初めての一人旅in金沢~富山

夏目碧央

文字の大きさ
12 / 33

金沢城公園

しおりを挟む
 朝、なんと予報に反して雨が降っていたのだった。今日はどこへ行こうかと迷う。しかし食事を終え、出かける支度を終えて窓の外を見ると、雨が止んでいて、ちょっと日が差していた。なので、最初の予定通り金沢城公園から行こうと決めた。
 午前9時頃にホテルを出て、金沢駅へ歩いて行った。駅前のバスロータリーの窓口で、またバスの一日フリー乗車券を購入。もう間違わずに並ぶ事が出来る。来たバスに乗り込み、昨日バッジを無くしたあのバス停へと向かった。観光地の中心部と言ってもいいだろう。21世紀美術館の前である。
 バスが到着し、下車する。雲は多いが日も差すので、日傘を差した。と言っても、昨日雨の中で差していた、あの傘と同一である。晴雨兼用の折りたたみ傘だ。さて、スマートフォンの地図を頼りに金沢城を目指す。すぐ近くのはずだが、木がこんもりしているばかりでどこだかよく分からない。少なくとも城らしい物は見えない。スマートフォンに従ってちょっと進み、こっちだと思って入ろうとしたら、入れない。どうやら入り口ではない。見るとそこに看板が出ていて、金沢城公園へ行くには、ぐるりと回れと書いてある。んー?何だ?
 私と同じように、ここへ来て引き返す人が二人くらいいた。私は地図と実際の地形とを何度も見比べた。二次元の地図だと分からないのが高低差。立体交差の問題なのだ。そして、どうやら私はその辺が苦手なようだ。2次元はいいけれど、3次元が苦手。立体が苦手。確かに、数学の問題でもそのような傾向があったような。
 目の前にある看板の地図には、頭上にある橋を渡れと書いてあるようだ。何度も見比べた結果、やっと分かった。一度信号を渡って道の向こう側へ行き、坂を上って一階分くらい上に行くと、橋へ行ける。この橋で、今渡った道路の上を行くと、そこが金沢城公園の入り口なのである。つまり、さっき入れなかった看板のある場所の、ちょうど真上が入り口だったのだ。
 橋の上から写真をパチリ。この橋は石川橋というらしく、これから通るのは石川門だ。門は白っぽい灰色の瓦屋根で、かっこいい。
 門の周りには木が多い。木でほぼ隠れているが、黒っぽい門の壁には白い格子模様があって、江戸時代らしい雰囲気がある。ふと気になって180度振り返ると、そっちにも木がたくさんあって、しかもかっこいい。高い木も低い木もバランス良く植えてあって、そして丸く刈り込まれている植木が並んでいる。まるで緑の雪が積もったかのように、まろやかな形の植木がいくつも並んでいるのだ。こちらは、昨日訪れた兼六園である。そうか、ここが正面の入り口だったのだな。
 そしてまた180度回転して石川門の方を向く。それにしても、どんより雲がまたかっこよさを引き立てている気がする。
 門をくぐると、立派な石垣が目に入った。ゴツゴツしている部分と、すべすべしている部分とがある。石の色は灰色、砂色、赤っぽいベージュ色と、色とりどりだ。そして、もう一つ門をくぐり、くぐった先は広々とした公園だった。コンクリートの地面には、水たまりが多くある。その向こうには青々とした芝生があった。だだっ広い。写真を撮るも、何だか写真では伝わらないこの広さ。芝生の縁(へり)に沿って歩いて行くと、その向こうにお堀があった。お堀の水と城の建物、水に映った雲が美しい。こちらでも写真をパチリ。雲間から覗く青空が、水にも映っている。色んな色が混ざっている風景なのに、一番目立っているのは青空のスカイブルーだ。面積の問題ではなく、一番色鮮やかだからだろうか。
 その横に、石垣のサンプルが展示してあった。石垣はこうして出来ている、という説明書きと共に。ここでも写真を撮る。
 さて、これからどこへ行こうか。スマートフォンでガイドブックの地図を見る。そういえば、ガイドブックは「まっぷる」の「北陸金沢」という本を持って来ているが、それはスーツケースに入れてある。今はホテルの部屋の中である。まっぷるは、購入するとスマートフォンのアプリに無料で、その本のデータをダウンロードする事が出来る。よって、今はその、スマートフォンにダウンロードした、まっぷるの地図を見ているのである。
 地図を見て、今どこにいて、次はどこへ向かえばいいのかと考えていると、私よりも少し年上と思われる女性が近づいて来た。
「何かお困りですか?」
ボランティアガイドの方だった。そう書いてあるバッジをしている。別に困っているわけでもなかったが、せっかく聞いてくれたので、
「次にどこへ行こうかと思って。」
と言ってみる。そうしたら、
「今公開中の重要文化財がね……。」
と、色々教えてくれた。そして、
「どちらからいらしたんですか?」
と聞かれた。
「東京です。」
と答えると、
「あら、先ほどの方も東京でしたよ!あと、千葉の方もいましたね。関東からのお客さんが多いわね!」
と言う。
「今、近くなりましたからね。北陸新幹線が出来たから。」
と私が言うと、
「ああ、そうですねえ。」
とおっしゃっていた。まあ、関東は人口が多いので、日本全国どこでも、関東からの観光客が多いのは当たり前のような気もするが……いや、近場からの客が多いのが普通なのか?
 お礼を言って、そのガイドの方と別れた。そして私は思った。今、指輪を外している。今までの所、結婚指輪をしていると人から話しかけられる事がなく、していないと話しかけられるという現象が起きている。偶然だろうか。もしや、指輪をしていない方が話しかけやすいとか?そんな事があるだろうか。男性がナンパ目的で話しかけるのであれば、結婚指輪の存在は大きな違いを生むだろうが、恋愛要素ゼロの場合、関係があるだろうか。一人で寂しそうならば話しかけてあげるが、連れがいる人には話しかけない方がいい、などというバイアスが、働いたりするのだろうか。
 私はこの感染症禍になってから、結婚指輪をほとんどしなくなった。アルコールで手の消毒をする事が多いから。プラチナはアルコールを付けても変わらないのだろうが、何だか指輪と指との隙間にバイ菌が入り込み、そこはよく消毒されずに残っているのではないか、などと考えてしまって。でも、一応一人で旅行するにあたり、結婚指輪はしていた方がいいかなぁと思って、今回はしてきた。だが、今日は頭痛もあって指輪は外してきたのだ。その事と、人から声を掛けられる事と、何か関係があるのか。謎である。
 さてさて、教えてもらった重要文化財を目指そう。ガイドさんの話によると、先ほどくぐった石川門も重要文化財で、ただ今公開中だとか。うーん、くぐっただけではダメだったのか?そういえば、ここまで来る途中に「石川門→」という看板を見たけれど、もしかして、普段は見られない何かが公開されていたのだろうか。そんな事に、今になって気づいたものの、とにかくそれはスルーする。だって、また戻るのは何だか……かったるい。よって、教えてもらった「鶴丸倉庫」へと歩みを進める。
 お子様連れもちらほら。基本的に観光客はまばらである。今日は18日木曜日だ。そろそろお盆休みの人も減ってきたという事だろうか。
 鶴丸倉庫に到着し、靴を脱いで中に入る。湿気が多いからか、開けっ放しの建物内では扇風機が作動していた。倉庫なので基本何もない。だだっ広い空間だ。とにかく中を見て、出る。
 次に、やはり重要文化財だと教えてもらった「三十三間長屋」へ向かう。その途中、古いトンネルのような物が木々の向こうに見えた。先ほど橋を渡った時に、2階くらいの高さだった事からも分かるように、ここはちょっとした山なのだ。山を切り開いた形で城が存在していて、その周りは山。その山の中にひっそりとトンネルがあって、手前に小さい看板が立っていた。ここは戦時中に軍の施設として使われていたそうで、その時のトンネルが残っているそうだ。
 三十三間長屋は、三十三間の長さの建物だ。やはり靴を脱いで上がり、端から端まで歩いてみた。2階建てなので、中の階段も上ってみた。薄暗かった。やはり子供が何人かいた。中に面白い物があるわけでもなく、外から見るだけでもいいような気も、しなくもない。
 三十三間長屋を出て、次は一番大きい建物へ。ここだけは入場料がかかる。「菱櫓(ひしやぐら)・五十間長屋・橋爪門続櫓(はしづめもんつづきやぐら)・橋爪門」と書いてある入場券を買って中へ。入場料は320円だった。横に長い建物で、つまりは五十間の長さがあり、その両端に櫓があるわけで、ひたすら長く歩いた。櫓部分には階段があり、2階に上れたが、そこの窓からの景色がとても綺麗だった。例の芝生が目の前に広がり、遠くには山の稜線が青く見え、今日の天気のせいで積雲がもくもくと連なり、雄大さを添えている。反対側の窓からは、工事中の様子が見え、一面に白い幕が掛けられている。何か新しい物が出来るのだろうか。窓から入り込んだ風がよく通り、心地よかった。見晴らしが良いというのは風通しも良いという事だな。
 建物を出て、チケット売り場の横のベンチに腰を下ろした。ちょっと疲れた。たまに雨がざっと降り、時々日が差す。まさに晴雨兼用傘が大活躍の日である。風も強い。さて、どこを通って次へ行こうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

世界の終わりにキミと

フロイライン
エッセイ・ノンフィクション
毎日を惰性で生きる桐野渚は、高級クラブの黒服を生業としていた。 そんなある日、驚くほどの美女ヒカルが入店してくる。 しかし、ヒカルは影のある女性で、彼女の見た目と内面のギャップに、いつしか桐野は惹かれていくが…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...