八雲先生の苦悩

夏目碧央

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補習

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 放課後、教室で何人かの質問に答えてから、教員室に戻ろうとして隣の1組の教室の前を歩いて行くと、1組の教室で一人の生徒が数学の岸谷先生に質問をしていた。何気なく歩きながら見たら、その生徒は颯太だった。
 俺は1組の前の廊下を通り過ぎた後、そこで足を止めた。教室には岸谷先生と颯太の二人きり。気になる。踵を返し、また1組の前をゆっくりと歩く。教室内を見ると、座っている颯太に、岸谷先生が立ったまま説明をしている。俺はそのまま歩いて2組の教室に入った。
 だが、教室の中に入ってしまうと声が聞こえない。俺は箒と塵取りを取り出してきて、廊下に出た。廊下の掃き掃除を始め、1組の前の廊下の方へ徐々に進んで行った。颯太が質問している声が聞こえる。颯太は、俺にはため口をきくが、岸谷先生には敬語を使う。俺に親しみを感じているからだよな?尊敬してないとか、ナメているとか、そういう事ではないよな?
「・・・それで、ここが分からないんですけど。」
「どれどれ?」
沈黙が訪れたので、掃き掃除をしながらちらっと1組の中を見た。岸谷先生が颯太の書いたものをちゃんと読もうと、颯太の後ろに移動して、颯太の肩越しに机の上を覗き込んだ。
 カラン!
 俺は思わず塵取りを落としてしまった。金属製の塵取りが激しい音を立てた。しまった!けれど、だって、だって、近い、近いから。岸谷先生が颯太の背中に覆いかぶさって、顔と顔がすごく近づいていたから!
 俺が音を立てたので、当然二人はこちらを振り向いた。俺はぱっと手元に視線を移し、塵取りを拾った。
「二ノ宮先生、何してるんですか?」
岸谷先生が扉の所まで来てそう声をかけてきた。
「あ、お邪魔してすみません。廊下にゴミが落ちていたので、ちょっと掃除を。」
「そうですか、ご苦労様です。」
穏やかな岸谷先生は、疑いを微塵も持たず(たぶん)、そう言ってまた颯太の所へ戻って行った。俺が顔を上げてそちらを見ると、颯太がこちらを向いていて、目が合った。
 円らな瞳。何を思っているんだい?
 俺はガッツポーズを小さく作り、胸の前で2度ほど振った。補習頑張れよ、というジェスチャーだ。そして、また掃除に戻る。
「颯太、ここが間違っているからおかしくなるんだよ。」
岸谷先生が颯太に話しかけ、また颯太の「はい、はい。」という返事が聞こえてきた。
 やきもち、か。情けない。颯太、国語の質問に来てくれないかなあ。颯太は理系だが、国立大志望だから、国語も受験科目に入っている。いつか質問に来てくれると信じているぞ。

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