えたのを確認し声をかけた。嬉しいことに彼もボクのことを知ってくれていたようで、思わず笑みがこぼれる。
彼と話を重ねていくうちに、彼の力の根源が覗けてくる。そして力の一端が覗き込めるようになったと同時に、驚愕。そして歓喜の感情が内から湧き上がる。
彼には少し威圧的なことをしてしまったかもしれないが、それすら自覚できたのは家に帰ったあとのことだった。机の上に飾ってある写真立て、その中に映る自分と、もう一人の少女を撫でるようにそっと触れる。
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